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第8章 ライバンス・魔法学院編
第173話 相手の正体が分かってみれば
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しばしの後、オレは壁に繋がれた状態で覚醒する。
どうやらイロールがオレの意識の中に現れて、何らかの助力をしてくれるわけではないようだ。
あの女神が今でもオレの命に関わる危機だと思っていないのか、それとも単純に放置されてしまっているだけなのか。
いや。たぶん今のオレを助けるような事がそもそも出来ない可能性が高いな。
どうやらあの女神はオレが力尽きた時にのみ出て来て、ちょっとばかり力を分けてくれるぐらいしか当てに出来ないらしい。
しょっちゅうしゃしゃり出てこられるのも困りものだが、明らかにピンチにあっても、オレが力尽きてなかったら放置というのはどうなんだ。
ひょっとするとオレが死んだら、そこで彼女の身元に送られてくるから、どっちでもいいと思っているのかもしれない。
英雄が死後、神様になるなんて珍しくも何とも無い話だけど、やっぱりオレはそんな末路は辿りたくはない。
まあいいよ。あんな女神なんてどのみち当てになんかしていなかったから。
本当にオレは全然気にしていない ―― と言いたいけど、やっぱり心の片隅にほんのちょっとは『困った時の神頼み』の意識があったことは否定出来ない。
ええい。ここはオレ一人の力でどうにかしろという事だと発想を切り替えるとしよう。
しかし相変わらずオレの手足は拘束されたままで、当然ながら魔法を唱える事は出来ない状態だ。
この学園が魔法研究のメッカなのだから、当然それぐらいはわかりきっているのだろう。
オレの魔力を察知出来るガランディアなら、こっちの居場所を見つけ出して、ホン・イール達と一緒に助けに来てくれたかも知れない。
そう考えると本当につくづくハーレム野郎だけど、そのガランディアもオレと一緒に捕まっているとすれば、こっちに駆けつける事も出来ないはずだから、こっちにとっては胸をなで下ろすところだろうか。
いやいや。結局、脱出の見込みがないことがハッキリしただけなので、こっちは落ち込むべきところだろう。
そんな事を考えていると、牢屋の扉が開いて数人の人影が入ってくる。
全員が顔を隠し、まるで型にはめたかのように同じような姿をしていた。
そして連中は揃ってオレの身柄を拘束し、オレは牢屋から引っ立てられる事となった。
今のオレはさしずめ処刑場に護送される囚人も同じ扱いだな。
「あのう……これからどうなるんですか?」
「……」
返ってきたのは沈黙だけだった。どうやらオレの相手をする気は一切無いらしい。
オマケに手足は拘束された上に、複数人で油断無く見張られていて、こっちに魔法を絶対に唱えさせない体制になっている。
これでは万一、拘束がゆるんだとしても魔法でこいつらをどうにかするのは無理だ。
こうなっては覚悟を固めて付き合うしかないだろう。
しばしの後、オレは大勢の人間が待っていた、薄暗くかなり広い部屋へと連れ込まれる事となった。
正面には昨日、こっちをいろいろと弄んだ男が立っていて、手を広げてオレを出迎える。
「よく来てくれたな。感謝するぞ」
「……」
「どうした? 昨日合ったときに比べて随分とおとなしいな。あの部屋はお気に召さなかったのかな」
「いえいえ。今からでも戻してもらえるなら、喜んで戻りますよ」
軽口は叩いてみたものの、正直に言えばオレは少しばかりひるんでいた。
それはいろいろな理由があるけど、一番のところここが実は『聖女教会で女にされてしまった時の儀式部屋』と似た雰囲気があったからだ。
しかしオレはここで勇気を振り絞って、気になっていた事を問いかける。
「改めて聞きますけど、ガランディアさんはどうなっているんですか?」
「言ったはずだ。彼は無事だとな。そんなに気になるとはやはり――」
「そういう話はいいです」
オレは反射的に話を打ち切ったが、少しばかり気にかかる事があった。
むしろ恋仲だと強調して、オレがこの件に深入りさせないようにしているような感覚があったのだ。
「それでこれからどうするつもりなんですか? せめて何があるのか説明してください」
「実はこちらも少々急いでいるのでな。あまり細かくは教えられんのだ」
急いでいるのはやっぱりホン・イール達が動いてくれているからだろうか。
しかし周囲の連中の様子からして、やっぱりこいつがリーダーらしいな。
だがそれにしては妙な気がするぞ。
リーダー自身がオレを調べに来る事はさほど不思議でもないのだが、昨日オレを触った手は明らかに若い男のものだった。
いくら何でも個人を特定する事は出来ないけど、あれだけ全身お触りされたらだいたいの年齢ぐらいは分りますよ。
もしもオレが数百年の歴史で初めての貴重な実験素材だとしたら、そのリーダーが若造などとはいくら何でもおかしいだろう。
しかもその若い男がこのオレの身体を触って、何の肉欲も示さないとはいくら何でも不自然じゃないか。
ホンのちょっとだけガランディアがこいつらの手先かと妄想はしたが、あいつだったらオレの身体にお触りして、無反応というのはあり得ないだろう。
しかしオレの感覚が間違っていないとしたら、このリーダーの正体はなにものか ―― ああ! まさか?!
あまりにも突拍子もなかったので想像の埒外に置いていたけど、この世界だったら一つの可能性がありうる。
そしてそれなら今までの違和感が全部説明出来る。
眼前にそびえる相手をマジマジと見つめつつ、オレは自分の出してしまった結論に思わず打ちのめされていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
オレの顔を見てリーダーは少しばかり興味をそそられた様子で問いかけてくる。
「どうした? 何に驚いている?」
「あなたは、いえ、あなたの正体はここの守護精霊であるビューゼリアンですね?」
この質問に対し、相手は特に驚いた様子を見せなかった。
「ビューゼリアンはこの学園の守護精霊だが、我でない事は間違いない。なぜなら学園に縛られた精霊である以上、肉体を持つ事は出来ないからだ」
「こっちも最初はそう思ってましたよ。だけどそれにしては言葉の端々にそれを彷彿とさせるものがありましたからね」
オレに対して『そんな欲望を無くした』とこぼすなど、冷静に考えれば十分にそれはあり得た話だった。
ただ守護精霊としてこの学園に呪縛されているはずのビューゼリアンが肉体を持って、オレの前に姿を見せているとは思えなかった。
だけどそれでもこの結論に達したのは、散々身体をまさぐられた結果なのだから、これは皮肉としかいいようがないだろう。
「仮にその通りだとしてだ、たまたまの一致だとは思わなかったのかね?」
「もちろん最初はそう思いましたよ。だけどあなたが数百年に渡る疑問に答えをもたらすような重要な実験のリーダーにしては若すぎるので、そこが引っかかっていたんです」
ここでリーダーの顔には怪訝な表情が浮かぶ。予想外の返答だったらしいが、外見を装っているとしたら、たぶんそのように見える術なのだろう。
敢えて言えば幻術と心術の双方を掛け合わせて、不自然にならないようにしているのではないだろうか。
「見た目は相応の年齢に見えるように幻術を使っていますね? だけどこっちの身体を触った手は若い男のものでしたよ」
このツッコミに相手は自分の手をじっと見て、そこで小さくため息をつく。
「なるほど。生身の肉体を使うのは本当に久しぶりだったからそこは盲点だったな」
どうやらごまかすのは諦めたらしい。
「その身体……ガランディアのものですよね? あなたが憑依して、乗っ取ったんじゃないんですか?」
「それは少し違うな。我はあくまでもこの学園に呪縛されているから、人間の身体に憑依する事は出来ない。敢えて言えば少しばかりこちらの一部を送り込んで、遠隔操作しているようなものだな」
どっちにしてもろくなもんじゃねえ!
身体を乗っ取っているのに変わりないし、そんな事を堂々と宣言するなよ。
「しかしなぜそこでガランディアの身体を使ったのですか?」
「そなたの思い人の身体を使ったのがそれほどショックだったか」
だから違うっつうの!
「ひょっとしてあの少年に身体を弄られるに慣れていて、それ故に気付いたのかね?」
「そんな事一度だってありませんよ! いい加減にして下さい!」
思わず声を荒げたが、ひょっとするとビューゼリアンはやっぱりその誤解のためにガランディアの身体を乗っ取ったのか?
いや。おかしいぞ。仮にオレを言いなりにするためにガランディアの身を使い『人質』にしたのなら、それを黙っているはずがない。
ビューゼリアンはオレが見抜いた事を意外に思っているようだが、正体が露見したのは特に気にしてはいないようだ。
「どうせ使うなら老いさらばえたものよりも若く精悍な肉体の方がいい、というのは間違いないが、別の理由も存在しているとも」
「それはガランディアさんがガーランドの末裔だから……そしてそれ故に有する生来の魔力が目当てだって事ですね。だからわたしとガランディアさんの二人を一緒にさらったわけですか」
「そこまで知っているなら話は早い」
ガランディアを操っているビューゼリアンは小さく頷く。
「このものは他者の魔力を感知し、その相手が有する魔法をコピーする事が出来るが、それはあくまでの本人の有する魔力の枠内でのみ可能となることだった。それ故にまだまだ半人前の魔力では出来る事などごく限られる」
「それではこちらの魔力をガランディアに注ぎ込んで、魔力を増やそうというのですか?」
「そう思うかね? そなたほどの力の持ち主にしては少々短絡的な発想だな」
オレはチートで魔法は使えるが、理論的な事はほとんど分からない。
だから他者の魔力を送り込む事が出来るのかどうかはしらないが、そういう話はフィクションではありがちだからきっと可能なのだろう。
しかし普通に考えれば、そんなことをしても魔力は一時的に増大するに過ぎないし、もっと言えばその程度の事なら、オレを実験材料にしなくても可能だろう。
「たぶん違うでしょう。もっと大きな事をしようと思っているのではありませんか?」
「当然だとも。数百年に一度得られるかどうかという貴重極まりない実験材料を使うのだ。相応の成果を上げてもらわねば、我が最後の実験にふさわしくあるまい」
「最後……ですか?」
以前に聞いたところでは、精霊は無限に生きられるわけではないにしても、まだビューゼリアンは消えるまで二十年はかかるはずだったのでは?
「今回の実験では恐らく我の力をほぼ使い果たすだろう。もちろんそれは覚悟の上だ。研究者として最後に最高の業績を残せるならば、何も怖いものなど無い」
あんたにとっては自分自身がどうなろうと知っちゃこっちゃないのだから、当然のごとくオレやガランディアがどうなろうと構わないということなのか。
自分を『善』『正義』だと正当化する奴らには掃いて捨てるほど出会ってきたが、こういう行き着くところまで行ってしまった『バカ』に出会ったのは初めてな気がする。
元々の性格がこれなのか、それともこの学園に呪縛されて百年やそこら過ごしたからこうなったのかは分らないが、精霊になっても道を踏み外すヤツは踏み外すんだな。
自分やガランディアの置かれた状況を考えれば、少々どころでない間の抜けた感想を抱きつつ、オレは自らの存亡を賭けているらしいビューゼリアンと対面していた。
どうやらイロールがオレの意識の中に現れて、何らかの助力をしてくれるわけではないようだ。
あの女神が今でもオレの命に関わる危機だと思っていないのか、それとも単純に放置されてしまっているだけなのか。
いや。たぶん今のオレを助けるような事がそもそも出来ない可能性が高いな。
どうやらあの女神はオレが力尽きた時にのみ出て来て、ちょっとばかり力を分けてくれるぐらいしか当てに出来ないらしい。
しょっちゅうしゃしゃり出てこられるのも困りものだが、明らかにピンチにあっても、オレが力尽きてなかったら放置というのはどうなんだ。
ひょっとするとオレが死んだら、そこで彼女の身元に送られてくるから、どっちでもいいと思っているのかもしれない。
英雄が死後、神様になるなんて珍しくも何とも無い話だけど、やっぱりオレはそんな末路は辿りたくはない。
まあいいよ。あんな女神なんてどのみち当てになんかしていなかったから。
本当にオレは全然気にしていない ―― と言いたいけど、やっぱり心の片隅にほんのちょっとは『困った時の神頼み』の意識があったことは否定出来ない。
ええい。ここはオレ一人の力でどうにかしろという事だと発想を切り替えるとしよう。
しかし相変わらずオレの手足は拘束されたままで、当然ながら魔法を唱える事は出来ない状態だ。
この学園が魔法研究のメッカなのだから、当然それぐらいはわかりきっているのだろう。
オレの魔力を察知出来るガランディアなら、こっちの居場所を見つけ出して、ホン・イール達と一緒に助けに来てくれたかも知れない。
そう考えると本当につくづくハーレム野郎だけど、そのガランディアもオレと一緒に捕まっているとすれば、こっちに駆けつける事も出来ないはずだから、こっちにとっては胸をなで下ろすところだろうか。
いやいや。結局、脱出の見込みがないことがハッキリしただけなので、こっちは落ち込むべきところだろう。
そんな事を考えていると、牢屋の扉が開いて数人の人影が入ってくる。
全員が顔を隠し、まるで型にはめたかのように同じような姿をしていた。
そして連中は揃ってオレの身柄を拘束し、オレは牢屋から引っ立てられる事となった。
今のオレはさしずめ処刑場に護送される囚人も同じ扱いだな。
「あのう……これからどうなるんですか?」
「……」
返ってきたのは沈黙だけだった。どうやらオレの相手をする気は一切無いらしい。
オマケに手足は拘束された上に、複数人で油断無く見張られていて、こっちに魔法を絶対に唱えさせない体制になっている。
これでは万一、拘束がゆるんだとしても魔法でこいつらをどうにかするのは無理だ。
こうなっては覚悟を固めて付き合うしかないだろう。
しばしの後、オレは大勢の人間が待っていた、薄暗くかなり広い部屋へと連れ込まれる事となった。
正面には昨日、こっちをいろいろと弄んだ男が立っていて、手を広げてオレを出迎える。
「よく来てくれたな。感謝するぞ」
「……」
「どうした? 昨日合ったときに比べて随分とおとなしいな。あの部屋はお気に召さなかったのかな」
「いえいえ。今からでも戻してもらえるなら、喜んで戻りますよ」
軽口は叩いてみたものの、正直に言えばオレは少しばかりひるんでいた。
それはいろいろな理由があるけど、一番のところここが実は『聖女教会で女にされてしまった時の儀式部屋』と似た雰囲気があったからだ。
しかしオレはここで勇気を振り絞って、気になっていた事を問いかける。
「改めて聞きますけど、ガランディアさんはどうなっているんですか?」
「言ったはずだ。彼は無事だとな。そんなに気になるとはやはり――」
「そういう話はいいです」
オレは反射的に話を打ち切ったが、少しばかり気にかかる事があった。
むしろ恋仲だと強調して、オレがこの件に深入りさせないようにしているような感覚があったのだ。
「それでこれからどうするつもりなんですか? せめて何があるのか説明してください」
「実はこちらも少々急いでいるのでな。あまり細かくは教えられんのだ」
急いでいるのはやっぱりホン・イール達が動いてくれているからだろうか。
しかし周囲の連中の様子からして、やっぱりこいつがリーダーらしいな。
だがそれにしては妙な気がするぞ。
リーダー自身がオレを調べに来る事はさほど不思議でもないのだが、昨日オレを触った手は明らかに若い男のものだった。
いくら何でも個人を特定する事は出来ないけど、あれだけ全身お触りされたらだいたいの年齢ぐらいは分りますよ。
もしもオレが数百年の歴史で初めての貴重な実験素材だとしたら、そのリーダーが若造などとはいくら何でもおかしいだろう。
しかもその若い男がこのオレの身体を触って、何の肉欲も示さないとはいくら何でも不自然じゃないか。
ホンのちょっとだけガランディアがこいつらの手先かと妄想はしたが、あいつだったらオレの身体にお触りして、無反応というのはあり得ないだろう。
しかしオレの感覚が間違っていないとしたら、このリーダーの正体はなにものか ―― ああ! まさか?!
あまりにも突拍子もなかったので想像の埒外に置いていたけど、この世界だったら一つの可能性がありうる。
そしてそれなら今までの違和感が全部説明出来る。
眼前にそびえる相手をマジマジと見つめつつ、オレは自分の出してしまった結論に思わず打ちのめされていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
オレの顔を見てリーダーは少しばかり興味をそそられた様子で問いかけてくる。
「どうした? 何に驚いている?」
「あなたは、いえ、あなたの正体はここの守護精霊であるビューゼリアンですね?」
この質問に対し、相手は特に驚いた様子を見せなかった。
「ビューゼリアンはこの学園の守護精霊だが、我でない事は間違いない。なぜなら学園に縛られた精霊である以上、肉体を持つ事は出来ないからだ」
「こっちも最初はそう思ってましたよ。だけどそれにしては言葉の端々にそれを彷彿とさせるものがありましたからね」
オレに対して『そんな欲望を無くした』とこぼすなど、冷静に考えれば十分にそれはあり得た話だった。
ただ守護精霊としてこの学園に呪縛されているはずのビューゼリアンが肉体を持って、オレの前に姿を見せているとは思えなかった。
だけどそれでもこの結論に達したのは、散々身体をまさぐられた結果なのだから、これは皮肉としかいいようがないだろう。
「仮にその通りだとしてだ、たまたまの一致だとは思わなかったのかね?」
「もちろん最初はそう思いましたよ。だけどあなたが数百年に渡る疑問に答えをもたらすような重要な実験のリーダーにしては若すぎるので、そこが引っかかっていたんです」
ここでリーダーの顔には怪訝な表情が浮かぶ。予想外の返答だったらしいが、外見を装っているとしたら、たぶんそのように見える術なのだろう。
敢えて言えば幻術と心術の双方を掛け合わせて、不自然にならないようにしているのではないだろうか。
「見た目は相応の年齢に見えるように幻術を使っていますね? だけどこっちの身体を触った手は若い男のものでしたよ」
このツッコミに相手は自分の手をじっと見て、そこで小さくため息をつく。
「なるほど。生身の肉体を使うのは本当に久しぶりだったからそこは盲点だったな」
どうやらごまかすのは諦めたらしい。
「その身体……ガランディアのものですよね? あなたが憑依して、乗っ取ったんじゃないんですか?」
「それは少し違うな。我はあくまでもこの学園に呪縛されているから、人間の身体に憑依する事は出来ない。敢えて言えば少しばかりこちらの一部を送り込んで、遠隔操作しているようなものだな」
どっちにしてもろくなもんじゃねえ!
身体を乗っ取っているのに変わりないし、そんな事を堂々と宣言するなよ。
「しかしなぜそこでガランディアの身体を使ったのですか?」
「そなたの思い人の身体を使ったのがそれほどショックだったか」
だから違うっつうの!
「ひょっとしてあの少年に身体を弄られるに慣れていて、それ故に気付いたのかね?」
「そんな事一度だってありませんよ! いい加減にして下さい!」
思わず声を荒げたが、ひょっとするとビューゼリアンはやっぱりその誤解のためにガランディアの身体を乗っ取ったのか?
いや。おかしいぞ。仮にオレを言いなりにするためにガランディアの身を使い『人質』にしたのなら、それを黙っているはずがない。
ビューゼリアンはオレが見抜いた事を意外に思っているようだが、正体が露見したのは特に気にしてはいないようだ。
「どうせ使うなら老いさらばえたものよりも若く精悍な肉体の方がいい、というのは間違いないが、別の理由も存在しているとも」
「それはガランディアさんがガーランドの末裔だから……そしてそれ故に有する生来の魔力が目当てだって事ですね。だからわたしとガランディアさんの二人を一緒にさらったわけですか」
「そこまで知っているなら話は早い」
ガランディアを操っているビューゼリアンは小さく頷く。
「このものは他者の魔力を感知し、その相手が有する魔法をコピーする事が出来るが、それはあくまでの本人の有する魔力の枠内でのみ可能となることだった。それ故にまだまだ半人前の魔力では出来る事などごく限られる」
「それではこちらの魔力をガランディアに注ぎ込んで、魔力を増やそうというのですか?」
「そう思うかね? そなたほどの力の持ち主にしては少々短絡的な発想だな」
オレはチートで魔法は使えるが、理論的な事はほとんど分からない。
だから他者の魔力を送り込む事が出来るのかどうかはしらないが、そういう話はフィクションではありがちだからきっと可能なのだろう。
しかし普通に考えれば、そんなことをしても魔力は一時的に増大するに過ぎないし、もっと言えばその程度の事なら、オレを実験材料にしなくても可能だろう。
「たぶん違うでしょう。もっと大きな事をしようと思っているのではありませんか?」
「当然だとも。数百年に一度得られるかどうかという貴重極まりない実験材料を使うのだ。相応の成果を上げてもらわねば、我が最後の実験にふさわしくあるまい」
「最後……ですか?」
以前に聞いたところでは、精霊は無限に生きられるわけではないにしても、まだビューゼリアンは消えるまで二十年はかかるはずだったのでは?
「今回の実験では恐らく我の力をほぼ使い果たすだろう。もちろんそれは覚悟の上だ。研究者として最後に最高の業績を残せるならば、何も怖いものなど無い」
あんたにとっては自分自身がどうなろうと知っちゃこっちゃないのだから、当然のごとくオレやガランディアがどうなろうと構わないということなのか。
自分を『善』『正義』だと正当化する奴らには掃いて捨てるほど出会ってきたが、こういう行き着くところまで行ってしまった『バカ』に出会ったのは初めてな気がする。
元々の性格がこれなのか、それともこの学園に呪縛されて百年やそこら過ごしたからこうなったのかは分らないが、精霊になっても道を踏み外すヤツは踏み外すんだな。
自分やガランディアの置かれた状況を考えれば、少々どころでない間の抜けた感想を抱きつつ、オレは自らの存亡を賭けているらしいビューゼリアンと対面していた。
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