50 / 67
三章
49.捜索3
しおりを挟む暫くすると大隊長が兵を率いてやってきてくれた。
これまでの経緯を説明した後洞窟の中に足を踏み入れる。
「少し進むと行き止まりになっているわ。けれどここも特殊な魔術で通路が隠されてるだけだと思うの」
魔術師達に明かりを灯してもらって周囲を注意深く探る。
アシルからもらった魔道具はずっと針が動いていてギミックの判別に使うことは出来ない。
こういうのって大体壁を調べたら何かあるんだけど、ゲームの世界と違って現実は怪しい石なんて見分けがつかない。
色なんてよくわからないし、形も大差ないように見える。
とりあえず手当り次第岩壁を触ってみる。
何か特別な場所がないだろうか。
「シャルロット様……? 何をなさっているのですか?」
「何か変な場所がないか探してるの。さっきも石を壊したらここが現れたでしょう? それに似たものが……」
ある石に指が触れ、言葉が止まる。
何か変だ。
見た目も質感も他と変わらない。少し出っ張っている気がする程度の何の変哲もない石。
よくよく見るとそこだけ丸く線が入っている。まるでボタンのようだ。
躊躇わずにそれを押す。
僅かに空間が震えた。しかし先程と違って何も起こらない。
もう一つ同じようなボタンがあるのだろう。
反対側の壁に同じように手を這わせて確認していく。
「何か見つかったのですか?」
「ええ、先程ボタンのような物があったからこちら側にも同じものがあるんじゃないかと思って……」
「ボタン……?」
イヴォンが首を傾げつつも私と同じように岩壁を触って確認してくれている。
なんとなく反対側の同じような位置にあると思うのだけれど……。
もう少し奥だろうか。移動しながら手を伸ばした時、先程の違和感と同じものを感じた。きっとこれが探していた石だ。
急いでそれを押した。
空間が歪むような感覚の後地面が消えた。
ちょうど私が立っていた場所に下り坂が現れたのだ。
立っていた地面が消失してバランスを崩す。
イヴォンが私を助けようと手を伸ばしてくれたけど、悲しいことに手を掴むことはできなかった。
「っ、きゃああああ!!」
そのまま転けるだけだったらよかったのだけれど、現れた坂道は傾斜が強く、そのままゴロゴロと転がり落ちていく。
勢いがついているのと転がっているせいで平衡感覚がなくなって止まれない。
怪我しないように身体に強化の魔術を掛ける。これいい加減止まらないとまずい。
まずいんだけど止まれない! どうしよう!!
暫くすると坂道が終わりどこかに勢いよく転がり出た。
身体に痛みはないからたぶん怪我はしていない。
めちゃくちゃ気持ち悪くて吐きそうだけど……。
周囲は明るかった。
目が回っているから状況がよくわからない。
ただ、何かがいることは気配からわかった。体勢を整えないと。
「シャルロット様!」
名前を呼ばれた。あれ、イヴォンも一緒に落ちてきたんだっけ??
でも声が違う。
声の主が駆け寄ってきた。
ゆっくりと顔を上げると目に飛び込んで来たのは黒い髪と濃い蜂蜜色の瞳。
「アシル……? 生きて……生きてたの……?」
「はい、一応……。シャルロット様は大丈夫ですか? どうやってここへ?」
「わ、私は……洞窟見つけて……っ、あ、アシル達が行方不明になったって、っ聞いたから……」
涙が溢れてきた。
もう会えないと思っていたアシルに会えた喜びでもう何も考えられない。
「感動の再会に割り込んで悪いけど、今はそれどころじゃないんだ。シャーリィ、君がここに居るということはナフィタリアやノルウィークの兵士も近くに居るね?」
問いかけられてハッとする。
アシルがいるのだから一緒にいなくなった人達もここに居るのは当然だ。そんな人前で泣くなんて王女らしくない。
慌てて涙を拭って皇子の方へ視線を向ける。少し疲れているようだが大きな怪我はなさそうだ。
「ええ、私がやってきた坂道の上に……きっとすぐに来ると思うわ」
「そうか。……死傷者をシャルロット王女がやってきた道の近くに移動させろ。引き続き魔物の討伐を継続する」
その言葉に驚き周囲を見渡す。
ここは大きなドーム状の空間だ。
壁のあちこちに穴があいている。私はその内のひとつから転げ落ちてきたようだ。
そして魔物の死骸があちこちに転がっている。コボルト、ウルフ、コボルト、アルミラージ、オーガ……この地域に生息する魔物たちだ。
壁際には怪我人が横たわっていた。
この空間で最も目を引くのは、中央にある十メートルほどの白い大きな球だった。糸が四方八方に伸びていて……まるで大きな繭のようだ。
「あれは……?」
「俺たちの討伐対象だよ。あの繭に捉えられた魔物が変質するんだ」
よく見ると周囲に小さな繭がいくつかぶら下がっている。あれが変質している最中の魔物、ということだろうか。
大きな繭はゆっくりと動いている。そして中で赤く光っているものが見えた。あれは……目、だろうか。
「あれが羽化する前に討伐しなければならない。シャーリィ、君はまだ戦えるかい?」
「もちろんよ。そのためにここへ来たんだもの」
「よかった。今は少しでも戦力が必要なんだ」
言葉ではそう言ったけれど皇子は少し悲しそうな表情をしていた。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました
平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。
クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。
そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。
そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも
深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる