上 下
10 / 52

イケおじと隣人

しおりを挟む
幸いにして購入した小説は非常に面白い。皮肉屋の主人公、愛想の悪いヒロイン、陽気なペット。始めの数頁だけで非常に引き込まれる内容だと感じる。しかし、中々難しい言い回しや古風な漢字・単語を多様しており、いちいち検索しないと理解しにくいのも確かだ。
そういうわけで書斎のデスクトップパソコンの前に移動した(もちろん会社のPCとは別の私物である)。
調べつつ、小説にどっぷりと――
「シノ、私が言いたいことは分かるな?」
「はい……了解です、ナコちゃん」
彼女達の会話が始まったようだ。少なくとも、今回はラジオ的にでも聞かないほうが良いかも知れない。
「わたしはこの度大変なご迷惑をおかけしまして、えー、大変反省をしております……」
「おう、そうだな。ちゃんと、改めてご挨拶しておくんだぞ」
「もちろん……」
「で、体調は大丈夫なのか?」
「うん、そっちは……まあ無理がたたっただけだからさ。イラストの締切りも大丈夫」
「……まあ、無理するなよ」
佐須杜さんは心配そうにしているようだ。礼儀正しく、優しく、そして金髪。あまり会ったことのないタイプだが、好感が持てる人物だ。
「ありがとう、いつも迷惑かけてばかりでごめんね」
「いまさらだ。気にすんなよ」
二人共良いパートナーシップを築けているように思える。素晴らしいことだ。若さを失った私には少し眩しすぎるくらいだ。
「……ところで、ナコちゃん」
「どうした?」
「イラストなんだけど、ラフから全然違うものにしちゃって大丈夫?」
「は!?急にどういうことだよ!」
「いや、さっきのお隣さん、目島さんさあ……結構イケメンだったじゃない?」
……雲行きが怪しくなってきたな。
「まあそうだな。顔立ちは整っていたし、私達よりも十個近く上だと思うけどな」
「いや、まさにそこ!イケおじじゃん!しかも料理上手で紳士的!ぐへへへ、たまりませんのお!」
「きっも」
「だからさあ、わたしの創作意欲が刺激されちゃったわけなのよ……だ、か、ら、今回のイラストもそういう感じの方向性でさあ……」
私はここで書斎を出た。もちろん、しっかり扉を閉じて音が漏れないようにして、だ。これ以上聞くのも失礼だし、あまり聞いてプラスになるとも思えなかった。
……やはり、壁の穴を塞ぐ必要がありそうだ。応急処置でも自分で可能なら挑戦してみようと思う。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元妻からの手紙

きんのたまご
恋愛
家族との幸せな日常を過ごす私にある日別れた元妻から一通の手紙が届く。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

王妃から夜伽を命じられたメイドのささやかな復讐

当麻月菜
恋愛
没落した貴族令嬢という過去を隠して、ロッタは王宮でメイドとして日々業務に勤しむ毎日。 でもある日、子宝に恵まれない王妃のマルガリータから国王との夜伽を命じられてしまう。 その理由は、ロッタとマルガリータの髪と目の色が同じという至極単純なもの。 ただし、夜伽を務めてもらうが側室として召し上げることは無い。所謂、使い捨ての世継ぎ製造機になれと言われたのだ。 馬鹿馬鹿しい話であるが、これは王命─── 断れば即、極刑。逃げても、極刑。 途方に暮れたロッタだけれど、そこに友人のアサギが現れて、この危機を切り抜けるとんでもない策を教えてくれるのだが……。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

処理中です...