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第4章 マニリア帝国編
第32話 後宮の事情と脱出路と
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しばしの後、オレ達は中年の女官によって、あてがわれた部屋に案内された。
部屋は個室であり、デレンダとは隣同士となる。
「それではアルタシャさん。また後で……」
「ええ。また会いましょう」
デレンダと別れると、オレは女官と共に部屋に入った。
見た限りでは置いてあるのはベッドと机、あと目を引くのはどこにでも置いてある姿見の鏡ぐらいの殺風景な部屋である。
「急な事でしたので、用意できたのはここまでです。後の事は明日からとしていただけますか?」
「あの……いくらか質問していいですか?」
「何なりとお聞き下さい」
女官は静かに頭を下げる。
一介の宮女であっても『皇帝の女』である以上、女官よりも身分は上ということになるようだ。
もちろん女官内部にも地位の差はあるだろうから、こっちよりも上の女官も当然いるだろう。
オレにとってはあんまり関係のない話であるが。
「ここにはいったいどれだけの宮女がいるのですか?」
「いまのところ三百人ほどですね」
「ええ?!」
かつてはハーレムに憧れていたオレでもこの数字には少々ビックリだ。
確か今の皇帝は昨年に先代皇帝が世を去って、その後に短い内戦が起きて、ようやく戴冠したんだよな?
せいぜい数ヶ月で三百人も集めるなんて、何を考えているんだよ。
「大した数ではありませんよ。かつては後宮に三千人の宮女様を抱えた歴代皇帝もおられたのですから」
うげえ。いくら何でもそんなに大勢、顔も名前も覚えきれないだろう。
ここで女官は少しばかり寂しげな表情を浮かべる。
「それでも浮かび上がれるのはごく一部。むしろ一度も陛下のお声がかかることのない方が多いのです」
「あのう。そんな宮女はどうなるんですか?」
「皇帝陛下に尽くすために生きる宮女様は規則上、死ぬか、さもなくば陛下が代替わりされるまでこの後宮を出られない事になっています」
「ええ?! そんな?!」
それが本当ならばマルキウスはオレを騙したのか?
「驚かないで下さい。それはあくまでも何百年も前に出来た規則に基づく建前であって、何年いても陛下のお声がかからない宮女は、病などの理由をつけて後宮を出されるのが暗黙の了解となっているのです」
ああ。そうなのか。そういえばさっきも怪異に襲われた宮女は『病気で郷里に帰ったことにしている』と言っていたな。
オレの場合もそういう事で、後宮から出られるなら問題はないだろう。
「むしろ後宮での生活に慣れてしまって、追い出されるのに抵抗する宮女様の方が多いのですよ」
まあ。その気持ちは分からないでもない。
後宮にいたら『かごの鳥』として働かずとも生活出来るが、もしオレと同年配でこの後宮に入って、十年もいたらまともな生活能力なんて無くなっているだろう。
たとえ皇帝から相手にされない飼い殺しの人生でも、外に出る不安の方が先立って当然だ。
むろんオレにとってはそんな人生真っ平御免だけど。
「あまり長居したら、かえってその後の人生に支障があるということで、陛下の寵愛を受けなければ、遅くとも二十代の後半にはこの後宮を出される事になっています」
たぶん昔は本当に皇帝の代替わりまで、宮女は一切出られなかったのだろうな。
それで場合によっては四十歳どころか五十歳を越えるようになってから、代替わりでいきなり放り出され、まるで『浦島太郎』のごとく時代に取り残され、世間の事も何も分らず、縁者もすでになく、悲惨な目にあった宮女が大勢いたんだろう。
あと国が傾いているので、何十年も皇帝に相手にされないまま居座る宮女を養う金もなくなったという事も考えられる。
何にせよ『本人が死ぬか、皇帝の代替わりまで後宮から出られない』時代よりは遙かにマシになったということだな。
「それで後宮を出た宮女はどうなるのです?」
「一部は出家しますが、大半は実家に戻るか、さもなくば貴族や軍人に対し、陛下からの賜物として与えられる事になりますね」
二一世紀の人間の感覚として、その話を聞いていい気分はしないが、一応その後の人生の面倒は見てもらっているのか。
だけどこの国の価値観では『皇帝から女を送られる』というのは、表向きは名誉な話なのかもしれないけど、受ける側にしたらあんまりありがたい事じゃないんだろうなあ。
もちろん宮女だったら容貌はいいだろうけど、長年『皇帝の女』として過ごして無駄に気位が高く、しかも後宮で働かずに暮らして生活能力無しとなると養うのも大変だろう。
長い目で見れば、宮女にとってもこの後宮で飼い殺しのまま、年を取っていくより遙かにマシだと思うけど、本人も夫になった男の方も悩み多い事になりそうだ。
オレが他人事ながら気に病んでいると、女官の方は安心させるように微笑む。
「ご心配なく。あなた様ならば陛下の寵愛は間違いありません。そのまばゆき美貌を見逃すのは、朝日を見逃すのと同じぐらいあり得ないことですよ」
おいおい。オレが心配しているのは、むしろ皇帝に目をつけられる方なんだよ!
「それと……差し出がましいことですが、ひとつ忠告させていただいてよろしいでしょうか?」
「なんですか?」
「実はこの後宮には病を患いつつ、残っておられる宮女様もおられるのです。もちろん手当は我ら女官が行っておりますが、そのような場所にはゆめゆめお近づきになりませんようご注意下さい」
近づく事も忌まれるような病気を患っていながら、残っている宮女がいる?
たぶん有力貴族の後押しを受けて入ったとかで、追い出す事も出来ないのだろう。
オレの魔法を使えば回復されられるかもしれないけど、いまそんな事をしてこっちの魔力について知られるのも困るな。
もしここを出て行く事になったら、そのときに出来るのなら助力の一つもしてあげよう。
女官はその『近づいてはならない部屋』について警告したところで、一礼して出て行った。
--------------------------------------------------
女官が去ってひとり部屋に残されたオレがまず真っ先に行ったのは、隅に置いてある姿見の鏡に布をかける事だった。
今の女装した自分の姿を鏡で見せられる都度、オレに残った男の心が確実に削られていく感覚があるのだ。
もちろん目を背けようとしていたのだが、それでもどういうわけか引きつけられてしまう。
紛れもない自分自身の姿のはずなのに、まるでクトゥ○フ神話の邪神を見ているのかのような気分であったが、ひとまず布で隠れるとオレの意識も少しは落ち着いてくる。
そして次に行うのはなにか。
それは最初から決めていた。この後宮からの『逃走経路の確保』である。
いくら皇帝が来たことがないとはいえ、ここは皇帝に尽くす宮女を集めた後宮なのだ。
皇帝がいつやってきても不思議ではないし、その場合オレが夜とぎの相手に指名される可能性は高い――これがうぬぼれであってくれたらどれだけいいか。
一瞬背筋が寒くなったが、気を取り直しつつオレは窓を開けて、外を見回す。
この場所は宮城のもっとも奥まった位置にあり、窓の外はほぼ垂直の城壁が一〇メートル以上の高さでそびえ、その下は深く広い空堀である。
そして堀を越えた先は既に宮城の外であり、市街地が広がっていた。
ああよかった。
普通なら明らかに脱出など不可能な光景を見て、オレはむしろ安堵の息を漏らす。
もし後宮が位置的に『宮城のど真ん中』だったら、後宮を出てもそこから更に宮城を脱出するまで大変な手間がかかっただろう。
多数の警備兵の目をかわし、幾つもの門を越えて外に出るのは幾らオレのチート魔術でも極めて危険性の高い、骨の折れる行為であるのは明らかだ。
しかしここは位置的には後宮という名前の通り『宮城の一番後ろ』だった。
言い換えると『端っこ』なのだ。
つまりこの城壁と堀さえどうにかすれば、脱出がかなうということになる。
中庭こそ大規模な改修工事中とはいえ、後宮の建物自体はもう何百年もの歳月を経たもので城壁にはツタなど植物が数多く生い茂っている。
そしてオレはここでためしにドルイド魔術をかけてみた。
まずは【生長加速】で壁面のツタを生長させると、みるみるうちに窓の周囲までツタが伸びてくる。
そしてここで【植物歪曲】をかけると、オレの思ったとおり自在にツタが揺れ動く。
これは対象が植物なら、たとえ死んでいてもある程度は操作できるので木製の扉ならゆがめて開ける事も出来る結構便利な魔術なのだ。
これで足場を作れる事が分った。
あとは壁面を移動出来る【蜘蛛登り】の魔術を使えば、この城壁も先の空堀も俺にとっては平地も同然だ。
いざというとき――つまりオレが皇帝から召し出されるような事になれば――そのときはこの窓より外に出て城壁を降り、そこで更に空堀から市街地に逃げ込もう。
あと万一のためにドルイド魔術でネズミなどを味方にしておいて、寝ている場合にも備えておけば万全だろう。
一応の準備が整い、オレがひとまず安心したところで、部屋の扉がためらいがちにノックされた。
「あの……アルタシャさん。おられますか?」
姿を見せたのはデレンダだったが、次に発した言葉はオレの度肝を抜くに十分なものだった。
「いまは風呂のお時間だそうです。あたしと一緒にいきませんか?」
「え? 風呂……を、あなたと一緒に?」
オレは一瞬、あっけにとられてマジマジとデレンダを見つめてしまった。
彼女のようなかわいい女子がオレと一緒にお風呂に入るだって?!
そんな夢のような事があっていいのか?
目を見張るオレに対して、デレンダは困惑した様子で問いかけてくる。
「あ……あの? あたしが何かお気に障ることを言いましたか?」
「いえ。ごめんなさい。何でもないの」
そうだ。一瞬我を忘れてしまったけど、冷静に考えればデレンダの誘いは当然だ。
今のオレはどこから見ても完璧な美少女なのであり、彼女はただ単に同じ日に後宮に入った相手と一緒に風呂に入ろうと言ってきたに過ぎない。
女にされてから二月ほど経つが、野外にいたころは泉でひとりその身を洗っていたし、テマーティンのところに厄介になっていたときも『特別な客』扱いだったので、風呂は一人で入っていたのだった。
つまりいまオレは女になってから――というよりは生まれて初めて――女の子と一緒に風呂に入ろうとしているのである。
うう。これでオレが男のままだったら、どれほど幸せだったろう。
いや。落ち着け。
風呂場には当然、デレンダだけではなく他の女子もいるだろう。
オレの希望とはかけ離れているが、これもまたひとつの『男の夢』と言えるだろう。
ここは後宮にいる美少女達の身体を見て、このところ摩耗しがちなオレ自身の『男』を奮い立たせよう。
うん。それがいい。
オレはひとまず決意すると、デレンダと共に風呂へと向かうことにした。
だが気分を高揚させつつ向かった風呂場にて、オレは更なる衝撃に直面することになるのだった。
部屋は個室であり、デレンダとは隣同士となる。
「それではアルタシャさん。また後で……」
「ええ。また会いましょう」
デレンダと別れると、オレは女官と共に部屋に入った。
見た限りでは置いてあるのはベッドと机、あと目を引くのはどこにでも置いてある姿見の鏡ぐらいの殺風景な部屋である。
「急な事でしたので、用意できたのはここまでです。後の事は明日からとしていただけますか?」
「あの……いくらか質問していいですか?」
「何なりとお聞き下さい」
女官は静かに頭を下げる。
一介の宮女であっても『皇帝の女』である以上、女官よりも身分は上ということになるようだ。
もちろん女官内部にも地位の差はあるだろうから、こっちよりも上の女官も当然いるだろう。
オレにとってはあんまり関係のない話であるが。
「ここにはいったいどれだけの宮女がいるのですか?」
「いまのところ三百人ほどですね」
「ええ?!」
かつてはハーレムに憧れていたオレでもこの数字には少々ビックリだ。
確か今の皇帝は昨年に先代皇帝が世を去って、その後に短い内戦が起きて、ようやく戴冠したんだよな?
せいぜい数ヶ月で三百人も集めるなんて、何を考えているんだよ。
「大した数ではありませんよ。かつては後宮に三千人の宮女様を抱えた歴代皇帝もおられたのですから」
うげえ。いくら何でもそんなに大勢、顔も名前も覚えきれないだろう。
ここで女官は少しばかり寂しげな表情を浮かべる。
「それでも浮かび上がれるのはごく一部。むしろ一度も陛下のお声がかかることのない方が多いのです」
「あのう。そんな宮女はどうなるんですか?」
「皇帝陛下に尽くすために生きる宮女様は規則上、死ぬか、さもなくば陛下が代替わりされるまでこの後宮を出られない事になっています」
「ええ?! そんな?!」
それが本当ならばマルキウスはオレを騙したのか?
「驚かないで下さい。それはあくまでも何百年も前に出来た規則に基づく建前であって、何年いても陛下のお声がかからない宮女は、病などの理由をつけて後宮を出されるのが暗黙の了解となっているのです」
ああ。そうなのか。そういえばさっきも怪異に襲われた宮女は『病気で郷里に帰ったことにしている』と言っていたな。
オレの場合もそういう事で、後宮から出られるなら問題はないだろう。
「むしろ後宮での生活に慣れてしまって、追い出されるのに抵抗する宮女様の方が多いのですよ」
まあ。その気持ちは分からないでもない。
後宮にいたら『かごの鳥』として働かずとも生活出来るが、もしオレと同年配でこの後宮に入って、十年もいたらまともな生活能力なんて無くなっているだろう。
たとえ皇帝から相手にされない飼い殺しの人生でも、外に出る不安の方が先立って当然だ。
むろんオレにとってはそんな人生真っ平御免だけど。
「あまり長居したら、かえってその後の人生に支障があるということで、陛下の寵愛を受けなければ、遅くとも二十代の後半にはこの後宮を出される事になっています」
たぶん昔は本当に皇帝の代替わりまで、宮女は一切出られなかったのだろうな。
それで場合によっては四十歳どころか五十歳を越えるようになってから、代替わりでいきなり放り出され、まるで『浦島太郎』のごとく時代に取り残され、世間の事も何も分らず、縁者もすでになく、悲惨な目にあった宮女が大勢いたんだろう。
あと国が傾いているので、何十年も皇帝に相手にされないまま居座る宮女を養う金もなくなったという事も考えられる。
何にせよ『本人が死ぬか、皇帝の代替わりまで後宮から出られない』時代よりは遙かにマシになったということだな。
「それで後宮を出た宮女はどうなるのです?」
「一部は出家しますが、大半は実家に戻るか、さもなくば貴族や軍人に対し、陛下からの賜物として与えられる事になりますね」
二一世紀の人間の感覚として、その話を聞いていい気分はしないが、一応その後の人生の面倒は見てもらっているのか。
だけどこの国の価値観では『皇帝から女を送られる』というのは、表向きは名誉な話なのかもしれないけど、受ける側にしたらあんまりありがたい事じゃないんだろうなあ。
もちろん宮女だったら容貌はいいだろうけど、長年『皇帝の女』として過ごして無駄に気位が高く、しかも後宮で働かずに暮らして生活能力無しとなると養うのも大変だろう。
長い目で見れば、宮女にとってもこの後宮で飼い殺しのまま、年を取っていくより遙かにマシだと思うけど、本人も夫になった男の方も悩み多い事になりそうだ。
オレが他人事ながら気に病んでいると、女官の方は安心させるように微笑む。
「ご心配なく。あなた様ならば陛下の寵愛は間違いありません。そのまばゆき美貌を見逃すのは、朝日を見逃すのと同じぐらいあり得ないことですよ」
おいおい。オレが心配しているのは、むしろ皇帝に目をつけられる方なんだよ!
「それと……差し出がましいことですが、ひとつ忠告させていただいてよろしいでしょうか?」
「なんですか?」
「実はこの後宮には病を患いつつ、残っておられる宮女様もおられるのです。もちろん手当は我ら女官が行っておりますが、そのような場所にはゆめゆめお近づきになりませんようご注意下さい」
近づく事も忌まれるような病気を患っていながら、残っている宮女がいる?
たぶん有力貴族の後押しを受けて入ったとかで、追い出す事も出来ないのだろう。
オレの魔法を使えば回復されられるかもしれないけど、いまそんな事をしてこっちの魔力について知られるのも困るな。
もしここを出て行く事になったら、そのときに出来るのなら助力の一つもしてあげよう。
女官はその『近づいてはならない部屋』について警告したところで、一礼して出て行った。
--------------------------------------------------
女官が去ってひとり部屋に残されたオレがまず真っ先に行ったのは、隅に置いてある姿見の鏡に布をかける事だった。
今の女装した自分の姿を鏡で見せられる都度、オレに残った男の心が確実に削られていく感覚があるのだ。
もちろん目を背けようとしていたのだが、それでもどういうわけか引きつけられてしまう。
紛れもない自分自身の姿のはずなのに、まるでクトゥ○フ神話の邪神を見ているのかのような気分であったが、ひとまず布で隠れるとオレの意識も少しは落ち着いてくる。
そして次に行うのはなにか。
それは最初から決めていた。この後宮からの『逃走経路の確保』である。
いくら皇帝が来たことがないとはいえ、ここは皇帝に尽くす宮女を集めた後宮なのだ。
皇帝がいつやってきても不思議ではないし、その場合オレが夜とぎの相手に指名される可能性は高い――これがうぬぼれであってくれたらどれだけいいか。
一瞬背筋が寒くなったが、気を取り直しつつオレは窓を開けて、外を見回す。
この場所は宮城のもっとも奥まった位置にあり、窓の外はほぼ垂直の城壁が一〇メートル以上の高さでそびえ、その下は深く広い空堀である。
そして堀を越えた先は既に宮城の外であり、市街地が広がっていた。
ああよかった。
普通なら明らかに脱出など不可能な光景を見て、オレはむしろ安堵の息を漏らす。
もし後宮が位置的に『宮城のど真ん中』だったら、後宮を出てもそこから更に宮城を脱出するまで大変な手間がかかっただろう。
多数の警備兵の目をかわし、幾つもの門を越えて外に出るのは幾らオレのチート魔術でも極めて危険性の高い、骨の折れる行為であるのは明らかだ。
しかしここは位置的には後宮という名前の通り『宮城の一番後ろ』だった。
言い換えると『端っこ』なのだ。
つまりこの城壁と堀さえどうにかすれば、脱出がかなうということになる。
中庭こそ大規模な改修工事中とはいえ、後宮の建物自体はもう何百年もの歳月を経たもので城壁にはツタなど植物が数多く生い茂っている。
そしてオレはここでためしにドルイド魔術をかけてみた。
まずは【生長加速】で壁面のツタを生長させると、みるみるうちに窓の周囲までツタが伸びてくる。
そしてここで【植物歪曲】をかけると、オレの思ったとおり自在にツタが揺れ動く。
これは対象が植物なら、たとえ死んでいてもある程度は操作できるので木製の扉ならゆがめて開ける事も出来る結構便利な魔術なのだ。
これで足場を作れる事が分った。
あとは壁面を移動出来る【蜘蛛登り】の魔術を使えば、この城壁も先の空堀も俺にとっては平地も同然だ。
いざというとき――つまりオレが皇帝から召し出されるような事になれば――そのときはこの窓より外に出て城壁を降り、そこで更に空堀から市街地に逃げ込もう。
あと万一のためにドルイド魔術でネズミなどを味方にしておいて、寝ている場合にも備えておけば万全だろう。
一応の準備が整い、オレがひとまず安心したところで、部屋の扉がためらいがちにノックされた。
「あの……アルタシャさん。おられますか?」
姿を見せたのはデレンダだったが、次に発した言葉はオレの度肝を抜くに十分なものだった。
「いまは風呂のお時間だそうです。あたしと一緒にいきませんか?」
「え? 風呂……を、あなたと一緒に?」
オレは一瞬、あっけにとられてマジマジとデレンダを見つめてしまった。
彼女のようなかわいい女子がオレと一緒にお風呂に入るだって?!
そんな夢のような事があっていいのか?
目を見張るオレに対して、デレンダは困惑した様子で問いかけてくる。
「あ……あの? あたしが何かお気に障ることを言いましたか?」
「いえ。ごめんなさい。何でもないの」
そうだ。一瞬我を忘れてしまったけど、冷静に考えればデレンダの誘いは当然だ。
今のオレはどこから見ても完璧な美少女なのであり、彼女はただ単に同じ日に後宮に入った相手と一緒に風呂に入ろうと言ってきたに過ぎない。
女にされてから二月ほど経つが、野外にいたころは泉でひとりその身を洗っていたし、テマーティンのところに厄介になっていたときも『特別な客』扱いだったので、風呂は一人で入っていたのだった。
つまりいまオレは女になってから――というよりは生まれて初めて――女の子と一緒に風呂に入ろうとしているのである。
うう。これでオレが男のままだったら、どれほど幸せだったろう。
いや。落ち着け。
風呂場には当然、デレンダだけではなく他の女子もいるだろう。
オレの希望とはかけ離れているが、これもまたひとつの『男の夢』と言えるだろう。
ここは後宮にいる美少女達の身体を見て、このところ摩耗しがちなオレ自身の『男』を奮い立たせよう。
うん。それがいい。
オレはひとまず決意すると、デレンダと共に風呂へと向かうことにした。
だが気分を高揚させつつ向かった風呂場にて、オレは更なる衝撃に直面することになるのだった。
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本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
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