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第3話 巫女見習い③
しおりを挟む翌朝、まだ心を決めかねていたが、兎三つの時刻に、サクは神社へと出向いた。
「サクちゃん」
後ろから声を掛けられて振り返ると、ミツがいた。サクはホッとして、自然と笑みがこぼれた。
「ミツちゃん、よかった。来ないんじゃないかと思ってたわ」
「…顔を出さなかったら、巫女婆様に怒られるもの」
「そうよね。私もどうしようか迷っていたの。ミツちゃんも一緒なら心強いわ」
そこへチナのきつい声が割り込んで来た。
「ちょっと!なんで二人が来ているのよ。あなたたちは辞退するのでしょう?」
チナは腰に手を当てて、威張っている。
「巫女婆様がああ仰るから、練習だけは来てみようかと思ったのよ」
「はーん、やっぱりあんた、巫女様をやりたくなったのね?余所者は引っ込んでなさいよ。どうせ練習したって、この私が選ばれるに決まっているんだから、来るだけ無駄よ!余所者のサクもどんくさいミツも巫女様なんてできっこない!」
チナのために遠慮しようと思っていたのに、その気遣いを全くの無駄にされたと思ったら、サクもついカッとなって言い返した。
「そんなのわからないじゃない。余所者がダメというなら、高慢ちきなチナだってできっこないわ」
「なんですって!?」
一触即発の空気の中、パンパンと手を叩く音がした。神社から巫女婆が出て来たのだ。
「何を朝から騒いでおるのじゃ!お前らのうるさい声が村中に響き渡っておるわ!」
サクはハッとして、つい挑発に乗ってしまった己を恥じて俯いた。
チナは素早く泣きまねをして、巫女婆にすり寄った。
「巫女婆様!二人が私の悪口を言うんです」
巫女婆は目をカッと開いた。
「お前が先に言ったのだろうが!」
「えっ!ちが、なんでそんなこと言うんですか、ひどい!」
「なんもひどくないわい!話の内容は村中に聞こえたと言っておろうが!くだらんことを言い合っていないで、さっさと中に入って特訓の開始じゃ!」
「こんなこと言われて、特訓なんかできません!サクに謝罪を要求します」
「だったらお前が先に謝らんか」
「え、なんで」
巫女婆にまったく優遇してもらえなかったチナはそれでも言い返そうとしていたが、見かねてサクが自分からチナに歩み寄った。
「チナ、言い過ぎたわ。ごめんね」
「何よ、急に。…ま、わかればいいんだけど」
サクから謝られても引っ込みの付かないチナは、つーんと顔を背けている。すると、巫女婆が手に持っていた大きな張扇でチナの頭をスコーンとひっぱたいた。サクとミツはぎょっとして巫女婆の張扇を凝視した。
「お前も謝らんかい!」
「…ごめんなさい」
「よし!これで万事解決じゃ。とんだ時間の無駄じゃった。これでは今日の特訓はぎゅっとやるしかないのう。さあ、入りなさい!」
見習い三人は「ぎゅっと」の意味をそれぞれに想像して、顔色を悪くした。
こうして三人は巫女婆から神楽を学び始めた。はじめは神楽の成り立ちや、二月後に行われる祈年の祭の舞の意味などを座学で。座学が終わり、巫女見習いとしての所作を学び。
いよいよ神楽の振付が始まると、サク以外のみなが言葉を失うことになった。
「サク…、お前は一度で覚えてしもうたのか?」
「サクちゃん…」
「うそでしょ…」
サクは一度見せられた舞を、完璧に写して見せた。
それだけでない。長年神楽に携わって来た巫女婆がうなるほど、神秘的に舞ったのだった。巫女婆、チナ、ミツの三人は、魅入られたようにサクを見つめた。
タン、と拍子を踏んで舞が終わると、ハッと現実に引き戻され、巫女婆とミツは興奮して拍手を送った。
「サクちゃん、すごい!天才だよ!」
ミツは頬を薔薇色に染めてサクをほめたたえた。巫女婆もその言葉に激しく頷いた。
「まことにお前は天才じゃ!これならすぐにでも祭で舞えるわい!」
「えへへ、そんな、ほめ過ぎです」
サクは嬉しくて照れ笑いをした。
しかし、チナは憮然として立ち上がると、何も言わずに出て行ってしまい、それきり稽古場に現れなかった。
チナ不在のまま稽古は進み、いよいよ祈年の祭が目前に迫ったとき、正式にサクが奉納舞を務めることが決まった。
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