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第24話 呪いの発現①(蒼月の過去)
しおりを挟む蒼月の体に巣食う呪い―。
それは前触れもなく、あらゆる物を破壊したいという強い衝動となって蒼月を突き上げた。身体の中から突き上がる渇望、すべてを恨み、憎み、めちゃくちゃに壊してしまいたい。いっそのこと、その衝動に身を任せてしまえたらどんなに楽であろうか。
しかし、蒼月は人としての意識を失うまいと、目を固く閉じて体内を暴れまわる呪いと向き合ってきた。抑え込もうとすべての集中を己の闇へと注ぐとき、蒼月の体には青黒い呪文が浮き上がる。読み解くことのできないその紋様は、皮膚にじりじりと焼けつく激しい痛みを刻む。
内からの絶望と外からの痛みが、蒼月の心身を苛む。
この強い破壊衝動は、蒼月が生まれて間もなくから発現していた。
火が付いたように泣き始める蒼月。顔を真っ赤にして全身を突っ張らせて泣く。こうなると疲れ果てて眠るまで泣き止むことがなかった。
「ようやく寝てくれたわね。それにしても、本当に癇の強い子だねぇ」
「こうも泣くのでは、虫封じに行った方がいいんじゃないかね」
ベテランの女中たちはようやく寝た蒼月を寝台に降ろして、軽口をたたいている。唯一年若い女中のサワがおずおずと尋ねる。
「虫というのは…、殿下の中に虫が巣食っているということなのですか?」
「なんだい、若い子は疳の虫も知らないのかい?」
一人が呆れたように言うと、別のベテラン女中が説明した。
「虫って言ったって、その辺を歩いているあんな虫とは違うんだよ。目には見えない疳の虫ってやつが取り付いているの。神主様にお願いすると、手なんかにちょちょっと呪文を書いてくれて、悪い虫を追い出してくれるんだよ」
それを聞いてサワは、見るからにほっとしたような様子で笑みを浮かべた。
「なぁんだ、それならもう虫封じをしてもらったんじゃないですか。この子の腕に、時々呪文みたいな紋様が浮かび出てくるから、ちょっと怖かったんですよ。それを聞いて安心しました!」
ベテランの二人は顔を見合わせ、蒼月の産着を少しだけめくり腕を確認した。小さなこぶしを軽く握り蒼月の腕は真っ白で、サワが言うような紋様はなかった。
「ないじゃないの、びっくりさせないで」
「いえいえ、本当に時々出てくるんですよ」
「こんなきれいな小さな腕に紋様なんて…ひっ!」
三人が覗き込んだ時に、蒼月の手首の側からまるで草のツタが伸びて行くように、肘の方に向かい青黒い恐ろしい紋様が、見る見る広がって行った。するとようやく寝た蒼月が再び火が付いたように泣き始めた。
「あ、ほら、これです」
サワはあっけらかんと言い、蒼月を抱き上げあやし始めた。
呼吸も止めて驚愕していたベテラン女中たちは顔を真っ青にして、腰が抜けたように這いつくばって後ずさろうとした。
「ば、化け物…!」
そこにちょうど我が子の様子を見ようと、蒼月の母である下級妃の青葉が侍女のマアサを連れて部屋へやって来た。マアサは部屋の中を見るや否や、厳しい声を上げた。
「これは一体、何事です!」
ベテラン女中たちは顔を青ざめさせたまま、青葉のことも物の怪を見るような目で見た。ついさきほどまでは親愛の情で接してきていた女中たちの変わりように、青葉は眉をひそめた。
「殿下は呪われています!このような恐ろしい化け物の世話など、私にはできません!」
「わ、私も無理です。お暇させていただきます!」
「なんという無礼なことを!」
マアサは青筋を立てて二人を睨みつけるが、女中たちはそれも気にしていられないという様子で、逃げるように走り去っていった。
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