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第7章 西方・リバージョイン編
第125話 崇敬とセクハラの日々が「聖なる乙女」の現実です
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ケノビウスが結構、簡単にオレに魔法を教える気になったのは、もともとこの人が生きていた時は聖セルム教が最初に拡大の時期を迎えていた時だったので、見込みのある相手を引き込むためには結構簡単に魔法を教える方策をとっていたからなのだろう。
それを考えるとこの首輪が何百年も崇敬の対象として、飾られていただけだったのは、今のオレにとっては幸運だったと言うべきか。
そしてそれから数日、オレはケノビウスより魔法を学びつつ、カリル一行に引っ張られてジャニューブ河に沿った各地の街を回っていた。
もちろん行く先々で一般市民からオレが『偶像』として持てはやされる一方で、あちこちの寺院でお偉いさんに対面しては、いろいろと話をすることとなった。
その過程でのセクハラだの、さらし者にされた記憶の数々は思い出したくも無いが、それでもあちこちの事情を聞くことは出来た。
「仰るとおり聖戦を僭称する愚か者どもは、実に頭の痛い問題でして、我らも苦慮しているのですよ」
いつも通りオレがタティウスと共に対面した街の主任司祭は、こちらがまとっているドレスの『見えそうで見えないきわどいところ』をチラチラ見つつ、あんまり困ってはいない様子で話に応じている。
もちろん傭兵崩れの軍勢を全く気にしていない、というわけではないが、深刻な脅威とまでは思っていないのは、その態度の端々に浮かび上がっていた。
「やつらも早く立ち去ってくれればよいのですが、近隣の村々を襲ってそのせいで逃げ込んで来る者がいるのはこちらの悩みどころですよ」
何とも薄情な言いぐさだが、これまで訪れた都市でも厄介な連中を押しつけ合うかのように振る舞っており、要するに『自分の街が攻撃されなければそれでいい』というのが、連中の本音なのだろう。
そして認めたくない事だが、実に皮肉にもその意識を裏付けているのは、リバージョインで連中が撃退された一件だった。
もしあのときリバージョインが蹂躙されていれば、傭兵崩れが城壁に覆われた都市ですら攻め落とせる事が認識され、その危機意識からジャニューブ河沿いに点在する各都市が結束して連中と力を合わせて戦う事になったかもしれない。
しかしそうはならなかったために、各都市では『城壁の中にいれば大丈夫』という認識が広まっており『余所の村や小さな街が襲われている程度に過ぎないのなら、自分たちは関係ない』と思っているということだ。
そして戦うとなれば犠牲も出るし、金もかかる。
万一にも戦いに破れれば報復を招き、自分たちの街が攻撃対象になりかねないとなれば、積極的な行動に出ることを躊躇する気持ちはオレだって理解できる。
実際、噂によれば撃退されたことで連中の勢力は一時的にでも減退し、それによって実際に大きな街を襲う力は無くなったかもしれない。
だがそれ故にこそか、傭兵崩れの連中は小さな街や通りすがりの交易商達への襲撃を頻発させているらしく、犠牲は決して減ったわけではなく、むしろ増えているかもしれないのである。
もちろんオレがリバージョインの戦いで、街の防衛隊の手助けをした事は間違っていないと確信している。
ただしオレが『奴隷』になった原因でもあるので結構、後悔はしている ―― それは全く無意味だけど。
しかしそれが問題をより深刻化させてしまったのだとしたら、オレとしてはむしろ悩みが深まる事でもあった。
「それでは連中に対して、この街では特に何もしておられないのですかな?」
「もちろん奴らが攻めて来た時の準備は万端、調えておりますよ。それに評判高い『黄金の乙女』がおられるのなら何を心配する事がありましょうや」
うう。リバージョインでのオレの行動にはかなり尾ひれがついているのは間違いない。
そして恐らくカリル達は、積極的にそうなるように仕向けているのだろう。
「申し訳ありませんが、彼女はもとより我らはここに長居するわけには参りませんので、当てにされても困ります」
「それは残念ですね」
タティウスが司祭に釘を刺すと、相手も一応はそれに従う。
しかしあんまり警告を真剣に受け止めている様子は見受けられない。
こういう『敵を侮って高をくくる』のは『敗北フラグ』だと、どうにかして教えてやりたいところなのだが、そういうわけにはいかないのが厳しいところである。
そして司祭はその目に期待を込めて、オレにその身を寄せてくる。
「失礼ながら、あなた様のはめておられる『悔悛の首輪』に触ると、聖者ザーロンの祝福が得られると聞いております。よろしければお許しいただけますか?」
「……」
オレが沈黙していると、タティウスが小さく肩を押す。もちろん『付き合ってやれ』という意味である。
このデタラメな噂が広まっているせいで、首輪に触れさせて欲しいという連中は後から後から湧いてくるのだ。
中には本当に純粋な信仰心から、それを願っている人間もいるだろうけど、大半はどう見ても『首輪に触る』のを口実にオレにセクハラしたいとしか思えない。
これが単なる自意識過剰であればどれだけよかったか。
いや。ひょっとしたらカリル達がそれを意図的に広めているのかもしれない。
いずれにせよここ数日、そんな出来事が連続して起きたせいで、セクハラされるのにもどこか慣れてきた気がしてくる。
そしてこの日々の積み重ねが何の意味を持っているのか、そしてカリルの ―― というよりカリルを送り込んできた教団中央の思惑がどこにあるのか、それをオレが知るのはまだ先の話だった。
しばしの後、オレは司祭の別れ惜しむ声を受け寺院を後にする。
このとき正門の周囲ではオレを一目見ようと、大勢の市民が集まってきていた。
「おお! 出てこられたぞ!」
「なんとお美しい……」
「あの首輪に触らせてもらったら幸運が舞い込むそうだ」
「ワシが聞いたところでは、聖者様の祝福が得られるらしいぞ」
また無責任な噂が広まっているようだな。
本当にカリル達が広めたものか、はたまた勝手に増殖しているのかは知らないが、そんな話を耳にする都度、正直うんざりするだけだ。
「お願いでございます。是非ともそのお首に触らせて下さい!」
おい。アンタの場合はどうみても首輪ではなく、別のところに触ろうとしている魂胆が見え見えだぞ。
いまはそんな感じでオレに向けて殺到しようとする街の市民を、寺院の警備員がどうにか押しとどめている状態だ。
元の世界で言えば、アイドルに押し寄せるファンのようなものだろうか。
そしてここでオレが人々の耳目を集め、寺院の警備員をそれに忙殺させるのもオレに ―― 無理矢理に ―― 与えられた仕事の一つなのである。
仕方ないのでオレはこの場合、いつものごとくケノビウスの助言通りに『聖者ザーロンの教え』を唱えることにする。
「皆さん。聞いて下さい。外なる敵は内なる敵でもあります。魔物が人の心臓に食らいつくとき、他人の痛みは己の痛みと感じるのです。自身にその痛みを受け入れるのを聖なる義務として受け入れましょう。癒やされざる『創造主』の苦しみは我らの周囲の至る所にあります。その苦痛を習得する事は、生そのものを習得する道なのです」
オレの説法を聞いて周囲からはどよめきが起こる。
どこまで意味が分っているんだか知らないが、それでも何かご大層な事を唱えられると、敬意を表し、黙って聞き届けるのが『信徒の礼儀』ということなのかもしれない。
冷静に見ればあからさまに怪しいオレ達が、司祭達にも表だって疑われていない理由の一つが、こうやってケノビウスの言葉をオレがスピーカーになって、始終そらんじているからだろう。
警備員の皆さんが奮闘しているのに、内心頭を下げつつ、オレはどうにか群衆を振り切ったところでタティウスが感嘆の声をこぼす。
「いやはや。すごい人気ですな。正直に言えばここまでとは思いませんでした」
タティウスが我が事のごとく誇らしげに見えるのは、これが『カリルの正しさ』の証明だからなのだろうか。
振り回され不平不満を常時こぼしつつ、それでも彼女の事になると真摯かつ命がけで尽くすタティウスは従者の鑑だよ ―― 巻き込まれているこっちがうんざりするほどに。
「こっちは正直に言えば、一日でも早くやめさせてもらいたいです」
「お気持ちは分かりますよ。しかし小官が考えるところでは、あなたもなかなかに大したお人だと思いますよ」
「どういう意味ですか?」
「普通の人間ならば、あのように賞賛され、持ち上げられれば自分でもその気になるものですけど、あなたはまるでそんな様子がありませんな」
そりゃあそうでしょ。オレにとってこの姿は『本来の自分のものではない』のだから。しかも首輪をはめられて魔法を封じられ、奴隷同然の扱いですよ、
それを褒め称えられたところで、喜ぶわけがありません。
「こんな状況でも己を見失わずにいられるだけで、立派なものですよ。この評判からすればひょっとするとこれから何年かしたら、あなたも我が教団の誇る聖者の列に加えられるかもしれませんぞ」
タティウスは半ば冗談めかして言っているが、それでも『万一でも可能性はある』と思っているようだ。
ああ。女神だの、皇后だの、神様の嫁だのの次は聖者ですか。
タティウスはオレが首輪のケノビウスから助言されて説法していることを知らず、小娘の身で聖典に通じていると思っているのだろう。
そういうわけで簡単に言ってくれているのだろうけど、信仰に関わる書物の一冊すら読んだ事もなくて、発言がすべて首輪の受け売りでしかないオレが聖者なんて、皮肉にもほどがある。
こっちは羞恥のあまりもだえそうだよ。
「それだったらいっそ殉教のひとつもして、褒め称えられたまま死んだ方がよかったかもしれませんね」
オレの皮肉に対し、タティウスも苦笑する。
「そこまでしろとは申しません。ただ以前には『王家に輿入れ』の話をさせてもらいましたけど、また別の報酬もあるということですよ」
どっちもまったく欲しくもなければ、ありがたくもないけどね。
しかしタティウス達はそれを破格の報酬だと思っているのだから始末に負えない。『第五階級』からもらったダイヤモンドの件といい、オレにはこういう呪いでもかかっているのだろうか。
オレがそんな事で頭を悩ませていると、そこで改めて別行動をとっていたカリル達と合流する。
見ると連中は今回の寺院から回収した ―― ぶっちゃけ盗み出した ―― 物品をあれこれと調べているらしい。
これだけ持てはやされている『聖女』の正体が、実は『衆目を集めている内に、本当の査察官が寺院に忍び込むための囮』なんだから、オレ自身が人間不信になりそうな現実だった。
それを考えるとこの首輪が何百年も崇敬の対象として、飾られていただけだったのは、今のオレにとっては幸運だったと言うべきか。
そしてそれから数日、オレはケノビウスより魔法を学びつつ、カリル一行に引っ張られてジャニューブ河に沿った各地の街を回っていた。
もちろん行く先々で一般市民からオレが『偶像』として持てはやされる一方で、あちこちの寺院でお偉いさんに対面しては、いろいろと話をすることとなった。
その過程でのセクハラだの、さらし者にされた記憶の数々は思い出したくも無いが、それでもあちこちの事情を聞くことは出来た。
「仰るとおり聖戦を僭称する愚か者どもは、実に頭の痛い問題でして、我らも苦慮しているのですよ」
いつも通りオレがタティウスと共に対面した街の主任司祭は、こちらがまとっているドレスの『見えそうで見えないきわどいところ』をチラチラ見つつ、あんまり困ってはいない様子で話に応じている。
もちろん傭兵崩れの軍勢を全く気にしていない、というわけではないが、深刻な脅威とまでは思っていないのは、その態度の端々に浮かび上がっていた。
「やつらも早く立ち去ってくれればよいのですが、近隣の村々を襲ってそのせいで逃げ込んで来る者がいるのはこちらの悩みどころですよ」
何とも薄情な言いぐさだが、これまで訪れた都市でも厄介な連中を押しつけ合うかのように振る舞っており、要するに『自分の街が攻撃されなければそれでいい』というのが、連中の本音なのだろう。
そして認めたくない事だが、実に皮肉にもその意識を裏付けているのは、リバージョインで連中が撃退された一件だった。
もしあのときリバージョインが蹂躙されていれば、傭兵崩れが城壁に覆われた都市ですら攻め落とせる事が認識され、その危機意識からジャニューブ河沿いに点在する各都市が結束して連中と力を合わせて戦う事になったかもしれない。
しかしそうはならなかったために、各都市では『城壁の中にいれば大丈夫』という認識が広まっており『余所の村や小さな街が襲われている程度に過ぎないのなら、自分たちは関係ない』と思っているということだ。
そして戦うとなれば犠牲も出るし、金もかかる。
万一にも戦いに破れれば報復を招き、自分たちの街が攻撃対象になりかねないとなれば、積極的な行動に出ることを躊躇する気持ちはオレだって理解できる。
実際、噂によれば撃退されたことで連中の勢力は一時的にでも減退し、それによって実際に大きな街を襲う力は無くなったかもしれない。
だがそれ故にこそか、傭兵崩れの連中は小さな街や通りすがりの交易商達への襲撃を頻発させているらしく、犠牲は決して減ったわけではなく、むしろ増えているかもしれないのである。
もちろんオレがリバージョインの戦いで、街の防衛隊の手助けをした事は間違っていないと確信している。
ただしオレが『奴隷』になった原因でもあるので結構、後悔はしている ―― それは全く無意味だけど。
しかしそれが問題をより深刻化させてしまったのだとしたら、オレとしてはむしろ悩みが深まる事でもあった。
「それでは連中に対して、この街では特に何もしておられないのですかな?」
「もちろん奴らが攻めて来た時の準備は万端、調えておりますよ。それに評判高い『黄金の乙女』がおられるのなら何を心配する事がありましょうや」
うう。リバージョインでのオレの行動にはかなり尾ひれがついているのは間違いない。
そして恐らくカリル達は、積極的にそうなるように仕向けているのだろう。
「申し訳ありませんが、彼女はもとより我らはここに長居するわけには参りませんので、当てにされても困ります」
「それは残念ですね」
タティウスが司祭に釘を刺すと、相手も一応はそれに従う。
しかしあんまり警告を真剣に受け止めている様子は見受けられない。
こういう『敵を侮って高をくくる』のは『敗北フラグ』だと、どうにかして教えてやりたいところなのだが、そういうわけにはいかないのが厳しいところである。
そして司祭はその目に期待を込めて、オレにその身を寄せてくる。
「失礼ながら、あなた様のはめておられる『悔悛の首輪』に触ると、聖者ザーロンの祝福が得られると聞いております。よろしければお許しいただけますか?」
「……」
オレが沈黙していると、タティウスが小さく肩を押す。もちろん『付き合ってやれ』という意味である。
このデタラメな噂が広まっているせいで、首輪に触れさせて欲しいという連中は後から後から湧いてくるのだ。
中には本当に純粋な信仰心から、それを願っている人間もいるだろうけど、大半はどう見ても『首輪に触る』のを口実にオレにセクハラしたいとしか思えない。
これが単なる自意識過剰であればどれだけよかったか。
いや。ひょっとしたらカリル達がそれを意図的に広めているのかもしれない。
いずれにせよここ数日、そんな出来事が連続して起きたせいで、セクハラされるのにもどこか慣れてきた気がしてくる。
そしてこの日々の積み重ねが何の意味を持っているのか、そしてカリルの ―― というよりカリルを送り込んできた教団中央の思惑がどこにあるのか、それをオレが知るのはまだ先の話だった。
しばしの後、オレは司祭の別れ惜しむ声を受け寺院を後にする。
このとき正門の周囲ではオレを一目見ようと、大勢の市民が集まってきていた。
「おお! 出てこられたぞ!」
「なんとお美しい……」
「あの首輪に触らせてもらったら幸運が舞い込むそうだ」
「ワシが聞いたところでは、聖者様の祝福が得られるらしいぞ」
また無責任な噂が広まっているようだな。
本当にカリル達が広めたものか、はたまた勝手に増殖しているのかは知らないが、そんな話を耳にする都度、正直うんざりするだけだ。
「お願いでございます。是非ともそのお首に触らせて下さい!」
おい。アンタの場合はどうみても首輪ではなく、別のところに触ろうとしている魂胆が見え見えだぞ。
いまはそんな感じでオレに向けて殺到しようとする街の市民を、寺院の警備員がどうにか押しとどめている状態だ。
元の世界で言えば、アイドルに押し寄せるファンのようなものだろうか。
そしてここでオレが人々の耳目を集め、寺院の警備員をそれに忙殺させるのもオレに ―― 無理矢理に ―― 与えられた仕事の一つなのである。
仕方ないのでオレはこの場合、いつものごとくケノビウスの助言通りに『聖者ザーロンの教え』を唱えることにする。
「皆さん。聞いて下さい。外なる敵は内なる敵でもあります。魔物が人の心臓に食らいつくとき、他人の痛みは己の痛みと感じるのです。自身にその痛みを受け入れるのを聖なる義務として受け入れましょう。癒やされざる『創造主』の苦しみは我らの周囲の至る所にあります。その苦痛を習得する事は、生そのものを習得する道なのです」
オレの説法を聞いて周囲からはどよめきが起こる。
どこまで意味が分っているんだか知らないが、それでも何かご大層な事を唱えられると、敬意を表し、黙って聞き届けるのが『信徒の礼儀』ということなのかもしれない。
冷静に見ればあからさまに怪しいオレ達が、司祭達にも表だって疑われていない理由の一つが、こうやってケノビウスの言葉をオレがスピーカーになって、始終そらんじているからだろう。
警備員の皆さんが奮闘しているのに、内心頭を下げつつ、オレはどうにか群衆を振り切ったところでタティウスが感嘆の声をこぼす。
「いやはや。すごい人気ですな。正直に言えばここまでとは思いませんでした」
タティウスが我が事のごとく誇らしげに見えるのは、これが『カリルの正しさ』の証明だからなのだろうか。
振り回され不平不満を常時こぼしつつ、それでも彼女の事になると真摯かつ命がけで尽くすタティウスは従者の鑑だよ ―― 巻き込まれているこっちがうんざりするほどに。
「こっちは正直に言えば、一日でも早くやめさせてもらいたいです」
「お気持ちは分かりますよ。しかし小官が考えるところでは、あなたもなかなかに大したお人だと思いますよ」
「どういう意味ですか?」
「普通の人間ならば、あのように賞賛され、持ち上げられれば自分でもその気になるものですけど、あなたはまるでそんな様子がありませんな」
そりゃあそうでしょ。オレにとってこの姿は『本来の自分のものではない』のだから。しかも首輪をはめられて魔法を封じられ、奴隷同然の扱いですよ、
それを褒め称えられたところで、喜ぶわけがありません。
「こんな状況でも己を見失わずにいられるだけで、立派なものですよ。この評判からすればひょっとするとこれから何年かしたら、あなたも我が教団の誇る聖者の列に加えられるかもしれませんぞ」
タティウスは半ば冗談めかして言っているが、それでも『万一でも可能性はある』と思っているようだ。
ああ。女神だの、皇后だの、神様の嫁だのの次は聖者ですか。
タティウスはオレが首輪のケノビウスから助言されて説法していることを知らず、小娘の身で聖典に通じていると思っているのだろう。
そういうわけで簡単に言ってくれているのだろうけど、信仰に関わる書物の一冊すら読んだ事もなくて、発言がすべて首輪の受け売りでしかないオレが聖者なんて、皮肉にもほどがある。
こっちは羞恥のあまりもだえそうだよ。
「それだったらいっそ殉教のひとつもして、褒め称えられたまま死んだ方がよかったかもしれませんね」
オレの皮肉に対し、タティウスも苦笑する。
「そこまでしろとは申しません。ただ以前には『王家に輿入れ』の話をさせてもらいましたけど、また別の報酬もあるということですよ」
どっちもまったく欲しくもなければ、ありがたくもないけどね。
しかしタティウス達はそれを破格の報酬だと思っているのだから始末に負えない。『第五階級』からもらったダイヤモンドの件といい、オレにはこういう呪いでもかかっているのだろうか。
オレがそんな事で頭を悩ませていると、そこで改めて別行動をとっていたカリル達と合流する。
見ると連中は今回の寺院から回収した ―― ぶっちゃけ盗み出した ―― 物品をあれこれと調べているらしい。
これだけ持てはやされている『聖女』の正体が、実は『衆目を集めている内に、本当の査察官が寺院に忍び込むための囮』なんだから、オレ自身が人間不信になりそうな現実だった。
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