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第三章:ウルクルクス討伐作戦~世界最強・魔神具の影~
+++第三十六話:再会のとき
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結界を抜け、森を北東方面に進む。
ご丁寧なことに、あちらからは俺たちをいざなうような魔力が常に放出されており、道に迷うことはないだろう。
そう、そして・・・そこにいるのはもちろん王国兵だ。
彼らはこの三日間の間に結界の位置をだいたい把握していたらしく、それを包囲するようにして部隊が展開されていた。
もう後戻りはできない。
結界が破られるのも時間の問題で、彼らにはばれてしまっているのだ。
目標が、そしてその本拠地がここであることが。
「・・・・・ようこそ。
ご苦労だったなセシル・ハルガダナ。
目標をここまで速く追い詰めることができたのは、貴様ら第三分隊の功績だぞ?」
「ええ、そのようです」
さて、どこで切り出すか。
43部隊で階級の高いフェルス辺りと合流できれば最善だったろうが、まあそう上手くもいかない。
セイヤッタの姿も見えるが、やはり本調子ではなさそうで、いまは頼るべきではないだろう。
結果、俺はこの曲者相手に説得を試みなければならない。
「件の魔獣はどこだ?」
「あ、やつならここに」
「・・・・?
なんの冗談だ?」
俺の隣の少女姿を見て、シャール・ミーナルスはとぼけたような表情を作った。
(まあ、そうなるよな・・・)
徐々にピリつき始めた雰囲気のなかでも、当の本人は退屈そうにあくびまでかましているわけで・・・。
それが多少の証拠になりよう、事実なんだから、しょうがないだろうが。
「現状はこの姿ですが、巨大化し魔神獣として本来の姿を現せば、その強さは計り知れない。
おそらく【ティア1】を凌ぎ、【ティア0】と数えて差し支えないはず・・・・事実、第三分隊は彼女を前に一瞬にして壊滅しました」
「だろうな。ここに息づく恐竜はクルガン・バジャノリードという―――紛れもなく強力な古竜。
俺も元々、お前らが生きていることを不思議に思っているくらいだ。
あってもフリナフット・エデリア。そう思っていた」
(―――――――は?)
て、いうか・・・知っていたのか?
そのうえで、俺たちはグレーシャーを見つけたんじゃなく、うまくこの男に誘導されて?
「・・・・・・・・・・それは、どういう意味でしょうか?」
「クク。実に滑稽だな、お前はまだ知らないのか」
「だから―――――――――」
・・・・・・・・・・。
辺りの空気がよどむ感じ。
俺だけがアウェーのような地に立つ。
(さっきから、話がまったくかみ合っていないのは気のせいか?)
「――――ッ。
ええ、俺たちは生きている・・・・つまり、この魔神獣に敵意はありません!
彼女の使命はこの森林を守り、管理すること。我々が外から干渉をしなければ安全な存在なのです!」
普段あまり出さない声量に、声が所々かすんだ。
しかし、俺はそのまま話し続ける。
じゃないとまた、あのおかしな状況が飛んでくるような気もしたのだ。
「無論、王国側に森林に付属する外地のほとんどを割譲させると約束を取り付けました。
これで、この地にはもはや問題はないはずです」
そう、俺の考えでは。
そもそも、王国には王国の完全な支配が届いている場所の方が割合として少ない。
この広大な大地で、そうすることへの労力は計り知れないんだろう。
で、あれば、この地も同様で・・・・むしろこの強力な魔神獣との戦争を避けれられるだけ幸いなはずである。
「おいおい、お前の意見は聞いていない。
これは王国軍としての判断だ。すでに援軍もこちらに向かっているからな」
「―――援軍だと⁉」
「ああ。【エウロパ・ミシガンッツ】太極位、それから【マール・ヘンダーソン】太極位の部隊だ」
太極位が二人――――戦争は避けられると――――そのはずだとさっきも――――――。
「無意味な犠牲を出すようなことを―――そうする理由が分からないッ‼
・・・・そうだろ?セイヤッタ‼」
苦し紛れに、意図せず仲間の名前を叫んだ。
ほかに頼りはない。
こうして、最初のことには裏腹に・・・・彼女を頼らざるを得ない状況となってしまった。
さきほどから必死の説得を続ける俺を、心配そうな目で見守っているセイヤッタに・・・・。
彼女に、兄弟間の負担をこれ以上かけたくはなかった。
しかし、その明るく正義感の強い性格こそいま求められているのだろう。
グレーシャーの眼光はすでに、鋭く光って・・・・王国軍もまた、もはや続いてくる戦闘を見据えているのだから。
「――――――――。」
「セシル・・・・」
俺の問いかけに、しかし誰として答えようとはしなかった。
だが彼女がうつむいたままなのは、仕方のないことかもしれない。
まだ16歳の少女になにを求めていたというのか。
ここは、俺がやるべきだろ。
「―――――ッ‼」
魔力を洗練し、臨戦態勢を取る。
説得はあと。このまま制圧して、その後になら――――。
(・・・・・??)
瞬間、体の力が抜けていくのを感じた。
魔力が練れず、体と頭がふらつく。
これは、縛地魔法・・・⁉
そうか!セイヤッタだけじゃなく、ミーナルスの一族の秘術――――。
力なく地面に倒れ込み、シャール・ミーナルスに視線を向ける。
「どういう・・・・つもり、、、です?」
「・・・・は!勘違いしているようだから言っておくが、この魔法はセイヤッタのものだ」
「⁉」
セイヤッタが俺に・・・・。
いや、そんなわけがない。
だってあいつは―――。
「そう。我が愚妹ながら、秘伝術にだけは才能があった。
魔法と身体エネルギーまでを同時に縛ることができるのは、歴代でもこの女だけ」
「・・・・・・」
「だからって、セイヤッタが俺を攻撃する理由もないだろう」
「フフフ、それはこいつがおまえの仲間だったからか?
・・・・くだらんな。この女の愚行はミーナルス家が許可したからこそのもの。
いいか?兄である俺は、このセイヤッタ・ミーナルスを自由に操れる―――43部隊という狂人である前に、こいつは俺の操り人形であり、配下として働く奴隷だ」
男は虫唾が走る言説をつらつらと並べながら、こちらにゆっくりと歩み寄る。
あのセイヤッタが反論できないような相手・・・やはりそういうことなんだろうな。
「―――だとしたら本当に気の毒だよ。早く解放してやらなきゃな。
・・・・・あんたみたいなやつに従うのは、この上なく苦痛そうだ」
「減らず口が続くな、セシル・ハルガダナ。
たしかに、お前は完全にそっち側になったらしい」
「・・・俺は王国軍なんだが?」
「所詮は”43”。さっき感じた魔力の大きさからみても、どうやらその女が本当に魔神獣らしいな?
徒党を組んで対抗するか。まあちょうどいい。これで手柄はすべて俺のものになり――――――古代魔神具の回収は、王国に大いなる力をもたらすだろう!」
「・・・・古代、魔神――――具⁇」
(――――――――――は――――――――――――――――――――――――――――――――?)
「ああ、知らないんだったな。
しかし・・・・いずれにしろ、お前はもう用済みだ。興味すらわかんよ」
ここで、声調こそ変わることはなかったが、シャール・ミーナルスの雰囲気は鋭く研ぎ澄まされ―――こぼれだした魔力が周囲を冷たく緊張させた。
近い――――なにからか。
考えるまでもなく、衝突のときだ。
「―――セシル・ハルガダナ!」
もちろん彼女がそれを感じ取らないわけもない。
律儀に約束を守っていた・・・当然だ、彼女が仕掛ければすべてが終わる。
古代魔神具―――キーワードとして俺の頭をめぐりまわる。
おいおい、まさか・・・・・・・・・・・。
「待て、まだ交渉の余地は―――――!」
__________________
『ドゴッ‼』
___________________
「―――⁉⁇」
後頭部に激しい痛みが響いた。
「ヅァ――――」
「すまんな、本気で殴れという命令だもんで」
(ノリ=カシオハンマー・・・・!クソ―――――ッ)
大佐位は、自らの武器を彼にぶつけた。
「―――雷魔法:デランデラク‼‼‼」
さらに――――男は無抵抗のセシル・ハルガダナに魔法をたたみかける。
「~~~~~~~~~~~~~ァ゛‼」
魔法の使用を縛られた状態。
身体の強化や、そもそもの機能自体を制限された状態で受けた二つの攻撃。
それらはなんとか精神面でも食らいついていた彼の意識を、無情にも奪い去った。
「―――ハルガダナ」
(すまない・・・・・)
彼は本当の意味で、シルジョワスやマジャール・・・そして私のことさえを考えてくれていたのだろう。
わかっていた・・・しかしそれだけでは駄目だ・・・確信が必要だったんだよ。
「「「「「「「「「「「「「「
ド――――――――オッ‼
」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
視認できるほどの魔力と、付随する圧力・プレッシャー。
ぶつけるようにして、シャールもまた全力の魔力を放出した。
『グオオオオオ――――――――――ッッッ‼‼‼‼』
周囲が錯乱し、立っていられないほどの状況に陥る。
始まる―――――多くの犠牲が出るだろう。
理解はしている。セシル――――部隊の仲間はそれを防ぐべく全力で戦った。
(ああ、でも――――)
心の整理がつかないのだ。
「おい、俺たちもサポートに回るぞ」
「・・・・・・」
問いかけられている内容はなんだ?
「おいッ‼‼‼」
「・・・・・・・・」
(私は、どうしたらいいの?)
暴風の中でセイヤッタ・ミーナルスは一人、無表情で立ち尽くしていた。
*
【・・・・・・・十年前の出来事・・・・・・・】
”
「よおし!できたぞお!」
小さな部屋の中で一人、セイヤッタ・ミーナルスは嬉しそうに叫んだ。
彼女が完成させたのは、”家”の教育係から出された数術の課題である。
兄弟で受けている授業について行けず、叱られるのはもはや日常になった。
今回も、先週のテストをできるまでやれと言われ、もう何回目のチャレンジかわからない。
(・・・・・・ん、と?)
むむむむむむむ・・・・・・・。
むうううう!
ま、まだまだあっ‼
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
(えと・・・・・・)
問題の丸付けを始めると、徐々にセイヤッタの明るいふるまいにも陰りが見え始めた。
そう、今回も彼女が期待していたような結果は得られなかったようだ。
「あ、ははは・・・・・・また0点・・・・・・」
さすがに堪えたのだろう。しかし、そのいつもはないような暗い声と表情は、一人だからこそ彼女は表に出したのかもしれない。
というのも、セイヤッタ・ミーナルスには、心の中に彼女のなりの心情があった。
「――――――セイヤッタの笑顔は、ほかの人を元気にすることができるんだよ」
(・・・・・・おばあちゃん)
ミーナルス家において、死んだ祖母だけが分家の出であるセイヤッタに優しく接してきた人物だった。
亡くなった彼女の言葉を信じ、セイヤッタは常に明るく振る舞っているのだ。
――――――――――たとえ、この狭く薄暗い部屋に閉じ込められようも、だ。
今日で二日目か、そろそろ合格しなきゃ!
ようしっ!
『ズキン―――――ッ』
体を動かすと、多くの部分が鈍く痛んだ。
青緑のあざ・・・兄弟や親からの日常的な虐待、そしていじめによるものである。
(・・・・・・。)
”
『―――――――――お前のその態度がむかつくんだよ‼』
”
(それでも私は――――――)
「ふ、ふふふッ‼
大丈夫、私は強い子だもんね!
とりあえず、もう一回、もう一回ッ‼」
立ち上がり、もう一度白紙のプリントを手に取る。
そのとき―――――――――。
「―――――うわあああっ!」
窓の外から聞こえてきた悲鳴に、思わず体をこわばらせた。
それもそのはず、ここは山の中にあるミーナルス家所有の別棟。
使用人を除けば、人が来ることはあまりないからだ。
「なんだ、なんだ⁉」
急いで窓から外を覗き込む。
6歳の少女でも、窓縁にしがみつけばギリギリ届くのだ。
するとそこには・・・・驚きの光景が広がっていた。
なんと、南方の伝統的な服装に身を包んだ老人が、魔獣に襲われれいるではないか。
う、お、おじいちゃん⁉に、逃げて、逃げて‼
彼女は冷や汗をかきつつそう念じるが、老人はどうやら腰を抜かしたらしくその場で狼狽し続ける。
(やばいーーーーー!)
レブル=シルワル。
魔獣自体は、人を恐れ普段山にこもっている比較的無害なものだ。
しかし、個体によっては人を襲うこともあり、獣害の報告もいくつかあると聞く。
彼女は部屋を飛び出すべく翻って扉を目指すが・・・・・・。
(うう、どうしよう)
そう、セイヤッタは無断で外に出ることを禁じられているのだ。
彼女はかつてそうしたときの、ひどい仕打ちを思い出してしまう。
私は、私がいま出たら―――――。
使用人は間違いなく報告するだろう、そしたら。
(ッ゙‼)
いやだ、嫌だよッ‼
でもいま行かないと、あのおじいちゃんは・・・・・。
ズキズキと頭が痛む。
だらだらと汗が滴り――――ドアノブを握った手は未だに動くことはない。
『―――――うん、やっぱりセイヤッタはいい子だねぇ』
このときに、どうしてか・・・・懐かしい声が頭に響いた。
『!!
おばあちゃん??でも、私は・・・いい子なんかじゃないよ!!
いまだって・・・・』
『いいや、いい子だよ。
いまだってこうして悩んでる』
『うん、でも・・・勇気が出なくて。どうしよう、おばあちゃんッ!』
『大丈夫さ。だってセイヤッタは、正義の味方なんだろう?
おばあちゃんはお前の純粋で正しいところが、大好きなんだよ』
(!!)
『ふふ、勇気がでたかい?』
『うん、ありがとね、おばあちゃんっ!』
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
そのときにはすでに、セイヤッタ・ミーナルスは駆け出していた。
持ち前の身体能力は、兄弟の誰をも凌ぐ。
そしてこのとき、彼女の魔的才能が開花したのだった。
なぜだか、不思議と力が湧いて出る。
地面をける力が強くなり、より素早く動けるようになった。
よくよく考えてみれば、これが必然のようにも思え始める。
魔法により力を得からこそ、彼女は魔獣を撃退し、老人を助けることができたのだから。
・
・
「―――――――わかっているな?お前は一度決まったことを破ったんだ」
「はい・・・・・」
どうしてこの人たちはわかってくれないのだろう。
どうして・・・私はあのおじいさんよりも勉強を優先しなければならなかったのだろう。
(・・・・・)
いやちがう。
これはきっと、私に課せられた試練なんだ。
たとえ手錠をつけられても、絵本を開いて読むことくらいはできる。
―――――ガオレンジャーの冒険記。
昔祖母と何度も読んだこの本が、小さな少女のの聖書となっていることは言うまでもない。
「私が人を助けるのに理由なんてないさ。
すべての生物が呼吸をするように、私は強きものとして人を助ける。
そしてこれを読むんだ者たちよ。きみたちもともに戦おう」
セイヤッタは暗がりで、その最も気に入っている一説を読み上げた。
(うん、約束するよ)
私はこれからも、一緒に戦うんだ。
ガオレンジャーの言うように、それが正しいことだと思うから!
だから・・・・・・・・・・。
「ぎっと、き゛っと・・・・いつ゛か゛、私のことも助け゛て゛ね?
ガオレンジャー――――――‼」
”
(・・・・・・・もう、むりだよ)
いつの間にか、彼女の目尻にも大粒の涙が蓄えられていた。
「ーーーーーはは、なに泣いてんだか・・・」
(((・・・!!!!)))
瞬間、張り詰めた周囲の注意が一人の男に集まった。
顔面全体に地で赤く染め上げられ、かろうじて彼であると判別できる。
「おいセイヤッタ!!」
「うそ、私は魔法を解いてないよ⁉」
「チィ――――ッ!!」
動揺した様子の妹を見て、シャールはすぐさま駆け出す。
(どういうことだ)
死にかけの男に縛地が破られるなんて、考えられない。
「迷ってるお前なんて、敵じゃねえってことだよ」
偶然にも、問いに答えるようにセシルは口を開いた。
「セイヤッタ。お前の良さはいつだって真っ直ぐなところだろ?
なにを悩んでるのか、詳しくは知らないが・・・・」
そんなことは重要じゃない。
「お前の言うヒーローには相談できる仲間もいないのかよ⁉
なんでも一人でやる、そうじゃねぇだろ‼
ときには強敵に苦戦する。そのときのために俺達がいるんじゃないのか⁉」
(――――ッ!!)
仲間の言葉は、間違いなくセイヤッタ・ミーナルスに届いただろう。
「・・・・・黙れよ。
亜人と仲良くしてなにが正義だ?
クソの変態はさっさと死ねや」
「やめて!兄さん!!!!⁉」
構えられた剣・・・・シャール・ミーナルスはおそらく本気で彼を殺す気だろう。
"部隊には手を出さない"というセイヤッタとの約束など、もはや彼の頭にはなかった。
「ーーーーー雷魔法:エレミスティアン‼‼‼‼‼」
会心の一撃。
巨大な電圧のエネルギーが、セシル・ハルガダナを襲った。
が・・・・・。
「・・・・おい゛‼なぜ死なねえ⁉」
「断る、嫌だねッ゙」
男は朦朧とふらついた様子でそう叫ぶ。
(クソがッ゙‼)
だがもう一度入れれば流石に終わるだろ‼⁉
「あんまイラつかせんな!!!!!!」
▶▶▶▶▶▶▶▶▶
『ガギイーーーーーーーッ゙‼‼‼』
▶▶▶▶▶▶▶▶▶
兄妹の魔法が重なり合う。
そう、セシル・ハルガダナの背後から振り出された剣は、セイヤッタ・ミーナルスによって受けられた。
「はは、やっとかよ・・・・」
安堵から再び地面にぶつかり落ちるセシルとは逆に、シャールの表情はこれまでにないほどにこわばった。
「どういうつもりだ、セイヤッタァ‼
作戦が変わっても臨機応変に対応しろや‼お前は俺に従ってればいいんだよッ‼」
「ううん違うよ。これは兄さんが約束を破ったからでもあるけど・・・でも、私自身の意思なんだ!
だって私は王国軍第43部隊のセイヤッタ・ミーナルスだからッ!!
もう、あなたや家の言いなりにはならないんだ‼」
そこまで言い切るセイヤッタはもはや、自身に満ち溢れた本来の姿に戻っていた。
こうなれば、血縁であることは意味をなさない。
シャールは、彼にとって道具からただのクズに降格した少女に容赦のない嫌疑を浴びせ続ける。
しかし、驚くべきことに彼女はそのすべてを受け流し状況を有利にさえ運び続ける。
(馬鹿な、まさかこの俺が・・・セイヤッタごときに⁇)
一対一の戦闘ではほぼ互角。
しかし形勢はそう単純ではなかった。
シャールの部下、ノリ=カシオハンマーの土魔法にセイヤッタの足がとられると、彼は渋い顔をしつつもその隙を逃すまいと剣を構えた。
(まずい―――――)
セシルは移動魔法の準備をするが、うまく魔力が練れない。
このままでは、奴は本当にセイヤッタを殺してしまうだろう。
言うまでもなくこれは、絶体絶命のピンチだった。
「・・・・・・・もう、やっぱり。こんなことだろうと思ってたんだよ」
一瞬目をつぶっていた間、気が付くとセイヤッタは暖かい魔力に包まれていた。
彼女の窮地を救ったロッカ・ノセアダは、セシルハルガダナをにらむように一瞥する。
「無茶しないでって、言わなかったっけ?」
「う、あい・・・」
彼女からここまでの敵意に満ちた魔力を向けられたのは初めてだ。
それだけ心配してくれたのだろうが・・・・。
次の瞬間、方向を変えたノセアダはセイヤッタの頭をなでながらぎゅっと抱きしめる。
「よかった、いつものセイヤッタだねえ」
「う゛ん゛。ありがど、、、、」
仲間同士のほほえましい雰囲気だが、この格差はいったいなんだというのだろう。
(はいはい。まあ、あいつが来れば安心か・・・)
「・・・・・次から次へとッ、、、」
どんどんと不利になりつつある場に、シャール側は対照的にフラストレーションを溜めていく。
「もう終わりなんだよッ‼太極位筆頭の軍隊が到着するころだ‼」
(終わり―――)
そうだ、まだなにも解決してない。
「次の手を・・・いや、ここからなら・・・・・・・グウ‼‼‼」
グレーシャーに向かってなにかを語り掛けようとしたところで、セシル・ハルガダナは左胸の辺りに強い痛みを感じた。
(・・・・当然か)
「グレーシャー!セシル君を連れて一度あそこに戻って‼
ここは私がなんとかするから!」
「・・・・・・」
「グレーシャー?ネイナルスファ・グレーシャー‼頼んだからね!」
「あ・・・・うん。わかったよ」
彼に代わってノセアダが指示を出したとき、グレーシャーは状況にそぐわず、うわの空といった感じだった。
無論彼女は戦闘中。
まるでそれを妨害するようなふるまいは、さすがのノセアダの感情も逆撫でたようである。
(私は、いったいなにを考えているというのだろうな)
あの瞬間、私であればその場の全員を殺すことさえできた。
いや、そうするべきだった・・・最初から王国軍であるセシル・ハルガダナたちを信用していなかったのだから。
死ぬことを避けているのか?
違うそうじゃない・・・・たとえ死ぬことになったとしても最後まで魔神具を守り抜くのが私の使命だ。
「―――――普通に、怖くなったってことだろ?」
巨大な背中で見ると、すっかり小さく見えてしまう。
しかし彼の声は、しっかりとグレーシャーの耳まで届いた。
「起きてたんだ・・・・悪かったと思ってるよ。
でも―――――」
「―――考えてもみれば、わかりきってる。
なにもなければお前が俺を助ける意味なんてない」
「そうだね、おかしいんだ。
さっきから、私は戦いを起こすことをためらっている。
本来の使命を捨てて、逃げることすら考えるほどに」
(でも、その理由は―――)
「決まってる。
あいつらだろ?シルジョワスとマジャール・・・・お前が彼女らといつであったのか知らないが、どうやらお前は”神”というより”人”らしい」
「・・・・!」
そうか。
やっと気が付いた・・・私は、二人が死ぬのが嫌だった・・・怖かったんだ。
「・・・・ま、かなり鈍感な部類の人間らしいが・・・・・・・ゲホッ゛゛ハアハア・・・・・。
だったら、もう俺たちは運命共同体―――もう隠し事はなしで頼むぞ―――」
意識が遠のく・・・・・・。
「グレーシャー、お前・・・・!」
勘のいい彼は気づいたらしい。
だがこれ以上の負担をかけるわけにはいかない。
これからのことも考えれば、彼らはこれ以上王国軍との対立を深めてはいけないのだ。
だからこそいまは、眠っておいてもらう必要がある。
(その間に、決着をつける)
「・・・・そうだ。
つけさせほしい、私にけじめとしての最後を」
*
第三十七話に続く――――――――。
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