収穫祭の夜に花束を

Y子

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10月28日

18.サンはルーナにお菓子を買ってもらう

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 生まれて初めて訪れたパティスリーはまるで夢のような空間だった。

 見慣れないものをルーナに聞くとここにあるものは全てお菓子なんだと教えてくれた。
 あのガラスの奥にあるものはケーキで、タルト、クッキー、マドレーヌ、あとスコーンとジャムも並べられているんだそう。
 近くにある棚には飴やマシュマロ、チョコレートというお菓子が置いてあるらしい。

 僕は知らないものばかりだけど、それらはきっとすごく美味しいものたちなんだろう。
 店内は甘い香りで満たされていた。その香りに、ルーナと一緒に食べたお菓子を思い出す。
 
 今はハロウィンというお祭りの期間らしく、オレンジの歪な丸い顔の何かがそこら中に飾られている。
 ジャックオーランタン、というらしい。

「サン、気になるものはあったかい?」
「わ、わかりません。全部美味しそうで……」
「そうかい。じゃあ全部買うとしよう」
「えっ、でもこんなに食べられません!」
「気にしなくていい。どうせ次元の狭間に置いておくんだ。腐ることはない」

 そういってルーナは全てのお菓子を買うとお店の人に告げた。
 店内が騒々しくなる。

 僕はその様子をぼーっと眺めていた。

 知らない人が僕の横を通り過ぎる。
 他人と目があっても誰も僕のことを怖がらない。
 まるでここにいることが当たり前であるかのように、彼らは僕を気に留めなかった。

 たったそれだけのことなのにとても嬉しい。
 目の色が違うだけでこんなに世界は変わるのだ。
 もしこの目が赤くなければ、僕は親に捨てられることもなく普通に、今目の前を歩いている人たちのように生きていくことができたのだろうか。

「さあ行こう。他に欲しいものはないかい? なんでも買ってあげよう」

 戻ってきたルーナは何も持っていなかった。
 たぶん次元の狭間といっていた場所に荷物を入れたのだろう。

 入ってきたときと同じように二人で店を出る。
 もうそのお店からは甘い匂いはしなくなっていた。

「ほかに欲しいもの……その、思いつかないんです」

 食べ物はルーナがくれる。
 お菓子だって買ってくれた。
 着る服もあるしふかふかのベッドも温かい布団もある。
 何よりこうやって隣にいてくれるルーナがいる。
 それ以上望むものなんて僕にはなかった。

 しかし、そんなタイミングで僕のお腹はぐーっと鳴った。
 そういえばいつもルーナが起きたら一緒に食事をしていたのに、今日は街にきたから何も食べていなかった。
 僕は少し恥ずかしくなってお腹をおさえた。

「お腹がすいているようだね。それではごはんをたべよう」

 ルーナはさっきと同じように僕の手を引き食事ができるところまで連れて行ってくれた。
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