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第2章 変わり果てた後で冒険の始まり
第7話 逃げ出した先にてやって来た者は
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逃走のためにオレはこのグラマーの街に飛び込んだが、実はこの街については殆ど何も知らない。
あくまでも逃亡者である以上、なるだけ人目につかないよう移動しているつもりだったが、それが一つの危機を招く事を忘れていたのだ。
夜に逃走する以上、暗いところでも問題無く移動出来るように僅かな光でも周囲を元押せる【夜目】の魔法を自分にかけていた。
だがその結果として明かりの無い裏町に来ていた事に気付いた時、既に手遅れの状態だった。
いきなり薄暗いカンテラの光がオレを照らしたのだ。
「おいおい。こんなところに小僧が紛れ込んでいるぜ」
「誰かと思えばお坊ちゃんかい? 結構、いい身なりをしているじゃねえか」
自分では目立たない質素な身なりをしているつもりだったが、こんな荒くれ連中が根城にしているところではかなり目立ってしまっていたらしい。
フードで顔や頭部は隠しているので、オレが女の身である事にまでは気付いていない様子なのは不幸中の幸いか。
だが『何も知らない裕福な子供が迷子になっている』のを見たら、身ぐるみ剥いだ上で奴隷として売り飛ばすぐらいの事しか考えない連中がオレの周囲に迫っているのは間違い無いところだ。
「へへへ。俺達と一緒に来なよ。いいところに連れて行ってやるぜ」
「その代償にお前さんには一生かけてこれまど一度もしたことのない世界を見せてやるからな」
「お前さんが出会ったのが俺達のような物の道理の分かったやさしい大人だった事に感謝するんだぜ」
下卑た笑いを浮かべつつ、男共は迫ってくる、
もしもここでオレが女の身である事に気付かれたら、集団でチョメチョメされたあげく、どこぞに売り飛ばされるのは間違い無いところだろう。
とにかく今は適当にごまかして、この場を逃げるしか無い。
「あの……すいません。皆さんにご迷惑をおかけするわけにはいかないので、すぐに立ち去らせてもらいます」
「うん? その声は?」
「お前さん。もしかして女か?」
ああ?! しまった!
オレの声もまた女にされた結果、甲高くまた軽やかな薫風のごとき声に変化していたのだった。
これではこちらが若い女の身である事がバレバレだ。
「うひょう! こいつはいいぜ!」
「お嬢ちゃん! ちょっと顔見せてくれるかい?」
なんてこった!
荒くれ連中はますますその気になっているぞ!
その目をギラつかせて、どんどんと迫ってくる。
「そんなに怯えないでくれよ。俺達はこう見えても女の子には親切なんだぜ」
「そうそう。何しろ世間知らずの若い娘には『いいところ』に案内するよう心がけているぐらいだからな」
これはやばすぎる。聖女教会という『前門の虎』の裏口から逃げ出したら『後門の狼』のところに飛び込んでしまったのか!
女の身にされただけでも大ピンチかと思っていたが、本当のピンチはその後に呼びもしないのにやって来たのだ。
以前に『吉事は一人で来るが、凶事は友達を連れてくる』という格言を聞いた事があるが、今のオレはまさにその状態だった。
オレが戦慄していると、男共はその手を伸ばしてきた。
「おらあ! 何を黙っていやがる!」
「大人の言う事は聞くもんだぞ」
「だいたい人様を前にして、いつまでも顔を隠しているんじゃねえぞ。失礼というもんだろうが!」
一人の男が苛立たしげにオレのフードを引っぺがす。
その瞬間、長い金髪がフードから黄金の滝のように流れ出し、カンテラの光を浴びてキラキラと輝いた。
これはまずい。完全にオレの容姿も何もモロバレだ。
間違い無く連中は目の色を変えて襲ってくるだろう。
だがオレが戦慄している間、周囲にはむしろ困惑の空気が広がっていた。
「すげえ別嬪だぜ……だけどコイツはもしかして……」
「おい……この小娘、金髪で青紫の瞳だぜ……」
「ちょっと待てよ。もしかしてお前は聖女様なのか?」
あれ? 連中は確かにオレの容姿に対して絶句しているが、同時に恐れているようにも見えるぞ。
「俺は一抜けさせてもらうぞ! 聖女様に手出ししたなんてことになったら命が幾らあっても足りやしねえ!」
「おい……だけどこんな上玉を見逃すなんて――」
比較的、若そうな男が文句を唱えるが、周囲の面々は恐れた声をあげる。
「いくら上玉だろうと、金よりも自分の身の方が大事に決まっているだろうが!」
「お前のような新入りには知らねえかもしれねえが、この界隈で聖女様に手出しするって事は命がいりませんと言っているようなもんだぞ!」
「その決まりを破った奴で生き残ったのはいねえんだ!」
「とっとといくぞ!」
ごろつき連中は口々に叫びつつ、そそくさと引き上げていく。
聖女教会はどうやら無法者達にとっても恐れる存在らしい。
そしてオレが聖女と同じ金髪で青紫の瞳にされてしまった事で、連中は誤解してくれたから今は助かったと言う事になる。
非常に複雑な気分だが、連中は誰かに余計な事を広める前に早く逃げ出すしかないな。
そしてオレはグラマーの街を出て、夜闇へと消えていくのだった。
あくまでも逃亡者である以上、なるだけ人目につかないよう移動しているつもりだったが、それが一つの危機を招く事を忘れていたのだ。
夜に逃走する以上、暗いところでも問題無く移動出来るように僅かな光でも周囲を元押せる【夜目】の魔法を自分にかけていた。
だがその結果として明かりの無い裏町に来ていた事に気付いた時、既に手遅れの状態だった。
いきなり薄暗いカンテラの光がオレを照らしたのだ。
「おいおい。こんなところに小僧が紛れ込んでいるぜ」
「誰かと思えばお坊ちゃんかい? 結構、いい身なりをしているじゃねえか」
自分では目立たない質素な身なりをしているつもりだったが、こんな荒くれ連中が根城にしているところではかなり目立ってしまっていたらしい。
フードで顔や頭部は隠しているので、オレが女の身である事にまでは気付いていない様子なのは不幸中の幸いか。
だが『何も知らない裕福な子供が迷子になっている』のを見たら、身ぐるみ剥いだ上で奴隷として売り飛ばすぐらいの事しか考えない連中がオレの周囲に迫っているのは間違い無いところだ。
「へへへ。俺達と一緒に来なよ。いいところに連れて行ってやるぜ」
「その代償にお前さんには一生かけてこれまど一度もしたことのない世界を見せてやるからな」
「お前さんが出会ったのが俺達のような物の道理の分かったやさしい大人だった事に感謝するんだぜ」
下卑た笑いを浮かべつつ、男共は迫ってくる、
もしもここでオレが女の身である事に気付かれたら、集団でチョメチョメされたあげく、どこぞに売り飛ばされるのは間違い無いところだろう。
とにかく今は適当にごまかして、この場を逃げるしか無い。
「あの……すいません。皆さんにご迷惑をおかけするわけにはいかないので、すぐに立ち去らせてもらいます」
「うん? その声は?」
「お前さん。もしかして女か?」
ああ?! しまった!
オレの声もまた女にされた結果、甲高くまた軽やかな薫風のごとき声に変化していたのだった。
これではこちらが若い女の身である事がバレバレだ。
「うひょう! こいつはいいぜ!」
「お嬢ちゃん! ちょっと顔見せてくれるかい?」
なんてこった!
荒くれ連中はますますその気になっているぞ!
その目をギラつかせて、どんどんと迫ってくる。
「そんなに怯えないでくれよ。俺達はこう見えても女の子には親切なんだぜ」
「そうそう。何しろ世間知らずの若い娘には『いいところ』に案内するよう心がけているぐらいだからな」
これはやばすぎる。聖女教会という『前門の虎』の裏口から逃げ出したら『後門の狼』のところに飛び込んでしまったのか!
女の身にされただけでも大ピンチかと思っていたが、本当のピンチはその後に呼びもしないのにやって来たのだ。
以前に『吉事は一人で来るが、凶事は友達を連れてくる』という格言を聞いた事があるが、今のオレはまさにその状態だった。
オレが戦慄していると、男共はその手を伸ばしてきた。
「おらあ! 何を黙っていやがる!」
「大人の言う事は聞くもんだぞ」
「だいたい人様を前にして、いつまでも顔を隠しているんじゃねえぞ。失礼というもんだろうが!」
一人の男が苛立たしげにオレのフードを引っぺがす。
その瞬間、長い金髪がフードから黄金の滝のように流れ出し、カンテラの光を浴びてキラキラと輝いた。
これはまずい。完全にオレの容姿も何もモロバレだ。
間違い無く連中は目の色を変えて襲ってくるだろう。
だがオレが戦慄している間、周囲にはむしろ困惑の空気が広がっていた。
「すげえ別嬪だぜ……だけどコイツはもしかして……」
「おい……この小娘、金髪で青紫の瞳だぜ……」
「ちょっと待てよ。もしかしてお前は聖女様なのか?」
あれ? 連中は確かにオレの容姿に対して絶句しているが、同時に恐れているようにも見えるぞ。
「俺は一抜けさせてもらうぞ! 聖女様に手出ししたなんてことになったら命が幾らあっても足りやしねえ!」
「おい……だけどこんな上玉を見逃すなんて――」
比較的、若そうな男が文句を唱えるが、周囲の面々は恐れた声をあげる。
「いくら上玉だろうと、金よりも自分の身の方が大事に決まっているだろうが!」
「お前のような新入りには知らねえかもしれねえが、この界隈で聖女様に手出しするって事は命がいりませんと言っているようなもんだぞ!」
「その決まりを破った奴で生き残ったのはいねえんだ!」
「とっとといくぞ!」
ごろつき連中は口々に叫びつつ、そそくさと引き上げていく。
聖女教会はどうやら無法者達にとっても恐れる存在らしい。
そしてオレが聖女と同じ金髪で青紫の瞳にされてしまった事で、連中は誤解してくれたから今は助かったと言う事になる。
非常に複雑な気分だが、連中は誰かに余計な事を広める前に早く逃げ出すしかないな。
そしてオレはグラマーの街を出て、夜闇へと消えていくのだった。
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