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告白と隣人

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私の気持ちは落ち着かないままパーティは終焉を迎えた。佐須杜さんは片付けがある、ということなので、私と人栄さんは二人で連れ立ってホテルを出て、辺りをふらふらと歩いていた。
私達の間に会話はない。私は何を言っていいか分からなかったし、彼女は彼女であまり私と目を合わせないようにしているのだ。
「……誠司さん」
「……え?あ、はい、なんでしょうか?」
しかし、その何とも言えない沈黙を破り、彼女は私に話しかけてくる。ようやく彼女は私と目を合わせてくれたが――その目には力強い決意の色が込められている。ああ、これは
「少し……お時間を、頂けませんか?」
ひどく緊張した様子に、私はただ頷くだけだった。

ホテルの近くにある公園。普段は家族連れで賑わっているのかもしれないが、ほとんど誰もいない。私達は噴水の近くにあったベンチに腰掛ける。我々の距離は、いつもよりほんの少し遠い。
「……誠司さんと出会ってからまだ……3ヶ月くらい?」
人栄さんはそんな話を始める。
「ええ、それくらいですね。……なんとも濃い3ヶ月でした」
本当に濃い――楽しい月日だった。彼女は私の言葉にくすくすと笑い、同意してくれる。
「本当にそうだよね。3ヶ月前の私は締切りに追われたりなんだり……まあそれは今もなんだけど。でも、まさか隣に住んでいる人の家に通うようになるなんて思ってもいなかった」
「それは私もです。まさか年頃の若い女性にご飯を振る舞ったり、ベッドを貸したりするなんて……想像もしていませんでしたよ」
正直、今だってそんなことをしている自分が信じられない。例えば半年前の私なら、自分の城に誰かを侵入させるなんて嫌で嫌で仕方なかっただろう。
「うーん、ごめんね。色々迷惑掛けちゃって、さ」
「迷惑だなんてまさかですよ。本当に嫌なら私から誘ったりしていません」
「そっか、そうだよね」
彼女は正面を向いていた顔を私の方に向ける。その大きな瞳に吸い込まれるように私は目を合わせる。
「誠司さん」
「……はい」
「好きです。誰よりも優しく、素敵で……私の心を温めてくれたあなたのことが」
彼女は震える自分の声を押し殺すようにしながら、それでもはっきりとそのことを伝えてくれる。今にも雪が降り出しそうなほど冷え切った夜のはずなのに、その言葉を聞いて私の身体は燃え上がるように熱くなる。
「……ありがとう。私のような、その、年上の人間。結構な年齢差がありますが、気になりませんか?」
「ううん、全然。年齢なんて関係ない。私はあなたのことが、好きなんです。お付き合いして頂けませんか?」
いつの日だか、彼女の瞳は不安に震え、涙を零していた。今は、その様子は無く、私の言葉にも彼女の決意はつゆほども揺るがない。
私が彼女に返す言葉――それは決まっている。もう、自分の心に確信を持っているのだから、何も迷うことはない。
「人栄シノさん」
「……はい」
「私もあなたのことが好きです。私の心を震わせ、溶かしてくれたあなたのことが、とても」
彼女は私の言葉を信じられないのか、少しだけ動揺する。
「……でも、私は弱い人間です。あなたの前で泣いたり、甘えたり……これまでみたいなこともあると思うよ」
きっと映画館でのことを話しているのだろう。しかし、私も揺るがない。
「あなたが見せる太陽な明るさも、あなたが見える弱さも……どちらもとても愛おしく思います。だから、私からもお願いします。お付き合いして頂けますか?」
私の言葉を聞いて、一瞬だけ彼女は泣きそうな表情になる。しかし、それも一瞬だけ。すぐに満面の笑みになる。残されたのは一筋の涙だけ。
「はい、喜んで」
彼女はそっと目を瞑る。人気のない公園だから今度こそ、闖入者は存在しない。私は彼女の唇に顔を近づけて、そっと唇を重ねる。ついばむような一瞬の接触。しかし、俺の身体――とくに顔も燃え上がるように熱くなる。
至近距離のまま、私は彼女の身体を優しく抱きしめた。彼女もそれに答えるように私の背中に手を回し、力を込める。
「なんだか、夢を見ているみたいにふわふわしているかも」
「ああ、俺もだ。なんだか不思議だよ」
「……誠司さんのそんな口調初めて聞いたかも」
そういえば彼女の前で口調を崩したのは初めてかもしれない。
「変かな?」
「ううん、全然。その口調も素敵」
彼女はそう言いながら私の首元に頬を付ける。また、自然と私達の影は一つに重なる。
気がつくと雪が降り始めていたが、私達は自分たちの身体の熱さに気を取られてそのことにしばらく気がつくことはなかった。
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