収穫祭の夜に花束を

Y子

文字の大きさ
上 下
15 / 27
10月27日

15.ルーナは収穫祭の準備をする

しおりを挟む


 サンの昔話を聞いた。
 どう応えればよかったのだろうか。

 サンが眠りにつき、静まり返った家でルーナは考える。

 サンが話を聞いてほしそうだったから大人しく話を聞いた。
 その後サンはルーナの返答を明らかに待っていた。
 しかしルーナはそのサンの過去に返す言葉を持っていなかったのだ。

 だから何事もなかったかのように瓶詰作業に戻った。

 そのことを後悔したのは、呆然としたサンの顔を見たからだ。
 きっとサンは何か言葉をかけてほしかったのだろう。

 しかしルーナは人間の心の機微がわからない。
 ルーナはもとは蛇で、魔女になってからも他人との交流を嫌っていたからだ。
 だから他人の心がわからない。
 どうすれば喜ぶのか、どうすれば悲しむのか、ルーナにはわからなかった。


 今まではそれでいいと思っていた。
 慣れ合いなんて必要なかったからだ。

 でもそのせいでサンを悲しませてしまったのだとしたら。

 しかしそれはもう過ぎたことだ。
 そして今更どうしようもない。
 
 サンを見ているとルーナは今まで気にもとめなかったことが気になってしまう。
 何か大事なことがあったような気がするのに、それをどうしても思い出すことができない。
 なんだっただろうか。
 サンを見て感じることなのだからサンに関係することだろう。
 だがあの子と出会ったのは数日前だ。
 さすがにその短い期間で大事なことを忘れるわけがない。


 ルーナは考えることを一旦やめることにした。

 そして今やるべきことに集中する。
 収穫祭は31日の夕方から始まる。
 子どもたちが仮装してお菓子をもらいに近所の家を訪ねるのだ。


 例年であれば苗床探しがあるためにそんなバカげたお祭りに参加することはなかったのだが、今年はサンがいる。
 サンが発芽するのは31日の夜だ。
 つまり夕方にはまだサンはあの姿のままなのだ。

 それならば他の子どもたちと同様にお菓子を与えるべきだろう。
 仮装は……仮装も、サンが望むのならばさせてあげよう。
 
 
 ルーナは次元の狭間に入れてあるものを確認する。
 食べ物と薬の材料となるトカゲや蜘蛛、蝙蝠、そして家に入りきらなかった様々なもの。
 
 収穫祭のお菓子として使えるようなものはなかった。
 確かあの日は飴やマシュマロ、チョコレートを用意すればよかったはずだ。
 そしてオレンジのかぼちゃをくり抜いたランタンを用意しなければならない。他に何が必要だっただろうか。
 

 思いつかなかったためにルーナは今日も鏡の向こうに向かって話しかける。

「人間の収穫祭で必要なものはなんだ?」
「いきなりどうしたの? そんなこと今まで気にしたことなかったじゃない」
「今年はサンがいるからな。人間のお祭りを真似てみることにしたんだ」
「そう……。人間の収穫祭はハロウィンと言ってね、子どもたちが仮装してお菓子をもらいに近所の家をまわるのよ」
「それくらいは知っている。それ以外のことで何かないのか?」
「家を訪ねるときには『トリックオアトリート!』っていうの。それでお菓子をもらえなかったらいたずらしていいんですって」
「それは知らなかったな。他には?」
「そうね……、訪れる家は玄関の明かりがついているかハロウィンの飾りつけがしてあるところなのよ」
「それはずいぶんと面倒だ」
「まぁ本当に祭りを楽しむのなら飾り付けしてみればいいじゃない。そのための飾りは送ってあげるわよ」
「では私はまた明日薬を送ろう。何か欲しいものはあるか?」
「そうね……。薬ではないけれど、宝石に貴方の魔力を込めたものを頂戴。できるだけたくさん欲しいわ」
「ふむ。わかった、準備しよう。いつものように烏に届けさせる」

 そういって赤髪の魔女との会話を終わらせたルーナは鏡に布をかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...