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第33話 夜会
しおりを挟むオベール王国の国王には、王太子エルネストを筆頭に4人の子どもがいる。
今日は、第一王女エリザベスの誕生日とデビュタントを祝うパーティーである。
王宮の大広間は、いくつものシャンデリアに明かりが煌々と灯されている。
天井は一面、見事なフラスコ画になっており、ここを訪れた者の多くが、感嘆の声をあげるほど美しく、荘厳であった。
招待された客が大広間に揃った頃、王族の入場となった。
本日の主役であるエリザベスは、真っ白なドレスを着て、ほほ笑んでいる。
たっぷりの生地に惜しみなくレースがあしらわれ、清楚でありながら華やかだ。
兄のエルネストに手を引かれ、堂々たる王女ぶりである。
エルネストも白を基調とした夜会服に身を包んでいる。
さすが一国の王太子、煌びやかな金糸の刺繍もさらりと着こなす。
王と王妃のダンスが終わると、エルネストとエリザベスが踊り、温かい拍手が送られる。
夢のように華やかな夜会が開かれている裏で、大広間に入れず騒ぎ立てている者がいた。
ジラール侯爵令嬢マノンである。
「どうしてわたくしが中に入れないのよ!わたくしはジラール侯爵令嬢なのよ!無礼者!お父様を呼んでちょうだい!」
入り口に立つ近衛に通行を止められ、地団駄を踏んで、顔を真っ赤にして怒鳴っている。
「ですから、招待状をお持ちでなければお通しすることはできないと申し上げております。おい、早くジラール侯爵様をお連れしろ」
目立たないように気を使いながらジラール侯爵を探し出し、丁重に案内したため、長い時間マノンを待たせていた。
娘が入り口で暴れていると聞きつけたジラール侯爵は、青ざめて急ぎ足でやって来た。
「マノン!何をしているのだ!」
「遅いわ、お父様!わたくしがジラール家の娘だと言っているのに、この近衛たちは入れてくれないのよ!間違いなく娘だって、言ってちょうだい」
「何を言っているのだ!お前はエルネスト様から不興を買って謹慎中の身、このような夜会に出席できるわけがないだろう。なぜ来たのだ?!」
「なぜって、そろそろわたくしのデビュタントだって、仰っていたじゃないですか。だから準備してきたのですわ」
見れば、マノンも白いドレスを着て、頭に派手な羽飾りをつけて着飾っている。
「たしかにデビュタントの話はしたが、それは今夜のことではない!おい、お前はたしかヤスミンだったな。お前が付いていながら何をしているのだ、はやくマノンを連れて帰りなさい!」
ジラール侯爵は頭から湯気が出そうな勢いでマノンをしかりつけると、しっしと追い払うしぐさをして、自分は大広間へ戻って行った。
取り残されたマノンは、去って行く父の後姿を睨みつけた後、ふん、と鼻で息を吐いた。
「わたくしを入れなかったこと、あとでエルネスト様に叱られても知らないんだから。まあ、いいわ。ヤスミン、行きましょう」
「はい、お嬢様」
マノンとヤスミンは連れだって歩き出す。
乗って来た馬車に戻ったのではない。
王宮の奥にある、薔薇園を目指した。
薔薇好きの王妃のために、王が整備させた薔薇園には、何種類もの薔薇が競うように咲き乱れていた。
「ヤスミン、困ったわ。わたくし、薔薇園に来てくださいって書いたのだけど、薔薇園のどこにいたら会えるかしら」
「さようでございますね、結構広いですものね。あちらの生垣の先でしたら、人目につかないのでは」
「ダメよ。そんなに目立たないところでは、エルネスト様が見つけてくれないかもしれないわ」
「では、入り口の近くになさいますか」
「そうね、そうするわ」
マノンは薔薇園のゲートとも言える、アーチの前でエルネストを待つことにした。
庭のあちこちに設置されたランタンが、幻想的な雰囲気を作り、美しい薔薇を照らしているが、ランタンの間隔があいている場所には、暗がりが広がっている。
その暗がりに息をひそめ、マノンの様子を観察している者がいることに、マノンとヤスミンは気が付かない。
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