収穫祭の夜に花束を

Y子

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10月25日

4.サンはルーナに恩返しがしたい

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 目が覚めるとそこは花で埋め尽くされた部屋だった。
 いつもの橋の下でも路地の隅でもない。
 ゆっくりと起き上がり昨日のことを思い出す。

 そう、僕は魔女に拾われたのだ。

 周囲を見回す。
 この部屋にはベッドとサイドテーブル以外の家具はない。
 しかし、あちこちに花が置かれていた。

 あれは子どもたちの成れの果てだという。
 そして、僕の未来の姿だ。

 花々はすべてとても美しく咲いていた。
 僕が名前をつけた魔女、ルーナがこの花たちをお世話しているのだろう。
 
 サイドテーブルに視線を移す。
 そこには服と果物――りんごとぶどうだ――がおかれていた。
 それを見た瞬間空腹を思い出したかのようにお腹が鳴る。
 眠る前にルーナに食べさせてもらったとはいえ、12歳の男の子のお腹には物足りない。
 僕は置いてあったりんごとぶどうを一気に食べた。

 それはどちらもとても甘くておいしかった。
 僕はルーナに感謝した。
 こんな美味しいものを食べさせてもらえるとは思っていなかったのだ。

 お腹が満たされたので用意された服を着る。
 それは男の子が着る服というよりは、女の子のワンピースのような服だった。
 恥ずかしいと思ったがルーナが用意してくれたものに文句を言えるはずもない。
 


 部屋の中でやることもなくなったので、外に出てみることにした。
 ルーナは逃げなければ好きに過ごしていいと言っていた。
 家の中や周囲を見るくらいなら許してもらえるだろう。

 ルーナの家は素朴でこじんまりとした二階建ての家だった。

 部屋はそう多くない。
 二階には二部屋、そのうちの一つは僕が寝ていた部屋だ。
 一階にはダイニングキッチンともう一つ部屋がある。
 二つの部屋のどちらかにルーナがいるはずだ。

 彼女が起きてくるまで部屋には入らないことにした。


 キッチンには使われた食器が無造作においてあった。
 一人分しかない。
 きっと洗うのが面倒でそのまま寝てしまったのだろう。

 ダイニングテーブルの上にはいくつかの鉢植えと切り花が置かれていた。
 テーブルの上には土がこぼれ、汚れてしまっている。

 椅子にはエプロンが置かれている。適当に丸められているからシワがついていそうだ。



 ルーナの家はあまり綺麗ではなかった。
 僕が今までいた橋の下や路地よりは快適で綺麗な家だったが、遠い昔お世話になった村のおばあちゃんの家よりは汚かった。

 僕はルーナのために家の掃除をすることにした。









 どれくらい時間が経っただろう。
 一階部分は随分と綺麗になった。洗い物は片付け、テーブルの汚れは綺麗に拭き取った。乱雑に置かれていた衣服は畳んでテーブルの上に置いてある。
 床も隅においてあったモップで磨き上げた。

 完璧とは言えなかったが、それでも充分に綺麗になったといえる。


 そのとき、ガチャりと扉が開く音がした。
 ルーナが起きたようだ。

「ルーナ様、おはようございます」
「ああ…………サンか。おはよう」

 僕の顔を見てルーナは一瞬訝しげな表情になったが、昨日のことを思い出したのか、すぐにもとに戻った。
 気だるげに答えた彼女は部屋の扉をしめてゆっくりと階段を下る。

 朝が苦手なのだろう。
 寝惚けているような彼女には、昨日感じた残虐さや恐怖、そして美しさはなかった。
 目を擦る幼子のような、見た目とは不釣り合いな行動の印象が容姿の美しさより勝る。

 つまり僕には今の彼女は可愛らしい存在に見えた。

 薄手の白いワンピースと輝くような金の髪が、階段を降りる度に揺れる。

 それを見ていると僕はルーナが階段を踏み外すのではないかと心配になった。
 慌てて階段を駆け登りルーナに手を差し出す。

「ルーナ様、手を……」

 こういうときなんと言えばいいのだろう。
 手を乗せてください?
 手を置いてください??
 どれもしっくりこない。

「手を、繋いでください」

 口から出た言葉はやっぱりしっくりこない。
 手すりのように掴んでください、の方がわかりやすかったかもしれない。

 けれど、僕の後悔なんてしらないルーナは優しく微笑んで僕の手をそっと包み込んでくれた。

 彼女は蛇だからなのか、その手はとても冷たかった。

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