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第11章 文明の波と消えゆくもの達と
第325話 廃虚で眠りにつくと
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夜になって、オレとテルモー達は廃虚の建物の中で一緒に眠ることになった。
さすがに長旅で疲れているのか、テルモー達はすぐに眠りについたようだ。
魔法の【疲労回復】でこれまでも疲労を消してはきたが、やっぱり限度はある。
いかに『明日をも知れぬ放浪の狩猟生活』が当たり前の『二本足の狼』とは言えど、いつなんどき人間達から襲われ、命を奪われるかもしれない危険な状況で長旅を続けてきたのは少々応えたようだ。
「ふう……まったく無防備に寝てしまって……困ったもんだ」
オレは熟睡しているテルモーの寝顔を見つめつつ、少しばかり苦笑する。
まあ何というか『男は狼』だとはよく言われるが、本当に『狼人間』と一緒の場合、襲われないのは何とも皮肉な話だ ―― それでも『獣姦扱い』になるのは納得しがたいが、そこは今さらツッコんでも仕方ない。
ただテルモーやミキューにとっては人間と交わるのは禁忌にしても、同じ『二本足の狼』同士でありながら、異宗派故に敵対するこの二人の場合はどうなるのだろうか。
これまでの険悪な雰囲気から敢えて聞き出そうとは思わなかったけど、少なくとも彼らは互いを『人間』相手とはまた別に考えているようだから、このまま仲良くやっていけるように関係が進展していってくれると思いたい。
もちろんオレの希望に過ぎないけど、たまには望み通りに展開してくれたってバチはあたらないだろう。
こんなかつて栄えていた街の廃虚だったら、よくあるパターンならば危険はあっても貴重なマジックアイテムだとか、いろいろなお宝が眠っていたりするものだけど、オレはそんなご大層なものは望みません。
本当にただちょっとばかり文明世界に追われ、追い詰められ、滅ぼされかねない人達にとっての安息の地があればいいんです。
どっちにしてもここがその安息の地になり得る事を確認するためには、まだしばらく調べないといけないだろう。
そんなわけでオレもそろそろ眠りにつくことにした。
周囲には警戒のためにオレが魔法の結界を張っているので、人間であれ霊体であれ、近づいてきたら警報を鳴らすようになっているのでそこは安心だ。
テルモー達と同様にこっちも長旅で疲れていた事もあって、オレはすぐに眠りについた。そして――
オレの意識が覚醒した時、周囲はどういうわけかかなり騒がしくなっていた。
明らかに大勢の人間が、近くで活動、というよりは生活している様子だ。
そこで周囲を見回すと、テルモー達の姿はなく、オレは小綺麗な建物の中にいた。
なんとなく分かるが、これは夢だ。
そして周囲の光景は、たぶんこの廃虚が栄えていた時分のものだろう。
オレはここで自分の身を見下ろすが、いつもと同じアルタシャの身のままだ。
うう。夢の中でも女の身であるのが当たり前なのか。
ちょっとばかり落胆するが、それでもあんまりショックに感じないほどこの身になれてしまった気がするな。
それはともかく気分を切り換えて考えれば、これがただの夢ではないのは間違いない。
以前にチャラーナ・イロールと夢の中で何度か出会ってきたが、それと似たような感覚があった。
またそれとは別に今まで接触してきた、精霊の類いの記憶がオレの脳裏に流れ込んできた事も何度かあるが、それにも近い雰囲気があるな。
いや。ひょっとしたらこの街を作り上げたウルハンガがオレにかつての栄光を見せたいと思っているのかもしれない。
それとももっと別の何かがしゃしゃり出て来たのか。
どっちにしてもオレがここに住むワケではないし、夢なんだからいろいろと見せてもらうとしよう。
もっともありがちなパターンだと、夢の世界で命を落としたら現実世界でも死ぬか、二度と目が覚めない事になってしまうので、行動は慎重にするべきだろう。
更にロクでもない展開だと、この廃虚に棲まう何者かが、二度と出られない悪夢を見せて精神を攻撃しているなんて場合もあるからな。
そんなわけでオレが建物から顔を出して周囲を見回すと、思った通りそこから見える光景は昼間見た建物の残骸とかなり重なるものがあった。
そして石畳でつくられた道を大勢の人間が動き回っている。
ただし服装はこれまでこの世界で見てきたものと大きく異なっていて、大多数の人間が獣を彷彿とさせるものを身にまとっている。
中には動物の頭部をかたどった兜をかぶっている人間も少なくは無い。
やっぱり思った通り、この地ではかつてそれなりに文明化され、組織化された『動物精霊への崇拝』が行われていたようだ。
今まではテルモーやミキュー達の良くも悪くも素朴で単純な有り様をずっと見てきたから、かなり違和感がある。
しかしテルモー達の伝説の英雄である『吠え猛るもの』は大軍勢を引き連れ、周囲の征服に乗り出したと言っていたから、そのために指導者として『二本足の狼』をとりまとめて組織化したのだろうな。
いや。見たところ狼だけでなく、他の動物をかたどった格好をしている者も大勢いることから、いろいろな動物精霊の崇拝者が集まり、その力でもって協力していたようだ。
たぶんウルハンガはそれを手助けするだけでなく、思想面で組織化を支えたに違いない。
だけどこれが本当に過去の光景だとしたら、いったいどうしてこの街が滅びて今のような廃虚と化したのだろうか。
ミキューが言っていたように英雄の『吠え猛るもの』が戦争で敗れた結果に過ぎないのか、それとも別の何か秘密があるのか。
オレは一つの疑問と共に夢の光景を凝視していた。
さすがに長旅で疲れているのか、テルモー達はすぐに眠りについたようだ。
魔法の【疲労回復】でこれまでも疲労を消してはきたが、やっぱり限度はある。
いかに『明日をも知れぬ放浪の狩猟生活』が当たり前の『二本足の狼』とは言えど、いつなんどき人間達から襲われ、命を奪われるかもしれない危険な状況で長旅を続けてきたのは少々応えたようだ。
「ふう……まったく無防備に寝てしまって……困ったもんだ」
オレは熟睡しているテルモーの寝顔を見つめつつ、少しばかり苦笑する。
まあ何というか『男は狼』だとはよく言われるが、本当に『狼人間』と一緒の場合、襲われないのは何とも皮肉な話だ ―― それでも『獣姦扱い』になるのは納得しがたいが、そこは今さらツッコんでも仕方ない。
ただテルモーやミキューにとっては人間と交わるのは禁忌にしても、同じ『二本足の狼』同士でありながら、異宗派故に敵対するこの二人の場合はどうなるのだろうか。
これまでの険悪な雰囲気から敢えて聞き出そうとは思わなかったけど、少なくとも彼らは互いを『人間』相手とはまた別に考えているようだから、このまま仲良くやっていけるように関係が進展していってくれると思いたい。
もちろんオレの希望に過ぎないけど、たまには望み通りに展開してくれたってバチはあたらないだろう。
こんなかつて栄えていた街の廃虚だったら、よくあるパターンならば危険はあっても貴重なマジックアイテムだとか、いろいろなお宝が眠っていたりするものだけど、オレはそんなご大層なものは望みません。
本当にただちょっとばかり文明世界に追われ、追い詰められ、滅ぼされかねない人達にとっての安息の地があればいいんです。
どっちにしてもここがその安息の地になり得る事を確認するためには、まだしばらく調べないといけないだろう。
そんなわけでオレもそろそろ眠りにつくことにした。
周囲には警戒のためにオレが魔法の結界を張っているので、人間であれ霊体であれ、近づいてきたら警報を鳴らすようになっているのでそこは安心だ。
テルモー達と同様にこっちも長旅で疲れていた事もあって、オレはすぐに眠りについた。そして――
オレの意識が覚醒した時、周囲はどういうわけかかなり騒がしくなっていた。
明らかに大勢の人間が、近くで活動、というよりは生活している様子だ。
そこで周囲を見回すと、テルモー達の姿はなく、オレは小綺麗な建物の中にいた。
なんとなく分かるが、これは夢だ。
そして周囲の光景は、たぶんこの廃虚が栄えていた時分のものだろう。
オレはここで自分の身を見下ろすが、いつもと同じアルタシャの身のままだ。
うう。夢の中でも女の身であるのが当たり前なのか。
ちょっとばかり落胆するが、それでもあんまりショックに感じないほどこの身になれてしまった気がするな。
それはともかく気分を切り換えて考えれば、これがただの夢ではないのは間違いない。
以前にチャラーナ・イロールと夢の中で何度か出会ってきたが、それと似たような感覚があった。
またそれとは別に今まで接触してきた、精霊の類いの記憶がオレの脳裏に流れ込んできた事も何度かあるが、それにも近い雰囲気があるな。
いや。ひょっとしたらこの街を作り上げたウルハンガがオレにかつての栄光を見せたいと思っているのかもしれない。
それとももっと別の何かがしゃしゃり出て来たのか。
どっちにしてもオレがここに住むワケではないし、夢なんだからいろいろと見せてもらうとしよう。
もっともありがちなパターンだと、夢の世界で命を落としたら現実世界でも死ぬか、二度と目が覚めない事になってしまうので、行動は慎重にするべきだろう。
更にロクでもない展開だと、この廃虚に棲まう何者かが、二度と出られない悪夢を見せて精神を攻撃しているなんて場合もあるからな。
そんなわけでオレが建物から顔を出して周囲を見回すと、思った通りそこから見える光景は昼間見た建物の残骸とかなり重なるものがあった。
そして石畳でつくられた道を大勢の人間が動き回っている。
ただし服装はこれまでこの世界で見てきたものと大きく異なっていて、大多数の人間が獣を彷彿とさせるものを身にまとっている。
中には動物の頭部をかたどった兜をかぶっている人間も少なくは無い。
やっぱり思った通り、この地ではかつてそれなりに文明化され、組織化された『動物精霊への崇拝』が行われていたようだ。
今まではテルモーやミキュー達の良くも悪くも素朴で単純な有り様をずっと見てきたから、かなり違和感がある。
しかしテルモー達の伝説の英雄である『吠え猛るもの』は大軍勢を引き連れ、周囲の征服に乗り出したと言っていたから、そのために指導者として『二本足の狼』をとりまとめて組織化したのだろうな。
いや。見たところ狼だけでなく、他の動物をかたどった格好をしている者も大勢いることから、いろいろな動物精霊の崇拝者が集まり、その力でもって協力していたようだ。
たぶんウルハンガはそれを手助けするだけでなく、思想面で組織化を支えたに違いない。
だけどこれが本当に過去の光景だとしたら、いったいどうしてこの街が滅びて今のような廃虚と化したのだろうか。
ミキューが言っていたように英雄の『吠え猛るもの』が戦争で敗れた結果に過ぎないのか、それとも別の何か秘密があるのか。
オレは一つの疑問と共に夢の光景を凝視していた。
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