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パーティと隣人⑤

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「ちょっと抜けません?このままお話しているのも楽しいけど、せっかくなんだから展望室に行こうよ」
軽く食事を取り、特に周りと話すわけでもなく私と人栄さんはとりとめのない雑談をしていた。最近食べて美味しかった手料理、私に作って欲しいもの、仕事の話などなど。そうして開場から一時間ほど経ったときに彼女はそんな提案をしてきた。
このホテルには最上階が展望室として開放されている。この辺りでは一番背の高い建物なので、中々の景色が楽しめるという話らしい。
「そうですね。行きましょうか」
実に丁度よい提案だった。胸ポケットに入れっぱなしになっているこれを渡すのに丁度よい。
私は嬉しそうに笑う彼女を見ながら、昨日の矢賀さんとの会話を思い出していた。

『先輩。その人のこと、好きなんです?』
私が矢賀さんに相談すると、まず最初に彼女はそのことを確認してきた。
「まあ、そういうことになるかもしれませんね」
実に曖昧な答え。もちろん、それに矢賀さんは納得しない。
『そこ、すごぉく大事なことです!はっきり、きっぱり答えて下さい!』
予想外にに強い口調で言われ、なんだか新人の頃に上司に怒られたときのことを思い出した。
「……俺は彼女のことが好き、なのかもしれないが、よくわからないんだ」
個人としての俺の口調に戻ってもやはり曖昧なままだ。確かに彼女と一緒にいるのは居心地がいいし、見ていてほっとけ無い気持ちになる。それにとても可愛いとも思う。しかし、それが好きという感情なのかは分からない。若い頃に経験した甘酸っぱいような、燃え上がるような感情とはあまりにギャップがあったからだ。
そんな弱音にも似た俺の考えをそのまま矢賀に伝えてしまう。すると、彼女は呆れたように返してくる。
『……先輩。それ、間違いなく好きになってますよ。エルが太鼓判を押してあげます』
「どうしてそこまで断言できる?」
『先輩がその昔の感情とのギャップを感じているのは、年を重ねたからです!』
……なるほど。そう言われると反論のしようもない。
『色々なことを経験して、精神的に落ち着いて……言い換えると守りに入っているから、そうやってふわふわした、曖昧な、社会人じみた逃げの回答をしているに違いありません!』
「ずいぶん、分かったようなことを言うじゃないか?」
もちろん、彼女の言葉が気に触ったということではない。ただ、あまりに彼女の言葉に実感のようなものが籠もっていて、少し驚いてしまったのだ。
『先輩と違って、私は社会人と学生の中間にいるような状態です。だから、学生っぽい言動にも違和感があるし、先輩のような社会人の言動にもしっくりきていないのです。だからこそ、先輩の考え、つまり学生だった昔の感覚と社会人の今の感覚のギャップがあるというのが良く分かるんです』
彼女の言葉にはきちんとした重みがあり、すごく説得力を感じてしまう。矢賀はさらに続ける。
『本当は、私みたいに少しずつそのギャップを解消していくんだと思うんですが……その、先輩は社会人になってすぐにご両親を亡くされて、そのギャップの埋め方が歪になっていたんじゃないかってエルは推測しています』
「……俺の両親のことを知っていたのか?」
少し驚いた。少なくとも俺から話した記憶はない。
『誠司さんの元上司の方から聞いています。誠司さんの部署に異動する際に説明されて、『ちょっとそういう、冷たいような、距離をとるような印象があるけど、いいヤツだから!』と言っていましたよ!』
俺はそこで脚を止めた。雑踏の中で俺だけが歩みを止めて、周りの人達から不審な目を向けられる。
「……そうか。本当に色々な人に迷惑をかけているな。矢賀もすまない」
『そこはありがとう、ですよ』
努めてだろう、明るくそう言う彼女の言葉に思わず笑みが溢れる。俺は改めて言い直す。
「ありがとう」
『こちらこそですよ!誠司さんがいいヤツなのはすぐにわかりましたし、私が失礼な言動をしても平気で許しちゃってくれますし……誠司さんが上司じゃなければとっくに会社を辞めています。だから、こちらこそありがとうございます』
彼女のそんな殊勝なセリフに、俺らしく無く、少しだけ感動してしまった。
『えへへ、なんだか照れくさいですね』
「全くだ……しかし、ギャップか。考えたこともなかったよ」
『あくまで私の考えですけどね。でも、もしそのギャップを埋めていきたい、埋め直したいというのなら……まずは、『その気持ち』にきちんと向き合うことから始めることをおすすめします!』
「……それじゃあ、その一歩目としてまずはきちんと選ばないとな」
『はいっ!私もそっちに合流しますよ!多分近くに居るっぽいですし』
彼女がそんなことを言うので思わずあたりをきょろきょろしてしまう。
「そうなのか?」
『ええ、買い物に出かけてまして……えーと、その辺りって●●駅の近くだったりしません?』
まさにその辺りにいた。奇妙な一致に思わず苦笑が漏れる。
「正にそのとおりだ……そうだな、もしよければ手伝ってくれると嬉しい」
『はい、もちろん!隣人さんへのクリスマスプレゼント選びなんて面白そうなこと、エルが見逃すはずがないのですよ!』

そういうわけで、矢賀さんにも手伝ってもらったプレゼントが胸ポケットに入っている。少しだけスーツ姿に影響があるので、胸ポケットにものを入れるのはあまり良くないのだが、プレゼントの方がずっと大事なので仕方ない。
私は彼女と向かう展望台でそれを渡すチャンスを探すことにしよう。
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