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第27話 天龍王との面会①
しおりを挟むもうとっくに人生を諦めていた蒼月だが―。
「咲弥…」
サクの姿を思い浮かべただけで、胸の内にポッと温かいともしびが燈り、髪に結ばれた組み紐が存在を主張する。
サクの力は一体なんなのだろうか。これまで呪いを解こうと色々調べて来たが、呪いの正体も、解呪方法もわからなかった。いつしか諦めてしまったのだが、もう一度調べてみようかという気持ちが湧いて来た。まだ調べていない所がある。
(禁書庫―)
王族しか入れない禁書庫なら、あるいはヒントとなるようなものが見つかるかもしれない。入庫の許可はもらえないかもしれないが、駄目でもともとだと、蒼月は天龍王への謁見を申し込んだ。
思いのほかすぐに、天龍王との面会は実現した。父、と思って相対したことは一度もない。あくまでも王と臣下である。
「久しいな。お前が謁見を申し出るとは珍しいこともあるものだ」
「陛下にご挨拶申し上げます」
「堅苦しい挨拶はよい。さっさと用件を言え」
「はい」
蒼月は下げていた頭を上げ、天龍の目を見た。
「では用件のみ。調べ物をしたいので、書庫への立ち入りの許可をいただけませんでしょうか」
「禁書庫か?ダメだ」
「しかし、もはや調べようがなく」
天龍は手に持った扇子をスッと軽く上げた。それを見て部屋にいた使用人や大臣たちもみな部屋から出て行った。
「調べものとは、その呪いのことか」
「はい。呪いの無効化について調べたいのです」
「無効化だと?」
天龍は鋭い目を細めた。
「その呪いは解くことができないと言っただろう」
「ええ、そのように聞きましたが。解呪ではなく、無効化について知りたいのです。例えば、特定の人物に無効化する能力があるのか」
「…まさか」
「陛下はこの呪いが何なのか、ご存知なのですね」
呪いは解くことができない、と初めて断言されたときから、本当は呪いの正体を知っているのではないかと疑っていた。王ともなれば、その言葉には責任を持たねばならない。何の裏付けもなく、断言などしない。
「だったらなんだ」
「やはり…。なぜ私に教えてくださらなかったのか、とは言いますまい。しかし私自身のことなのです。調べる権利くらいはあるでしょう。どうか禁書庫への立ち入りを許可してください」
「ほう、言うようになったな」
天龍は心なしか嬉しそうに口元を緩めた。
「…よかろう。呪いについて私が知っていることを教えてやろう」
天龍が語ったこと。それは、王家にのみ伝わる話。王家では、蒼月と同じようにこの呪いを身に宿す者が時々現れて来た。発現条件としてわかっているのは、王族の血を引くこと、長男であること。そして決して同時に二人には発現しないこと。遺伝病のようにとらえて来た面もあったと言う。
解呪を試しても、誰一人助かった者はいなかった。呪われた者の多くは短命に終わっている。激しい痛みや破壊衝動に耐えることができず命を落とした者もいれば、破壊衝動を抑えることができず周囲を荒らし、国を危機にさらし処刑された者もいる。呪いの発現を知るや否や親に殺された者も。蒼月も賊に襲われて命を落としたことになっている。ほとんどの者が生き残れない、という意味で、それは正しく呪いなのだ。
王家にそのような気狂いとも言える呪い持ちが定期的に現れるとなれば、人心は落ち着かない。王家を取り潰そうという動きだって出てきかねない。そのためこの事実は秘匿され、王位を継ぐ者だけが口伝されることとなった。万が一、自分の代で呪い持ちが生まれたときは、世に出すことなく始末せよ、と。長男が呪いの餌食となることから、第一子は位の低い妃に産ませる風習になったとか。
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