収穫祭の夜に花束を

Y子

文字の大きさ
上 下
11 / 27
10月26日

11.ルーナはサンと薬を作りたい

しおりを挟む


 サンが摘んだロトゥンをルーナは大釜の中に全て入れた。
 そこに水と乾燥させたラベンダーの花、そして異界のトカゲの血を入れてかき混ぜる。

「サン、焦げないように混ぜておいてくれるかい」

 ルーナが指示を出すとサンは頷いてそれに従った。
 ただ釜の中のものをかき混ぜるだけだというのにサンはとても楽しそうだ。

「これは何になるのですか?」
「強壮剤だよ」
「きょうそうざい??」
「身体を強くする薬のことだ。異界の材料で作るからこっちにいる者達は欲しがるんだ」

 ルーナは蝙蝠の骨をすり鉢で粉末状にしながら答える。
 ここでの手伝いは、ルーナが気をつけていれば危険なことにはならないだろう。
 いや、あの釜のなかに誤って落ちてしまわないだろうか。釜を触って火傷してしまわないだろうか。今の強壮剤は問題ないが、毒薬の場合は身体についたら爛れてしまうこともある。
 ここでは長めの皮の手袋とエプロンを用意しておくべきかもしれない。

 それに今ルーナがやっているような骨や草花をすり潰すのを手伝わせるためにすり鉢とすりこぎが必要だ。
 今あるものだと大きすぎてサンには使えないだろう。


  ルーナは心の中で用意させるものリストに追加しておいた。


「ここで作る薬は手間がかかるし特別な材料を使っているんだよ。だから私の薬を欲しがるものは多い」

 ルーナは気付くとそうやってサンに話しかけていた。

「この家は異界と現界の狭間に建っているんだ。現界にあって異界にもある。だから二つの世界の植物を育てることができる」

 ゴリゴリと骨をすり潰す音とブクブクと液体が煮える音が室内に響く。
 その中でルーナの声はよく通った。

「そして私の魔法で薬にもっとも合うように調節を加えている。ここは異界と現界で一番の製薬所なのさ」

 ルーナは誇らしげにそういった。
 ここで作られる薬以上のものはどこにも存在しない。
 一番の薬を作ることができる存在。それがルーナだ。
 その薬を誰がどんな目的で使ってもいい。
 ただ最高のものを作ることだけがルーナの目的であり存在する意味だった。

「ルーナ様はすごい人なんですね」

 やっぱりサンはすごいという。
 話の半分くらいしか理解していないだろうことはルーナもわかっていたがそれでもかまわなかった。
 ただ、ルーナは自分のことをサンに話したかっただけだ。
 サンが理解するかしないかはどうでもいいことだった。

 ルーナはすっかり粉になった骨をサンがかき混ぜている釜の中に入れる。
 そうして5回ほどかき混ぜて、その薬は出来上がった。

「さあできた。これはこのまま冷やして明日濾してから瓶に詰めるよ」

 そういってルーナはサンを部屋から追い出した。









 サンが眠りについたあと、ルーナはまた鏡に話しかける。

「バジリスクの皮で作った手袋と肘まである革の手袋と革のエプロンを用意しろ。あと子どもが使いやすい大きさのすり鉢とすりこ木もだ」

 鏡に映った異界の魔女は笑った。

「また変わったものをご所望ね。その子供に薬づくりでも教えるの?」
「まぁそんなところだ」

 ルーナが答えると赤髪の魔女は神妙な面持ちで問いかけた。
 
「……その子はいつもの苗床にする子なんじゃないの?」
「ああ、もちろんそうだとも。サンはいい苗床だよ」
「そんな子に目をかけるなんて……。まぁいいわ。すぐに用意してあげる。その代わり強壮薬を多めにちょうだい」
「いいとも。ちょうど今日仕込んだところだ。明日出来上がりしだいすぐに送ろう」
「助かるわ。貴女が探していた本も用意できたの。他の物と一緒に送るわね」

 これで明日からサンは安全に好きなだけ手伝いができるだろう。
 ルーナは満足した。
 サンは用意したものを見て喜ぶだろうか。
 そうなるといい。
 その喜びは種にもいい影響をもたらすはずだ。

 ルーナは鏡に布をかけて会話を終わらせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

処理中です...