私の執事は王子様〜イケメン腹黒執事は用意周到にお嬢様の愛を乞う〜

玖保ひかる

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第36話 伯爵家訪問 ~過去・出会い③~

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 リアムは追っ手がかかったかとひやりとした。

 勝手口から逃げ出そうかと腰を上げたとき、おかみさんが慌ててリアムの部屋に飛び込んで来た。

「リアム、待っておくれ。勘違いだったんだよ。ご領主様があんたを探していたのは、お嬢様を助けた礼がしたかったんだってさ!迎えが来ているよ。ちょっと行って礼をもらっておいで」

「ああ、ルシアお嬢様はご領主様のお嬢様だったのか…。でもおかみさん、お礼をしてもらうほどのことはしていないんだよ。辞退するから帰ってもらってよ」

「せっかくだから行って来たらいいのに」

「いいんだよ、別に」

 そんなやり取りをしている間に伯爵家からの使いがリアムの部屋までやって来ていた。

「そうおっしゃらずに、どうかお礼をさせてください」

 そう頭を下げたのはスチュワート家筆頭執事のセバスチャン。

 スチュワート家に勤めて早40年の年季の入った御仁である。

 いかにも上質な黒の三つ揃えを着こんで、髪はぴたっとオールバックに決めたイケオジである。

「私はスチュワート伯爵様のお屋敷で執事を勤めますセバスチャンです。この度はルシアお嬢様の命をお救いいただいたとのこと、大変有難うございました。ささやかではありますが、お礼の晩餐会を開かせていただきたく存じます。私と一緒に屋敷へ来てはいただけないでしょうか」

 大変丁寧に懇願され、リアムは少し困ってしまう。

 そんなうまい話は自分をおびき出すエサかもしれない、と疑った。

 セバスチャンはリアムの警戒心を見て取って、柔和な笑顔を見せた。

「何かご心配事があるのですかな。このセバスチャンが、あなたの身の安全は保障いたしましょう。あなたの意に反して何かを強要したり、身柄を拘束したりすることは絶対にしませんよ。なにしろ大切なお嬢様の恩人なのですから」

「でも、本当に礼なんかいらないんだ」

「そのような謙虚な所も大変すばらしい。実は、お嬢様が今一度お会いしたいと、それは大変強く希望されておられましてな…。連れて帰らなかったら私のこの髭を切ってしまうと言うのですよ」

 セバスチャンは口元のちょび髭を大切そうに撫でた。

 無邪気なルシアがセバスチャンを脅している姿を想像して、リアムの表情が少し緩んだ。

「どうか、私の髭のためにも、一緒にお屋敷においでくださいませんか。晩餐会が済みましたら、私が責任もってこちらまでお送りいたしますので」

 セバスチャンにほだされて、リアムは渋々頷いた。

「わかりました。ご招待を有難くお受けします」

 セバスチャンはにっこりと笑みを深めた。

「それは良かった!それでは、こちらへどうぞ」

「おかみさん、じゃあちょっと行ってくるよ」

「ああ、気を付けて行っておいで」

 女将さんもにこやかにリアムを見送った。

 女将さんの目の前で必ず送り届けると約束までしたのだから、ひとまずアンダレジア国は噛んでいなそうだ。

(しかし、油断はしない)

 少しの油断が命取りともなりかねないことを、リアムは知っている。

 表面上は友好的に迎えに来たからと言って、その実、どのような思惑が隠れているのかはわからない。

 いつでも逃げ出せるようにしなくては、と気を張りながらの伯爵家訪問となった。

 小高い丘の上のスチュワート邸に着くと、応接室へと案内された。

 豪華な内装の部屋に、簡素な平服で堂々と勧められたソファーに腰かける姿が妙に部屋にマッチしていた。

 リアムの到着を聞いて、ルシアは目を輝かせて応接室へと駆けつけた。

 廊下で追い越した母のクレアにもっとおしとやかに!と叱られたけれども、ご機嫌である。

「リアム!いらっしゃい!」

 応接室に入りリアムの姿を確認すると、満面の笑みを見せた。

 ソファーに掛けていたリアムはサッと立ち上がり、ルシアに向き直った。

「お嬢様、こんにちは。また会えたね」

「この前は助けてくれてありがとうございました。さようならも言えなかったから、どうしてもどうしても、もう一度会いたかったの」

「あはは、それはどうも」

 そこへクレアとお茶のワゴンを押したメイドが入って来た。

「リアム、紹介するわ。わたくしのお母様よ」

 クレアはリアムを見て優しくほほ笑む。

「お初にお目にかかります、メアリの船問屋で下働きをしていますリアムと申します。本日はお招きいただき有難うございます」

「ようこそおいでくださいました。先日は娘が危ない所を助けていただいて有難うございました。お礼を申し上げますわ」

「もったいないことでございます」

 リアムは礼儀正しくお辞儀をした。

 その優雅さは、やはり何の学習もなく身に着くような代物ではなかった。

(これはなかなか…)

 クレアは内心かなり驚いていた。

 身に着けた服こそ下町の貧しい民が着ている簡素な服であるが、その立ち居振る舞いも、見目麗しさも、ただの平民であるわけがないと思わされた。

「お掛けになって。いま、お茶を入れますね」

 クレアはメイドを下がらせて、手ずからお茶を入れた。

 大人が何人もいては平民の少年が緊張するだろうと考えたクレアの心遣いであったが、実際の所、そのような心配は杞憂であった。

 リアムはごく普通に、もてなしを受け入れた。

 育ちの良さは隠しきれない。

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