4 / 4
4
しおりを挟むあっという間に五年が過ぎてしまった。
私はオズワルドの妻となり公爵夫人となった。子宝にも恵まれ三人の男の子を産んだ。公爵夫人としての最低限の務めは果たしたといえる。
「ヴィア、せっかくの結婚記念日だ。今日は二人でゆっくり過ごそう」
愛しの旦那様の美貌は五年たってもかわらぬまま。庭園に咲いている華やかなはずの花たちは全て彼の添え物のすぎない。
「これまでは子どもたちと一緒に過ごしてきたのに今年になって二人きりがいいなんて、いったいどうしたの?」
「これまでずっと我慢してただけだ」
オズワルドは私の手の甲に口付けた。
彼からの重すぎる愛は五年間ずっと変わることなく重いままだった。いや、むしろ重くなった気がする。
妊娠中は歩くなと言わんばかりに私をお姫様抱っこして移動しようとするし、出産後も身体を労わってくれてずっと付き添ってくれていた。
それが三回。初回だけでなく妊娠するたびに繰り返された。
ひとたび体調を崩せば片時も離れず看病してくれるし、私が心配だからと少しの外出にもついてくる。というか敷地内の庭園でも常に隣にいる。
屋敷の使用人たちも呆れるほどの過保護ぶりだ。
もちろん今のように健康で元気なときでさえ彼は私を壊れ物のように大切に扱ってくれる。
人前では少し恥ずかしいけれど、こうやって二人きりのときには……正直嫌ではない。
「足元に気を付けるんだ。転んだら大変だからな」
「転んだくらいじゃ大変なことにならないわよ。いい加減過保護にするのはやめて。恥ずかしいの」
「今は二人きりだ。誰も見ていない」
「それはそうだけど……。でも貴方はいつも周囲に人がいても気にしないじゃない」
私は立派な大人で三児の母で、もう少女という年齢でもないし新婚と言える期間はとうに過ぎている。
二人きりの時だけ、が出来ないのだからやめてもらうしかないのだ。
ちょっと寂しいけれど言ってすぐにやめてくれる人じゃないから早めに手を打っておきたい。
三十過ぎてもこんな状態だったらさすがに恥ずかしいなんてもんじゃないし。
「気にする必要がないからな」
「もう、それが困るのよ。私たちはもう立派な大人なのよ。子どもたちの見本にならなければならないの。父親である貴方が我慢できない人なのに子どもたちになんと言って我慢を覚えさせたらいいの?」
「ふむ…………ではこうしよう。我慢をやめるのは寝室にいる時だけ。外では昔のように少し距離をとって接しよう」
「えっ、本当にできるの……?」
「ああ。ヴィアが望んでいるのだからやるさ」
思わず苦笑する。
私の望みを彼が叶えてくれたことは一度もなかった。
いつだってそう。
でも気付けばそれで満足していた。
オズワルドからの婚約破棄を望んでいたはずなのに、結婚した今はこれで良かったと思ってしまっている。
「では今から寝室に向かおう」
「は……? なんで寝室?」
「寝室では我慢しなくていいのだろう?」
眩しい笑顔でそんなことを言う彼に頭を抱えたくなった。
「さあ行くぞ。今日はずっと寝室で過ごすことにしよう」
「今はまだ十時なのよ?!」
「ああ。ゆっくりできるな」
違う、そうじゃない。
けれどもうオズワルドは聞き入れてくれないだろう。
でも本当は、彼の嬉しそうな顔を見たら何も言えなくなるだけだ。
だってその顔を見るのが私の幸せだから。
いつからこんなに好きになってしまったのかはもうわからない。
歩き始めた彼の腕に抱きつくように腕をからめる。
「ヴィアも離れるのが寂しくなったのか?」
「馬鹿なこと言わないで。今日は特別だからよ。それに、今は二人きりでしょう?」
私の言葉にオズワルドは満足そうに笑った。
0
お気に入りに追加
32
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になる前に、王子と婚約解消するはずが!
餡子
恋愛
恋愛小説の世界に悪役令嬢として転生してしまい、ヒーローである第五王子の婚約者になってしまった。
なんとかして円満に婚約解消するはずが、解消出来ないまま明日から物語が始まってしまいそう!
このままじゃ悪役令嬢まっしぐら!?
農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~
可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
転生できる悪役令嬢に転生しました。~執着婚約者から逃げられません!
九重
恋愛
気がつけば、とある乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた主人公。
しかし、この悪役令嬢は十五歳で死んでしまう不治の病にかかった薄幸な悪役令嬢だった。
ヒロインをいじめ抜いたあげく婚約者に断罪され、心身ともに苦しみ抜いて死んでしまう悪役令嬢は、転生して再び悪役令嬢――――いや悪役幼女として活躍する。
しかし、主人公はそんなことまっぴらゴメンだった。
どうせ転生できるならと、早々に最初の悪役令嬢の人生から逃げだそうとするのだが……
これは、転生できる悪役令嬢に転生した主人公が、執着婚約者に捕まって幸せになる物語。
姉に全てを奪われるはずの悪役令嬢ですが、婚約破棄されたら騎士団長の溺愛が始まりました
可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、婚約者の侯爵と聖女である姉の浮気現場に遭遇した。婚約破棄され、実家で贅沢三昧をしていたら、(強制的に)婚活を始めさせられた。「君が今まで婚約していたから、手が出せなかったんだ!」と、王子達からモテ期が到来する。でも私は全員分のルートを把握済み。悪役令嬢である妹には、必ずバッドエンドになる。婚活を無双しつつ、フラグを折り続けていたら、騎士団長に声を掛けられた。幼なじみのローラン、どのルートにもない男性だった。優しい彼は私を溺愛してくれて、やがて幸せな結婚をつかむことになる。
死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。
拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。
一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。
残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる