収穫祭の夜に花束を

Y子

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10月28日

16.サンはルーナと出かける準備をする

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 朝が来た。
 これまでと同じようにルーナが用意してくれた果物を食べて着替え、一階にいって掃除をする。
 そして昨日と同じように花を摘んで花冠を作った。
 昨日よりはいくぶん上手く作れた気がする。

 そうしてこれまでと同じように起きてきたルーナの手を引いて階段を降り、昨日と同じようにルーナの頭に花冠を乗せた。
 ルーナは花冠に喜んでくれるわけでも嫌がるわけでもなく、ただ右手でそっと花冠に触れる。

「今日も作ったんだね。これを作るのが好きなのかい?」
「いえ、そうじゃなくて……昨日のがあまり上手に作れなかったから……。ちゃんと綺麗に作れたのをあげたかったんです」
「そうかい。……サン、今日は街に買い物にいくよ」

 ルーナの言葉に僕の心臓は大きくはねた。
 街は人が大勢いる。
 僕が行けば大騒ぎになってしまうのではないだろうか。
 街には教会だってある。異端な僕は捕らえられて火あぶりにされてしまう。

 しかしルーナは僕に優しく笑いかけた。

「私たちの目の色は魔法で違う色に変えるから心配しなくていい。サンは何色の目が好きかい?」

 聞かれて困ってしまった。
 そんなこと考えたこともない。
 おばあちゃんの目は茶色だった。村の女の子の目は灰色だった。
 
 そして茶色と答えようとしたとき、ふと絵本の妖精の姿を思い出した。
 あの妖精は金色の髪と青い目だった。
 そう、あの高く澄んだ空のような色がとても好きだったのだ。

「青い色の目がいいです」
「おや、また珍しい色を選ぶんだね。いいよ、青くしてあげよう」

 そうしてルーナは僕の顔の前に手をかざした。
 たぶん魔法をかけてくれているのだろう。少しだけ目のあたりが温かくなったと思ったらルーナの手は降ろされた。

「ふむ、なかなか似合うじゃないか」

 そうして見上げたルーナの瞳は青かった。
 それは、高く澄んだ空のような青ではなく、深く落ち着いた海の青だった。
 絵本の妖精に似ているけれど違う青。だけど僕はルーナにはその青の方が似合うと思った。

「これなら怖がられたり逃げられたりしませんね」

 人と普通に話すことができるだろうか。
 街には人が大勢いる。
 誰か一人でもいい、僕を普通の人間として見てくれる人がいるのではないだろうか。
 それに、街にはお店がたくさん並んでいると聞いた。
 僕はそんな人が集まるような場所にはいけなかったから見たことはないけれど、そのお店で買い物をしてみたかった。
 お店には何が置いてあるのだろう。
 どんな形をしているのだろう。

 僕は何も知らない。
 それは生きていくことに夢中で周りを見る余裕も学ぶ余裕もなかったからだ。
 だからこうやって知らないものを見せてもらえるのがとても嬉しい。

「では行こうか」
「あ、ルーナ様、頭に花冠をのせたままですよ」

 僕はルーナが花冠を頭に乗せたまま外に出ようとしていることに気が付いた。
 その姿は妖精のように見えて僕は好きだったけど、普通の人は花冠を乗せて出歩くことがないことくらい、何も知らない僕でも知っている。

「だめかい?」
「いえ、そういうわけでは……」
「まあ確かに落としたら大変だね。これは置いていくことにしよう」

 そういってルーナは僕作った花冠をやさしくテーブルの上に置いた。
 その花冠はまだまだ歪だし高価なものでは決してないのに、丁寧に扱ってくれているのを見てすごく嬉しくなった。

「これで何も問題ないね。帰ってきたら昨日の花冠の隣に飾ろう」
「はい」

 僕は返事をしてルーナの横に並ぶ。

 ここからどうやって街まで行くのだろう。
 僕がこの家に来たときのことは覚えていないから異界と現界の狭間にあるというここから街までどのくらいの距離があるのかわからない。
 馬車で行くのだろうか。
 僕は馬車には乗ったことがないから楽しみだな、なんて考えていた。



 家の扉を開けると、そこに広がっているはずの原っぱはなく、街の大通りと行きかう多くの人々が眼前に広がっている。

「??????」
「ああ、サンは初めてだね。現界ではここに家があるんだよ」

 そういわれても何が何だかわからない。

 僕は何度も外と中を見比べた。
 後ろには今までいたダイニングだ。
 ルーナが置いた花冠もちゃんとそこにある。
 
 前には活気のある大通り。
 人々が目の前を歩いていく。馬車が目の前を横切る。
 いつもいる家と違って常に誰かの声がするし何かのぶつかる音や靴が石畳を叩く音がそこら中から聞こえる。

「ここはセトリア国の首都、グダニアだ。今日はここで買い物をするんだ」

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