上 下
6 / 12

6

しおりを挟む
「あの…聞きたいことがあります。」

『うん。何かな?』

ずっと気になってたの…
デリケートなことだろうから、聞いてもいいかわからないんだけど…
だけど、気づかないフリはできないし。
そんなことしたくない。
うん。
余計なことだって怒られちゃっても、やっぱり聞かなきゃ。
私を見て欲しい。

「るーちゃんのことです。いつも目線は遠くを見てますよね?るーちゃんの心の時間だけ止まっちゃってるんですか?」

『ルーは…1年前からあの状態なんだ。今から話す内容は、少し長い話しになるけれど聞いてくれる?そして、里來にだけしか話さないから里來の胸にしまっておいて欲しいんだ。』

私が頷くと、スターリーさんは少し悲しそうな表情で話し初めたの…。

─────────────

1年前までこの国の国王は兄上だった。
とても、国民に慕われて家族思いの優しい兄上。
僕とは、年が離れていたのもあるけれど忙しい父上の代わりのように僕を大切に愛してくれていたんだ。大好きな兄上。

いつも忙しくて寂しい思いをさせているから…と言って兄上と姉上は忙しい公務を調整して…楽しみにしていた家族旅行へ出発したんだ

「しばらく留守を頼むね。スターリーがいるから安心して出かけることができるよ。ありがとう。」

本当に素敵な2人で大好きだったんだ。
出発の時の笑顔のみんなを見送ったのが最後になるなんて…思わないよ。
帰り道…嵐に巻き込まれて、馬車ごと転落するなんて。王族の馬車はとてもとても頑丈に作られているのに…。

発見された馬車の中で兄上と姉上が子どもたちを衝撃から守るように2人で双子たちの上で倒れていた…双子たちは、かすり傷1つも無くスヤスヤと眠っていたけれど2人は…息をしていなかった。

随分と昔はこの国にも、魔法を使える人達が存在していたらしいんだけど…今は魔法が使えるほどの魔力がある者はいないんだけど…王族には少しだけ魔力がある。
魔力が少しあっても、魔法を発動するほどでは無いんだ。
でもね…王族にだけは使える魔法が一つだけあるんだよ…それは、国王になった時にのみ伝えられる

”生涯で一度だけ使える防御魔法”


自らの命を魔力に変えて発動できる。

その発動の方法は、秘匿とされているんだ。

2人はその魔法を発動することで、子どもたちを守ったんだよ。
だから発見された時…双子たちは怪我も無く眠っていた。

目が覚めてからも…すぐに兄上と姉上のことは言えなかった。
僕自身が受け止められなかった…信じたくなかったんだ。
夢なら早く覚めて!!と何度も何度も思った。
僕が、勇気が無くてグズグズしていたせいで、双子たちは使用人たちがしていた話しを聞いてしまったんだ。

ムーは、両親が守ってくれたから生きていることを自分なりに受け入れられたようだったんだけど…

ルーは…心を閉ざしてしまった。

両親が居なくなったこと。
自分たちを命懸けで守ってくれたこと。
死んじゃったこと。
受け入れられなくて当然だよ…

ムーもまだ5歳だ。
だけど、ルーが心を閉ざしてしまってからムーはずっと離れず傍にいる。

ムーとルーは、本当にワンパクで2人で勝手に探検に出かけたりメイドにイタズラをしたり…元気いっぱいでいつも笑っていたんだ。
姉上はいつも言っていた。

「怒ろうとしてるのに、変顔をするから笑っちゃうの!」

ムーとルーは2人で一つ。
どちらが欠けてもダメなんだ。
泣くのも笑うのも怒るのも眠くなるのも…何でも一緒だったのに…今…ルーの心はここに無い。
ムーは、そんなルーから片時も離れないんだ。

ムーは、母がいればまたルーが戻ってくるかも知れないと思ったんだろうね。
だから”願い石”を探しに行ったんだ。
”願い石”のお話しは、双子たちが大好きなお話しで姉上が何度も話して聞かせていたんだ。
”大切な思い出のお話し”

【かぁさまをください】

願い石を見つけることができて
願いを叶えてもらえたけれど…
里來が来てくれたけれど…

僕が里來に話したことを聞いていて
里來が家族の元に帰れないことをあの子なりに理解したんだろうね。

だから…ごめんなさいって言ったんだと思う。

双子たちは、年齢以上に理解する力があるんだと思う。

僕が…もっと早く…双子たちに兄上と姉上の話しをすれば良かったんだ。
僕に勇気がなかったばっかりに…
心無い大人たちが、噂話をしていた時に兄上と姉上の馬車の中のことを話しているのを聞いてしまったんだ。
本当のことだけじゃなくて…
誇張されて…
まるで双子たちのせいで死んでしまったように…。
犠牲になったかのように…。

それを聞いたルーが暴れて泣き叫んで、繋いでいたムーの手を振り払って走り出して隠れてしまった。
ムーが見つけた時は気を失って倒れていたんだ。

そして…目を覚ましたら心を閉ざしていた。
ムーは、手を離してしまった自分のせいでルーがこんな風になってしまったんだと思ってるんだ。
だから…
ムーは、あの日から絶対ルーから離れないんだ。

全部…僕のせいなんだ。
僕が意気地無しで勇気がなかったばかりに…傷だらけの双子たちを…
双子たちを守りきることもできずに…
傷を更に増やしてしまったんだ。

───────────────

スターリーさんのグッっと握った両手は、細かく震えている…
私は涙がポロリと零れちゃった。
泣いちゃダメだよ!
私!!堪えるんだ!
辛いのは私じゃない。
私にできることがあるのかな…
わからないけど…
だけどね…
森の女神さまが願い石の願いを叶えるために私を選んでこの世界へと導いたんなら…
きっと、何か意味があるんだよね。
私にできることがきっとあるんだよね。

「あの…」

私の言葉に重ねるようにスターリーさんは話しだしたの。

『里來…話しを聞いてくれてありがとう。
僕は、王になる器じゃないんだよ…。
自分の気持ちを優先してしまって、1番大切にしなきゃダメなことを後回しにしてしまった。
王は、いつでもどんな時も冷静に最優先しなければいけない事を瞬時に判断して指示を出せなければ国を…民を守ることは出来ない。
泣き虫で決断力のない僕ではダメなんだ。
だけど、兄上と姉上が命を懸けて守った双子たちを僕も命を懸けて守ると決めたんだ。
双子たちのどちらかが王になるその日まで、僕はこの国と双子たちを守っていくんだ。

ごめんね…里來にこんな話しまでしちゃって。困っちゃうよね…。
僕はホントに、弱虫で泣き虫な王さまなんだ。』


ずっと空を見上げながら話しをしていたスターリーさんが私の方に向いてから、一度深く長い深呼吸をしてから立ち上がった。
そして…私の前に跪いたの。


『里來…森の女神さまとその子どもたちに愛される愛し子。どうか、双子たちの未来を見守っていただけませんか?お願い致します。』




















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

ゆとりある生活を異世界で

コロ
ファンタジー
とある世界の皇国 公爵家の長男坊は 少しばかりの異能を持っていて、それを不思議に思いながらも健やかに成長していた… それなりに頑張って生きていた俺は48歳 なかなか楽しい人生だと満喫していたら 交通事故でアッサリ逝ってもた…orz そんな俺を何気に興味を持って見ていた神様の一柱が 『楽しませてくれた礼をあげるよ』 とボーナスとして異世界でもう一つの人生を歩ませてくれる事に… それもチートまでくれて♪ ありがたやありがたや チート?強力なのがあります→使うとは言ってない   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 身体の状態(主に目)と相談しながら書くので遅筆になると思います 宜しくお付き合い下さい

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...