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美と破壊の化身ヒルダ様

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 仁亜の目の前に、ど迫力の美女がいる。
 彫りの深い顔、高い鼻。褐色の肌に馴染むダークブラウンの髪、ぽってりとした唇。
 そして最も印象的なのは宝石のような緑色の瞳だった。
 …シャンプーのCMに出てそうだな。

「こちらへ…」
「スーパーリィィイッチ!」
「?」
「いえなんでもないです失礼します」

 席に座るよう促され、ビックリして奇声をあげてしまった。マネキンじゃなかったのか。
 慌てて椅子に座る。

「…………」
「…………」

 互いに沈黙している。あ、コレは私から挨拶するパターンでいいのかな。

「はじめまして妃殿下。私は仁亜と申します」
「……ヒルダです、よろシク」

 あれ?ちょっと違和感。

「今日はお招きいただきとても嬉しいです」
「ずっと、話したかッタ。会えるまで、我慢シタ」

 …えーっと、どういうことなんだぜ?
 私まで語尾がおかしくなる。なぜ若干カタコトなのだろう。
 彼女は隣国タナノフから嫁いだと聞いたが、このアイシス国とは言語が一緒のはずだ。
 私は考えている事が顔に出やすい。たぶん妃殿下にも伝わったのだろう、彼女は続けてこう言った。

「貴女の言いたい事や意味ワカル。私緊張しい、上手く話せナイ。昔カラ」

 …つまり、彼女は相手が話すことは理解できるけど、自分からは言いたいことを上手く言えない性格のようだ。
 あ、じゃあ筆談しましょうよと言いかけてやめた。私がこの国の文字を理解できてない。なら仕方ない。

「ゆっくりでいいですよ。せっかくのお茶会ですし。妃殿下がお時間許す限り、楽しくお話ししましょう」
「…ありがとう、ニア。私、ヒルダと呼んデネ。イイ?」

 そう言って控えめに笑う妃殿下は本当女神だった。どうしてこんな美人がチャラ殿下と…はっ、そうだ。

「じゃあヒルダ様。チャラ…ギリアム様とはどうお知り合いに?」
「私は人見知り、いじめらレタ。だから鍛えて強くなッタ。でも決闘の申し込み来ても縁談はなかッタ。
 心配した母、弟のタナノフ王に相談スル。アイシス国に同い年のギリアムがイタ。お見合いシタ」
「…ちょーっとお待ち下さい、今何か不穏な単語が…け、決闘?」
「タナノフ人、戦うのスキ。強い人見ると決闘スル。私ちょっと強い、男みんな戦いたがッタ。でも血を見るのはイヤ」
「…ちなみに武器とか使われるんですか?」
「…コレ」

 サッと出されたのは三節棍だった。もう一度言う、三節棍だ。
 テーブルクロスで見えなかったが、多分スカートの中から出してた。常に持ち歩いてるのだろうか。

「これは剣や槍と違う、斬りつける事はナイ。血が出ない、見なくてスム。連結もでキル」
「わー便利ー」

 そう言うしかなかった。…棒読みになっていなかっただろうか。
 こんな、見た感じ重そうな棒を振り回せるのヒルダ様?
 血ぃ出なくても当たったら普通に人が死ぬ気がするんだけど。

 …殿下の話に戻そう。

「じゃあ殿下とお見合いして、お互い印象が良かったから結婚したんですか?」
「私は人見知りで男の人知らナイ。ギリアムの事も正直良いか悪いかわからなかッタ。
 だけど公爵家の娘だから、国の事を考えて結婚相手を決めないとダメ。
 向こうも同じで、近い年の貴族の娘がいなかッタ。だからお互い結婚を決メタ」
「えーっ、そうですか」

 政略結婚?ってヤツか。立場上仕方ないだろうけどちょっと寂しいな。
 っていうのも顔に出ていたらしい。ヒルダ様はこう言った。

「最初はそう思ってた、でもギリアム違ッタ。人見知りな私にも優しくしてくレタ。プレゼントもくれタノ」

 そう言ってポケットから出したのはブレスレットだった。真ん中に綺麗な丸い石がついている。翡翠みたいだな。

「ヒルダの瞳の色だって、笑ッテ。すっごく嬉しかった、でも私が触った途端にこうなっタノ」

 近くで見ると、一周ぐるっと囲むようにヒビが入っていた。一度真っ二つに割れたのを、くっつけたのだろうか。

「つまんだだけでこうなっタノ。ギリアムひいてた、私悲シイ。
 普段は意識して力を抑えらレル。でもギリアムだけは会うと違う、全身が熱くなって力が制御できなイノ」
「ほほう、それは恋ですねぇ!いやーん、政略結婚から始まる恋。最高のシチュエーションじゃないですか!」

 ヒルダ様の突然の恋バナに思わずテンションが上がる。
 …翡翠って硬度高いはずだけど!つまんだだけで割れたってのは…聞かなかった事にしよう!そうしよう!
 興奮する仁亜に対し、ヒルダは急に憂い顔になった。

「でもギリアムに会おうとする度、プレゼントをもらう度に、私色々なモノ破壊シタ。
 茶器、ドアノブ、テーブル、馬車の柱、ペンダントのダイヤ、指輪のルビー…。彼はその度に悲しい顔をした、たぶん怒らセタ」
「え、えっ?」
「だから私、平常心を保つ為に心を閉ざシタ。せめてアイシス国のために世継ぎを作ろうと思ッタ。
 何も考えない、言わない、そうすればなんとかなッタ。
 結婚してすぐ双子を授かったけど、子供が可愛くて子育てに夢中だッタ。いつの間にかギリアムの事を全然考えられなくなってイタ」
「そ、そんな…」

 惚気話が始まると思いきや…突然の急降下に耐えきれず白目になる仁亜だった。

 っていうか、壊すものがどんどんレベルアップしてるんだけど…
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