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パーティと隣人④
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知合いが全くいないパーティというのはなかなか難しい。特に私はこの場では外様だ。共通の話題どころが相手がどんな人間なのかも全く分からない。ちらりと彼女を見てみると、まだ少しビクビクした様子で、とてもじゃないが知らない人間相手にフレンドリーに会話を仕掛ける雰囲気ではない。
そういうわけで、我々は入場五分で壁の花となり、彼女ととりとめのない話をして時間を過ごす。そうしているうちに少しだけ彼女の雰囲気もほぐれてきて、敬語からいつもの口調が覗き始める……というところで、司会の方がパーティの開始を宣言した。それに合わせてスタッフの方々が飲み物を配布し始める。私はグレープフルーツジュース、人栄さんはオレンジジュースを頂く。
「えー、それでは皆さん、本年もお疲れさまでした。乾杯!」
おそらくそれなりの地位にいるであろう男性がステージ上で挨拶をし、最後に乾杯をする。
「乾杯。来年もよろしくお願いします」
「乾杯っ。今年はありがとうございました!」
グラスを軽く天に掲げたあとに、彼女とグラスを合わせる。
「さて、どうしましょう?」
先程の司会の方の説明によれば、授賞式だか表彰式はパーティの終盤にあるらしい。それまでは全くやることはない。会社のパーティであれば普段はあまり会わない同期とかと旧交を温めるということになるのだろうが、今回はそれもできない。
「あそこにあるご飯食べませんか?今日は朝からあんまり食べていないからお腹空いちゃった」
確かに、以前に食べた味を思えば今回大皿で出されている料理達の味も期待できる。それに私も今日は軽いものしか食べていないので多少お腹が空いた。
「そうですね。では……」
「あ!私が取ってくるよ。誠司さんはグラスをお願い」
そういって私から離れていってしまう。大丈夫だろうか、と思うものの今から追いかけるというのも違う気がして、私はグラスをスタッフさんに返却して、一人壁際で待つ。
「あ、すいません……ちょっとよろしいでしょうか?」
そこに二人組の女性が話しかけてきた。見た感じ年齢は私よりも若く、人栄さんよりかは少し上という感じ。一人は薄いグリーンのフォーマルなドレスに身を包み、もうひとりはジーンズにだぼっとしたスウェットというカジュアルな格好だ。もちろん知合いではない。
「はい?私でしょうか?」
生憎、この場にいる知合いは人栄さんと佐須杜さんだけだ。
「そうです。すいません、突然話しかけてしまいまして」
「いえ。身の置き場がなくて困っていたところですから、しかし、私のような門外漢になにか御用でしたでしょうか?」
私がそこまで話したところで、彼女達はヒソヒソ話を始める。
「ねえ、やっぱり……」
「うん、間違いないよ!」
私の耳にもなんとなく会話が聞こえてくるが、一部のみなのでその全容を把握することはできない。
「あの、人栄さんのお連れの方ですよね?」
カジュアルな服装の方がそう確認を取ってくる。
「はい。彼女の……友人でして、今回はたまたまご縁があって、この場に参加させて頂きました」
彼女との関係……隣人で、夕食を一緒に食べたり、ベッドを使わせてあげたり、デートをしたり……なかなか一言で表現するのは難しいし、初めて会った人にそこまで説明するのは憚られる。そういうわけで端的に『友人』とだけ言う。
「もしかして……彼女のお隣に住んでいたりしませんか?」
フォーマルな服装な方にそう言われ、ぎょっとしてしまった。なぜそんなことを知っているのだろう。もしかして人栄さんの友人なのだろうか。
「そう、ですが……」
少し警戒するようにお二人を見てみるが、そんな私の様子なんか気にしもしないで二人は盛り上がっていた。
「わあ!やっぱりそうなんだ!」
「すごい!えー、ほんとにそんなことがあるんだね!」
見知らぬ若い女性に話しかけられたと思ったら、急に私の個人情報の確認を取られ、今度は私をそっちのけで盛り上がり始めたという状況だ。私としてはどうしたらいいか分からない。
「えっと……」
とりあえず話を聞いてみようとしたところで、人栄さんがこっちの方に戻って来ているのが見えた。その手には料理の並んだプレートを持っていたが、私が二人と一緒にいるのに気づき、それを適当なテーブルに置いて慌てて近づいてくる。
「せ、誠司さん!」
彼女はひどく狼狽していて、歩くのも大変なはずの高いハイヒールで可能な限りの速度を出していた。
「大丈夫ですか?」
その様子を見て私も少し慌ててしまう。
「わ、私は大丈夫です!なんか女性とお話されているのを見て……って、あ」
彼女はそこまで言ってカジュアルとフォーマルの二人の方を見ると、何かに気がついたようだ。
「人栄さん、お久しぶりっ」
「やっほー」
やはりというべきか、この二人は彼女の知り合いのようで、気さくに挨拶をしている。
「も、問場さんと仁部さん!?せ、誠司さんになんの用ですっ!?」
何故か人栄さんは警戒心をむき出しにし、私と彼女たちの間に入り、その小さな背中で私を隠そうとする。
「まあまあ、ちょっとこっちへ」
「悪いようにはしないって」
しかし、二人――問場さんと仁部さんはにやにやとしながら人栄さんの手をとって私から少し離れたところでヒソヒソ話を開始する。女性たちの内緒話を聞くわけにもいかず、私は再度ぽつんと一人で過ごすことになった。ちらちらと三人がこちらを見ているのは大変居心地が悪いものだが……。
しばらくそうやって手持ち無沙汰で待っていると、三人が戻ってきた……のだけど、問場さんと仁部さんは実に楽しそうに私を見ている。一体何があったのかと人栄さんを見ると、こっちは顔を真赤にして私と目も合わせてくれない。
問場さんは私の肩に手を置き、仁部さんはその反対側に置く。
「はっはっは」
そして、仁部さんはにやにやと笑いながら、問場さんはにたにたと笑いながらそのまま去っていってしまった。残されたのは私と、顔を見てくれない人栄さん。嵐は去ったが、残されたのは気まずい空気のみ。台風一過で快晴とは行かないものだ。
そういうわけで、我々は入場五分で壁の花となり、彼女ととりとめのない話をして時間を過ごす。そうしているうちに少しだけ彼女の雰囲気もほぐれてきて、敬語からいつもの口調が覗き始める……というところで、司会の方がパーティの開始を宣言した。それに合わせてスタッフの方々が飲み物を配布し始める。私はグレープフルーツジュース、人栄さんはオレンジジュースを頂く。
「えー、それでは皆さん、本年もお疲れさまでした。乾杯!」
おそらくそれなりの地位にいるであろう男性がステージ上で挨拶をし、最後に乾杯をする。
「乾杯。来年もよろしくお願いします」
「乾杯っ。今年はありがとうございました!」
グラスを軽く天に掲げたあとに、彼女とグラスを合わせる。
「さて、どうしましょう?」
先程の司会の方の説明によれば、授賞式だか表彰式はパーティの終盤にあるらしい。それまでは全くやることはない。会社のパーティであれば普段はあまり会わない同期とかと旧交を温めるということになるのだろうが、今回はそれもできない。
「あそこにあるご飯食べませんか?今日は朝からあんまり食べていないからお腹空いちゃった」
確かに、以前に食べた味を思えば今回大皿で出されている料理達の味も期待できる。それに私も今日は軽いものしか食べていないので多少お腹が空いた。
「そうですね。では……」
「あ!私が取ってくるよ。誠司さんはグラスをお願い」
そういって私から離れていってしまう。大丈夫だろうか、と思うものの今から追いかけるというのも違う気がして、私はグラスをスタッフさんに返却して、一人壁際で待つ。
「あ、すいません……ちょっとよろしいでしょうか?」
そこに二人組の女性が話しかけてきた。見た感じ年齢は私よりも若く、人栄さんよりかは少し上という感じ。一人は薄いグリーンのフォーマルなドレスに身を包み、もうひとりはジーンズにだぼっとしたスウェットというカジュアルな格好だ。もちろん知合いではない。
「はい?私でしょうか?」
生憎、この場にいる知合いは人栄さんと佐須杜さんだけだ。
「そうです。すいません、突然話しかけてしまいまして」
「いえ。身の置き場がなくて困っていたところですから、しかし、私のような門外漢になにか御用でしたでしょうか?」
私がそこまで話したところで、彼女達はヒソヒソ話を始める。
「ねえ、やっぱり……」
「うん、間違いないよ!」
私の耳にもなんとなく会話が聞こえてくるが、一部のみなのでその全容を把握することはできない。
「あの、人栄さんのお連れの方ですよね?」
カジュアルな服装の方がそう確認を取ってくる。
「はい。彼女の……友人でして、今回はたまたまご縁があって、この場に参加させて頂きました」
彼女との関係……隣人で、夕食を一緒に食べたり、ベッドを使わせてあげたり、デートをしたり……なかなか一言で表現するのは難しいし、初めて会った人にそこまで説明するのは憚られる。そういうわけで端的に『友人』とだけ言う。
「もしかして……彼女のお隣に住んでいたりしませんか?」
フォーマルな服装な方にそう言われ、ぎょっとしてしまった。なぜそんなことを知っているのだろう。もしかして人栄さんの友人なのだろうか。
「そう、ですが……」
少し警戒するようにお二人を見てみるが、そんな私の様子なんか気にしもしないで二人は盛り上がっていた。
「わあ!やっぱりそうなんだ!」
「すごい!えー、ほんとにそんなことがあるんだね!」
見知らぬ若い女性に話しかけられたと思ったら、急に私の個人情報の確認を取られ、今度は私をそっちのけで盛り上がり始めたという状況だ。私としてはどうしたらいいか分からない。
「えっと……」
とりあえず話を聞いてみようとしたところで、人栄さんがこっちの方に戻って来ているのが見えた。その手には料理の並んだプレートを持っていたが、私が二人と一緒にいるのに気づき、それを適当なテーブルに置いて慌てて近づいてくる。
「せ、誠司さん!」
彼女はひどく狼狽していて、歩くのも大変なはずの高いハイヒールで可能な限りの速度を出していた。
「大丈夫ですか?」
その様子を見て私も少し慌ててしまう。
「わ、私は大丈夫です!なんか女性とお話されているのを見て……って、あ」
彼女はそこまで言ってカジュアルとフォーマルの二人の方を見ると、何かに気がついたようだ。
「人栄さん、お久しぶりっ」
「やっほー」
やはりというべきか、この二人は彼女の知り合いのようで、気さくに挨拶をしている。
「も、問場さんと仁部さん!?せ、誠司さんになんの用ですっ!?」
何故か人栄さんは警戒心をむき出しにし、私と彼女たちの間に入り、その小さな背中で私を隠そうとする。
「まあまあ、ちょっとこっちへ」
「悪いようにはしないって」
しかし、二人――問場さんと仁部さんはにやにやとしながら人栄さんの手をとって私から少し離れたところでヒソヒソ話を開始する。女性たちの内緒話を聞くわけにもいかず、私は再度ぽつんと一人で過ごすことになった。ちらちらと三人がこちらを見ているのは大変居心地が悪いものだが……。
しばらくそうやって手持ち無沙汰で待っていると、三人が戻ってきた……のだけど、問場さんと仁部さんは実に楽しそうに私を見ている。一体何があったのかと人栄さんを見ると、こっちは顔を真赤にして私と目も合わせてくれない。
問場さんは私の肩に手を置き、仁部さんはその反対側に置く。
「はっはっは」
そして、仁部さんはにやにやと笑いながら、問場さんはにたにたと笑いながらそのまま去っていってしまった。残されたのは私と、顔を見てくれない人栄さん。嵐は去ったが、残されたのは気まずい空気のみ。台風一過で快晴とは行かないものだ。
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