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本編第一章:高二になりました、進級して早々に波乱の展開が続いております。

♡第十二話:文化祭について話し合う?ああ、勝手にやってくれ・・・♡

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 「では、各自好きなグループに分かれて話し合うように」
 
 岩切教諭はそう指示を出すと、パイプ椅子を教室の隅から運んできて、教卓の近くに腰かけた。

 今日のLHRは、文化祭のクラス出店について話し合うらしい。
 
 夏休み明けの行事のために、わざわざ今から話し合うなんて、正気の沙汰とは思えない・・・・俺は絶対、夏休みに準備とか来ないからな!
 と、それだけはとりあえず、心の中で叫んでおく。

 しかし・・・・毎度のことながら、この教師は少し放任主義過ぎないだろうか?
 いや、それだけならまだいいが、わざわざグループを作らせるなんて、窓際族に対しての当てつけとしか思えない。

 そうだな・・・そのうち教育委員会にでも訴えよう。



 「―――れんちゃーん!一緒にやろ~」
 一人そんな考察を深める俺とは対照的に、そう言って咲菜は近くの部活仲間に飛びついた。
 
 「はいはい、咲菜参加で、二人追加ね!」
 「―――え?なんで?」
 「なんでって、あんたいつも榮倉君連れてくるじゃない」

 驚き呆れたようにそう言って、れんちゃんなる友達は咲菜の肩をポンと叩いた。

 「うし・・・じゃなかった、榮倉君?え~、なにそれ~?榮倉君はお隣さんだけど、そんなに仲良くないよ~」

 (・・・⁉)

 さっと向けられたれんちゃんの視線、そして「お前なにしたんだ」とでも言いたげなほか複数の視線が俺に届く。



 ・・・落ち着け、榮倉右代・・・!こんな風に変に思われるのは、今だけだ・・・今の状態が普通で、むしろ今までがおかしかったんだ。

 俺はナチュラルに目線を窓の外に移し、クラス内でグループ分けが進むのをじっと待った。



 あーっと・・・今日のあまりものは・・・おっ!「陸上部二人組」か!なかなかラッキーだな。

 ―――説明しよう。「陸上部二人組」とは、このクラスでいつも仲良く二人でいる、文字通り陸上部の部員二人組。コミュニケーション能力も低くなく、どちらかといえば陽キャに近いのだが・・・逆にそういった条件が弊害してこう言ったグループ分けの際、残りがちなのである。

 しかし、だからこそ議論の進行役として活躍してくれ、かつそこまでうるさく騒ぐタイプでもない・・・つまり残りものガチャで、「当たり」か「はずれ」か、で言えば完全にレア度マックスの存在である。





 「よろしくな・・・えー-っと・・・・・」

 机を班の形にし、話し合いが始まる。案の定会話をリードし始める「陸上部二人組」だが、彼らは俺を眺めて、少々まごついた。
 クラスメイトと相談するのに、自己紹介から始まるというのも、なんとも奇妙な光景であるが、ともあれ多少遅れて俺たちのグループでも議論が始まった。


 「――――文化祭、といえばぁ!やっぱり、男女逆転カフェとか、どうよ!」

 (なんなんだ、その意味不明なカフェは・・・?)
 だいたい、女子の男装はまだ需要がありそうだが、女装なんて見たくない。
 俺は素直にそう感じたが、三人の女子からの受けはいいようだ。

 ―――つまり、俺以外の全員賛成している・・・・・え、嘘でしょ?ドッキリなの?それともジェネギャ?おっさんなの、俺?


 「ちょっと待ってくれ、もっとこう・・・定番の方がいいんじゃないか?」

 「え~でも男女逆転っていうのも、結構定番ネタじゃない?」
 「それな~!私、咲菜ちゃんとか、天海さんのコス見た過ぎる~」

 「「「「それな~」」」」

 (・・・なんで余りグルにこんなに場違いが集まったんだ)


 「そこまで言うなら、榮倉君なにかいい案出してみてよ」
 「あ、聞きたい聞きたい」

 そうきたか・・・俺は自分の脳内でシュミレーションを回転させる。お化け屋敷・・・いや、準備も片付けも面倒だ。



 「・・・・駄菓子屋、とかどうだ?いまはめっきり見なくなっただろ?ノスタルジックで、映えると思うんだが」

 「え~!めちゃくちゃいいじゃん。榮倉君最高!」
 「だよねだよね!」

 なんかわからんがいい感じらしい。駄菓子屋なら商品調達も楽そうだし、教室内を多少飾り付ければそれでいいからな。あとはシフト制で回せば、休憩時間もたくさんできる。

 「じゃあ、うちらの班のアイディアは、男女逆転!~映え映えノスタルジックカフェ!~でいいかな?」


 (・・・?)


 (―――逆転しちゃったかぁ~)

 いまの会話でなにがどうなって、「男女逆転!~映え映えノスタルジックカフェ!~」になるんだ・・・駄菓子屋はどこに行った?かすってもいないじゃないか・・・。
 どうやら、「映え」と、「ノスタルジック」以外の要素は、彼女たちの脳内に残されなかったらしい。とにかく、逆転はまずい・・・ここは軌道修正して、一からやり直さなくては。


 「―――っちょ、ちょっと待ってくれ・・・もうひとつ、名案を思いついたんだが」

 「え?なになに⁉榮倉君結構やるじゃん」
 (そりゃどうも・・・)


 「よく考えたんだが、飲食とかはありふれたアイディアだと思うんだよな・・・だからここはニッチを狙って・・・ネットカフェっていうのはどうだ?」
 「いやそれはないわ」

 (・・・則否定かよ!)

 「いや、待て冷静に考えてくれ・・・段ボールとかで仕切りを作って、テーブルとイス並べてさ・・・体育館からカーテン持って来て・・・・・」

 「榮倉君、めっちゃ考えてるな・・・」
 陸上部二人組が少し引き気味にそう言った。
 たしかに、自分でも驚くくらいに、ペラペラと詳細な案が浮かんでくる。人ごみの中で、一人さ迷い歩くことのつらさ・・・こいつらにはわからないだろうな。

 いままでのボッチ生活の苦労があるからこその案、と言えるかもしれない。

 「文化祭って、休憩スペースってなかなかないだろ?絶対繁盛すると思うんだが」

 「いやあ、でもさすがにそれは、青春って感じしないし・・・誰も賛成しないと思うよ?」

 ・・・正直、なんでもかんでも青春という言葉で片づける・・・この文化は良くないと思うがな。

 「本気でクラス賞・・・ひいては総合最優秀賞を狙うのならば、険しい道を進むことも、ときには必要なのではないだろうか?」
 と、自分なりにそれっぽい言い訳を並べ、最後の抵抗をしてみる。

 「ってわけで、私たちの班の案は、「男女逆転!~映え映えノスタルジックカフェ~」で決まりだね!」
 (うん、全然聞いてないわ)
 
 その後、うちの班の案はなんと、クラスの出し物にも採用されたのだった。

 (―――――うれしくないからな)

 *




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