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第14話 慌てて目をそらし、話題もそらした

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「我が家は危うく沈没に巻き込まれるところだったのですね。ルシア様のおかげで助かりました。感謝しかありませんわ」

「そんな、わたくしは何も知らなかったのだから感謝されるようなことではないわ。スカーレット様がナリス王子殿下に嫁がれればまたアンドレイ侯爵家も盛り返すかしら…?」

 アリサは声を潜めて答えた。

「ルシア様、それはあり得ませんわ。没落寸前の侯爵家から王子妃が選ばれるわけがありません。ナリス様の後ろ盾になれる家の方でなければ」

「そうなのですね。…王子妃教育を受けていらしたのに気の毒だわ」

「…ルシア様はお優し過ぎます」

「そんなことないわ」

「ルシア様こそ、ナリス様のお相手にふさわしいのではありませんか?そういったお話は来ていないのですか?」

 ルシアはびっくりして目を丸くする。

「え?!ないわよ、もちろん。そんな王子妃を出せるような家門ではありませんし」

「そんなことありませんよ。伯爵以上の家で年頃も合いますし、資産も豊か。加えてルシア様は大変お美しいですし、ナリス様にも気に入られていますもの」

 突然ほめられて、ルシアは頬を赤く染めた。

「ナリス王子殿下とは親しくお話したこともないのよ。スカーレット様も誤解されていたようだけど…」

 実はアリサの言うことは間違っていない。

 ルシアが王子妃に選ばれてもおかしくないのだが、現時点では公爵家、侯爵家の高位貴族から選ばれるだろうと大方は見ている。

 アリサはちらっとリアムの顔を見た。

 ばっちり視線が合い、リアムはにこりとほほ笑んだ。

 礼儀正しいその笑顔にアリサは恐ろしさを感じ、慌てて目をそらし、話題もそらしたのだった。

「ルシア様、このお菓子は初めていただきました。とても美味しいですね」

 先日、ルシアも町で食べたカヌレである。

 ルシアはパッと笑顔になった。

「今、うちの領で大人気なのよ。それでね、今日はアリサ様と一緒にアイスクリームを作ろうと思って用意しているの。アイスクリームは召し上がったことがあります?」

「アイスクリーム!聞いたことはありますわ。ナバランド国の冷たいお菓子なのでしょう?」

 隣国であるナバランド国には北方に山岳地帯があり、標高が高いため冬場は天然の氷ができる。

 山奥の澄んだ泉の水からできる氷を、近隣に住む者が切り出して使っている。

 この氷を使って材料を冷やし作られるアイスクリームは、ナバランドへ足を延ばさなければ食べることができなかった。

 それ以外で氷を作るのは、氷結魔法を使えれば可能であるが、そもそも魔法を使えるものが大変少ないため、滅多に氷などお目にかかれる物ではなかった。

 しかし、ここスチュワート家では別である。

 夏場の飲み物にはいつも氷が浮いていたし、水揚げされた魚介類の鮮度を保つことにも大量の氷が使われている。

 その氷はリアムが魔術で作り出したものである。

 たいした苦も無く、空気中の水分を集めて凍らせ、氷をいくらでも作り出せるリアムは、スチュワート家で重宝されている。

「ええ。ナバランドから来た商人が作り方を教えてくださったの。簡単だから一緒に作りましょう?」

「はい!ぜひ!」

 リアムがタイミングよく材料の乗ったワゴンを押して来る。

 ワゴンに乗っている筒状の装置のような物を見て、アリサは首をかしげている。

 リアムがにこやかに説明をする。

「こちらはアイスクリームを簡単に作ることができる魔道具でございます」

「魔道具?!スパニエルの商人が持って来たのですか?」

「いいえ。アイスクリームのレシピを教えていただき、だれでも簡単にアイスクリームを作れるように当家で開発いたしました。ぜひやってみてください」

 筒状の上部の蓋を開け、ミルクと砂糖を入れ、蓋を閉める。

 筒の横に取り付けられたハンドルをぐるぐると回すと、すぐにハンドルが重くなった。

 これでアイスクリームの完成である。

「え、もう!?すごい発明だわ…」

 アリサは呆然とした。

「うちのシェフが作ったアップルパイに乗せて食べましょう。とても美味しいのよ」

 ちょうどよく出来立ての湯気が立つアップルパイが運ばれて来た。

 アイスをリアムがアップルパイのさらに盛って2人に差し出した。

「「わあ~、おいしそう!」」

 ルシアとアリサはさっそくアップルパイに取り掛かった。

 冷たいアイスクリームがアップルパイの熱でとろけて、口の中で程よく混ざり合う。

 甘くておいしい。

「お母様のお茶会でこのアイスクリームをお出しする予定なの。そこで皆様の反応が良ければ魔道具を販売するのよ」

 ルシアの言葉にアリサは悟った。

 スチュワート家が国一番の資産家なのは、領地に恵まれているためだけではないと。

 帰ったら父に報告しなくては、と思った。

 こうしてルシアの初めてのお友達とのお茶会は、大成功のうちに終えたのだった。
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