上 下
50 / 53

第50話 再び巡り合う

しおりを挟む


 王太子本人は意識もなく、体から魔力の渦を出し続ける。魔力を抑えようと、高名な魔術師が王宮に呼ばれ、王太子の全身に魔力を抑える呪文が刻まれた。呪文が刻まれる痛みに一時、意識を取り戻した王太子だったが、愛する巫女を失った絶望から命を絶ってしまうのだった…。

 サクは涙を流して王太子の人生を見守った。王太子を愛した巫女の心が、サクの中にあふれて来た。

 サクは自然と理解した。

(蒼月様が王太子様で、私が巫女様なのだわ…)

 二人の魂は生まれ変わり、長い年月を経て再び巡り合ったのだ。そう悟った時、すぐ目の前に蒼月の放つ魔力が球体のようになって輝く、その塊に迫った。地上からは見えなかったが、光の中心に蒼月の姿が見える。感電したようにエビ反りになり、意識はないように見えた。

「蒼月様!」

 サクは蒼月に届くようにと声を張り上げて呼んだ。しかし、蒼月はピクリともしない。

 やがてサクを取り巻く魔力の風は、蒼月をくるむ魔力の塊に吸収されついにはサクが塊に取り込まれるように一つになった。

「蒼月様、大丈夫ですか?私です!咲弥です!」

 サクは意識なく浮いている蒼月の体を抱き留め、胸元に蒼月の頭を抱え込むように抱いた。二人の体温が混ざり合い、蒼月の青白かった頬に少しだけ赤みがさす。サクは目を閉じ、蒼月の幻想の世界へ再び入り込もうと意識を向けた。外からは、サクまでも意識を失ったように見えたかもしれない。

 サクは深く、蒼月の中へと飛び込んだ。

 蒼月によく似た青年が、涙を流しながらサクを見ている。

(ああ…、私の愛した王子様…。どうか、もう悲しまないで)

 サクは遠い過去の自分、命を奪われた巫女となって、神楽を舞った。シャン、と手に持っていないはずなのに鈴が鳴り響く。

(私は生まれ変わって、またあなたに巡り合えた。だからどうか、目を覚まして)

 巫女の想いが舞となって神へと届いたのか。

 舞が終わった途端に、サクは蒼月にぎゅっと抱きしめられた。

「咲弥…。ありがとう」

「蒼月様!よかった…!」

 サクは蒼月が意識を取り戻したことに安堵し、茫々と涙を流した。サクの涙を蒼月の長い指がぬぐい、二人はほほ笑みあった。

「ずっときみを探していたんだ」

「ええ」

「とても長い間、きみを待っていたんだ」

「ええ…!」

「何度生まれ変わっても、きみだけを愛していた」

「私も、あなたを愛しています」

 蒼月はサクの頬を両手で優しく包み、そっと口づけた。唇が触れ合った瞬間、パリンと薄ガラスが砕けたような音を立てて、蒼月の表皮を覆っていた赤黒い文様が剥がれ落ちていく。

「蒼月様!呪いが、呪いが解けたのだわ!」

 蒼月は信じられない物を見たように、目を見開き、震える両手から呪文が剥がれ落ちて行くのを見詰めた。すっかり全身の紋様が剝がれると、蒼月はこれまでの人生で感じたことのない爽快感を覚えた。

「体が軽い…!」

 蒼月はもう一度サクを抱きしめた。

「今この時に、私は生まれ変わったのだね。咲弥、きみのおかげだ」
「いいえ、蒼月様の努力が実を結んだんですよ」

 二人の周りを覆っていた魔力の塊も消え去った。蒼月は魔力の暴走を乗り越え、自らの意思で操作することができるようになっていた。サクを抱きしめたまま、蒼月は静かに高度を下げ、吹き飛ばされた森のふもとに着地した。

 岩陰に身をひそめ隠れて様子を見ていた、蒼月の影が駆け寄って来る。

「蒼月様、ご無事でしたか!」

「ああ、すまなかった。心配をかけたね。皆に怪我はないだろうか」

「吹き飛ばされて打ち身や傷を負った者はいますが、みな無事です」

「そうか。良かった」

 そこへ何頭もの馬が駆けて来る足音が聞こえて来た。国境の長城方面から、慮淵が駆けて来たのである。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

舞姫アフターストーリー

初心なグミ@最強カップル連載中
恋愛
日本に帰国した豊太郎はエリスという存在の大きさに気づき、エリスの元に帰ろうとする。 ドイツに行ける程の金と権力を手に入れた豊太郎がエリスの家に行くとそこには……!? 三つの分岐から織り成す豊太郎の結末をどうぞ! ーーー 日本に帰国した豊太郎は、エリスが居ない現実に打ちひしがれていた。家に帰っても親はおろか、大好きだったエリスも居ない。同じ留学生仲間も豊太郎に飽きたのか、使い捨てのボロ雑巾の様に忘れる始末。そんな現実を嫌になった豊太郎は、捨てた筈のエリスを自分の力で取り戻そうと決意する。エリスと別れてから五年後……自分で海外に行ける程の権力と金を手に入れた豊太郎は、五年前にエリスと過ごした家に帰るが、そこにエリスは…… 三つの分岐があり、ハッピーエンド、メリーバッドエンド、バットエンドの三つがあります。 これはあくまで二次創作ということと、作者に原作を陥れる目的が無いことを押さえた上で読んで頂けると幸いです。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

処理中です...