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第50話 再び巡り合う
しおりを挟む王太子本人は意識もなく、体から魔力の渦を出し続ける。魔力を抑えようと、高名な魔術師が王宮に呼ばれ、王太子の全身に魔力を抑える呪文が刻まれた。呪文が刻まれる痛みに一時、意識を取り戻した王太子だったが、愛する巫女を失った絶望から命を絶ってしまうのだった…。
サクは涙を流して王太子の人生を見守った。王太子を愛した巫女の心が、サクの中にあふれて来た。
サクは自然と理解した。
(蒼月様が王太子様で、私が巫女様なのだわ…)
二人の魂は生まれ変わり、長い年月を経て再び巡り合ったのだ。そう悟った時、すぐ目の前に蒼月の放つ魔力が球体のようになって輝く、その塊に迫った。地上からは見えなかったが、光の中心に蒼月の姿が見える。感電したようにエビ反りになり、意識はないように見えた。
「蒼月様!」
サクは蒼月に届くようにと声を張り上げて呼んだ。しかし、蒼月はピクリともしない。
やがてサクを取り巻く魔力の風は、蒼月をくるむ魔力の塊に吸収されついにはサクが塊に取り込まれるように一つになった。
「蒼月様、大丈夫ですか?私です!咲弥です!」
サクは意識なく浮いている蒼月の体を抱き留め、胸元に蒼月の頭を抱え込むように抱いた。二人の体温が混ざり合い、蒼月の青白かった頬に少しだけ赤みがさす。サクは目を閉じ、蒼月の幻想の世界へ再び入り込もうと意識を向けた。外からは、サクまでも意識を失ったように見えたかもしれない。
サクは深く、蒼月の中へと飛び込んだ。
蒼月によく似た青年が、涙を流しながらサクを見ている。
(ああ…、私の愛した王子様…。どうか、もう悲しまないで)
サクは遠い過去の自分、命を奪われた巫女となって、神楽を舞った。シャン、と手に持っていないはずなのに鈴が鳴り響く。
(私は生まれ変わって、またあなたに巡り合えた。だからどうか、目を覚まして)
巫女の想いが舞となって神へと届いたのか。
舞が終わった途端に、サクは蒼月にぎゅっと抱きしめられた。
「咲弥…。ありがとう」
「蒼月様!よかった…!」
サクは蒼月が意識を取り戻したことに安堵し、茫々と涙を流した。サクの涙を蒼月の長い指がぬぐい、二人はほほ笑みあった。
「ずっときみを探していたんだ」
「ええ」
「とても長い間、きみを待っていたんだ」
「ええ…!」
「何度生まれ変わっても、きみだけを愛していた」
「私も、あなたを愛しています」
蒼月はサクの頬を両手で優しく包み、そっと口づけた。唇が触れ合った瞬間、パリンと薄ガラスが砕けたような音を立てて、蒼月の表皮を覆っていた赤黒い文様が剥がれ落ちていく。
「蒼月様!呪いが、呪いが解けたのだわ!」
蒼月は信じられない物を見たように、目を見開き、震える両手から呪文が剥がれ落ちて行くのを見詰めた。すっかり全身の紋様が剝がれると、蒼月はこれまでの人生で感じたことのない爽快感を覚えた。
「体が軽い…!」
蒼月はもう一度サクを抱きしめた。
「今この時に、私は生まれ変わったのだね。咲弥、きみのおかげだ」
「いいえ、蒼月様の努力が実を結んだんですよ」
二人の周りを覆っていた魔力の塊も消え去った。蒼月は魔力の暴走を乗り越え、自らの意思で操作することができるようになっていた。サクを抱きしめたまま、蒼月は静かに高度を下げ、吹き飛ばされた森のふもとに着地した。
岩陰に身をひそめ隠れて様子を見ていた、蒼月の影が駆け寄って来る。
「蒼月様、ご無事でしたか!」
「ああ、すまなかった。心配をかけたね。皆に怪我はないだろうか」
「吹き飛ばされて打ち身や傷を負った者はいますが、みな無事です」
「そうか。良かった」
そこへ何頭もの馬が駆けて来る足音が聞こえて来た。国境の長城方面から、慮淵が駆けて来たのである。
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