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第16話 神楽座①

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 王都の中央部、王宮から南に下った繁華街は大賑わいだ。サクはあちこちに視線を移している。驚きの連続である。まず人が多い。ヤタガノの全村人を集めても、賑わっている大きな飯屋の客の数にも満たないのではないか。

 人々が着ている着物も色とりどりで煌びやかだ。チナが着ていた桃色の着物ですら、ここでは地味で目立たないだろう。サクの紺一色の着物など言わずもがな。

 立ち並ぶ多くの店先には景気よくのぼり旗が立てられ、店員も客も明るく笑い、活気があふれていた。飴屋の店先に、まあるい大きな飴がいくつも並べられているのを見て、サクは飴と同じくらい目を丸くして、そのかわいらしい色とりどりの飴を見た。

「姫ちゃん、飴が欲しいの?」

 そんなサクをニコニコと見ていた悠遊が声を掛けると、サクは驚いて声を上げた。

「飴?これ、飴なんですか?こんなにかわいい飴があるなんて、さすが王都!」

「あははは、買ってあげようか?」

「いいんですか?!」

「好きな飴を選んでこの包みに乗せて」

 悠遊の言う通り、サクは黄色い飴と、赤と白の混ざり合ったかわいらしい飴を選んで包みに乗せた。

「ライもほら、好きなの選んで」

「おらはいらね」

「そう言うなって」

 悠遊は勝手にライの分の飴を選び、さっさと会計を済ませた。

「まいどあり!お嬢ちゃん、王都は初めてかい?一つおまけだ」

 飴屋のおばさんのおまけに、サクはまた喜んで笑顔を見せた。

「こんなにかわいいと、食べるのがもったいないな。取っておこうかしら」

「ははは、せっかく買ったんだからお食べ」

「うーん、でも、こうして見ていたら幸せな気持ちがずっと続くわ」

「食べたらもっと幸せだよ。また買ってあげるから」

 悠遊は笑って飴を一つ手に取ると、サクの口に放り込み、ついでにライの口にも入れてやった。サクは丸い飴を口の中で転がし、右のほっぺ、左のほっぺと順番に膨らませている。ライは飴を口にしたあと、衝撃を受けてしばし思考停止した。その後、バリバリとすごい音を立てて飴をかみ砕き、次の一個を口に入れ、またバリバリとかみ砕いた。

「さあ、ここが神楽座。まずは公演を見て、その後に座長と面談だよ」

 今日は悠遊が案内人となって、サクとライの3人でこの神楽座へやって来た。

 神楽座は絶賛公演中。派手な登りが何本も立てられ、人気の役者たちの名前がずらりと掲示されている。たくさんの客たちが連れだって続々と劇場内へと吸い込まれていく。

 サクはうきうきと地面から浮いてしまいそうなほど嬉しそうだが、対するライは不貞腐れている。それも仕方ないこと。サクの護衛として一緒に神楽座へ入るよう言われたのだ。蒼月の側仕えになりたくて王都まで付いて来たというのに。

(ちっ、なんでおらが子守しなくちゃならんのか。だいたい神楽ってなんぞ?)

 不本意ながらも、朝晩に蒼月から手ほどきを受けることを条件に、しぶしぶ引き受けた。

 機嫌の悪いライを気にしながらも、サクは初めての神楽座公演をとても楽しみにしていた。

「この神楽座は、王都で一番人気があるんだよ。今日の公演は、えーと、『紅蓮の天女』だって。地上に降りた天女が人間の男と恋に落ちるけど、天に戻らなくちゃいけないっていう悲恋の物語らしいよ」

 悠遊の説明にサクは衝撃を受けた。

「物語なんですか?!てっきり、舞を見るのかと思っていました」

「あははは、もちろん舞もあるよ。物語の台本の中で歌ったり、踊ったり、演じたりと、色々な芸を披露するのさ」

「ほえ~」

 簡単な説明を受けているうちに、テテテテン、と拍子木が打ち鳴らされ、極彩色の緞帳が開いた。すると舞台いっぱいに豪華な衣装をまとった出演者たちが立ち並び、一気に華やかな見世物の世界が広がる。観客たちからも、わあっと歓声が上がり、各々の贔屓の名前を大きな声で呼びかける者もいた。

 サクも思わず歓声を上げた。

「すごい!」

 お囃子に合わせ、一斉に出演者が舞い踊り、パッと鮮やかな扇が広げられる。

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