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第10話 王都への勧誘②

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 翌朝、いつもの時間にサブロは山へ狩りに行き、サクもいつも通り、手際よく畑の世話を始めた。

 昨夜は祈年の祭で神楽を舞った興奮や、その後に続いた王都行きの打診で、サクは疲れていたのに、頭ばかりが冴えてじんじんとし眠ろうと思ってもよく寝付けなかった。

 それでも鳥たちが澄んだ空に鳴き声を響かせ始める前には、ウトウトと眠りにつき、いつも通りの時間に目覚めた。

 すっきりしない気分のまま実った作物を収穫していると、早朝だと言うのに、坂道からデグが登って来た。

「サク!おはよう!」
「おはよう、デグ。どうしたの、朝から」

 デグは急いで登って来たらしく、額にうっすら汗をかいていた。

「おめぇの一大事だっつうからよぁ。サク、王都へ行っちまうのか?村じゃその話で持ち切りだぞ」

「え!そうなの?」

「お役人様が見初めて、王都に連れて帰りたいって?」

「やだ、全然違うよ」

 サクは恥ずかしくなって頬を赤く染めた。

「違うの、お役人様は、神楽を続けた方がいいって言ってくれたの」

「神楽?ああ、昨日の神楽はすごかったな!サクじゃないみたいにきれいだったな」

「ちょっと、それ褒めているつもりなの?」

「褒めているに決まってんだろ。オレ、初めて神様っているんだなと思ったよ。神降ろしの舞って、昔っから聞いてたけど、正直よくわかんなかった。でも昨日、サクの舞を見て、神様が降りて来た感じがして、オレ、鳥肌たったよ!」

 興奮して話すデグに、サクは面映かった。

「そ、そう?そんなに褒めても何も出ないよ」

「じゃあサクは、王都に行って神楽をやるんか?」

「まだ決めてない。そんな簡単に決められないよ」

「こんなチャンス、滅多にないぞ」

「うん…それはわかってる。でも、王都に行ったら、デグにもミツちゃんにも会えなくなっちゃうし…」

「サブロさんもいるんだし、たまには帰ってくるだろ?オレもミツも、おめぇがいなくなったからっておめぇのこと忘れるわけないし。会えなくってもずっと友達だろ?」

「私だってデグやミツちゃんのこと、忘れないわ」

「そうだべ?ミツも心配してたから、後で会ってやれよ」

「うん、わかった」

 デグが手を振って坂を下って行くのを、サクも手を振って見送った。

 昼前にデグに言われた通り、ミツに会いに行った。ミツは家の手伝いでヤマモモを取っていたが、サクが会いに来ると手を止めてにっこり微笑んだ。

「サクちゃん、昨日はお疲れ様。なんだか大変なことになってる?」

 心配そうに首をかしげて聞くミツに、サクは事情を話した。

「サクちゃんは、どうして迷っているの?」

「え、どうしてって…。お父さんを置いて行くのは心配だし」

「サブロさんも一緒に王都へ行けばいいのではないの?」

「え!・・・それもそうだね」

「じゃあ、問題は解決?」

「待って、それだけじゃないわ。神楽を続けるってことは、これから神楽で身を立てるってことでしょう?正直、想像がつかないの。好きなことしているだけで、生活していけるのかな」

 ミツはうーん、と小さく唸った。

「お役人様は神楽座を紹介してくれるって言っているのでしょう?その神楽座って言うのは、どんなところなの?村の神社とは、違うんでしょう?」

「よくわからないけど、神社とは違うと思う」

「わからないなら、聞いてみるべきだよ。よくわからないから不安なんじゃない?ちゃんと調べて、よくわかったら、自然と返事もきまるんじゃない?」

「・・・そうかも」

 普段は内気なミツだが、いつでも現実的なアドバイスをくれる頼れる親友だ。

 ミツと別れて、サクは神社へと向かった。巫女婆は神社の境内で竹ぼうきを持って鶏を追いかけまわしていた。

「巫女婆様、どうしたんですか?鶏を追って」

「あん?サクか。こいつはデグんとこの鶏さね。うちのヤギの餌さ、ガシガシ食っとるから追い払ってるんじゃ」

「デグの家の卵、うちもいただいてるんです。鶏にストレスを与えたら卵産まなくなっちゃうんで、許してやってください」

「いんや!許さん!うちのヤギが乳を出さなくなったら困るだろう?そっただこと言うなら、ヤギの餌やりさ行って来い!」
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