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惚気る近嗣
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高校三年生になった近嗣は、相変わらずの毎日だった。
美羽と同じ大学に行くために、本気で勉強している。
最近変わった事は、近嗣の雰囲気だ。
纏う空気が近寄り難かったのが、柔らかくなって時々ふわりと笑う。
「糸崎、勉強教えて」
今まで遠巻きで話したこともないような生徒が、近嗣に話しかけてきた。
もうすぐテストがある。
断る理由もないので頷けば、他のクラスメイトも近嗣の所にやってきた。
「俺も!」
「僕もいい?」
近嗣の成績が良い事はみんな知っていた。
それでも話しかけられなかったのは、近嗣が問題児であるという噂があったからだ。
その噂も、穏やかそうな近嗣の様子を見て、違うのではないかと思う人が出てきた。
それを肯定するかのように、近嗣が助けた同級生が近嗣は悪くないと言ってくれているのをみんな信じ始めていた。
放課後に図書室で勉強する事になった。
近嗣がノートを開けば、クラスメイト達が覗き込んでくる。
「すごっ! 要点もまとめてあってわかりやすいな!」
「頭いいのがわかる気がする……」
「なぁ。糸崎ってさ、こんなに成績いいのになんで喧嘩とかするんだ?」
入学当時は、生意気そうだと絡まれたけれど、最近は喧嘩になる事もない。
「喧嘩は……ほとんどしてない……。喧嘩嫌い……」
その言葉にみんな「だよな!」と納得する。
授業態度も真面目で、成績もいい。
今までどうして近嗣と話してこなかったのかと思う。
「近嗣って呼び辛いよな。チカって呼んでいい?」
そう呼ぶ人は母親と美羽だけだ。
「チカはだめ……」
「なんで?」
「大事な人だけが呼んでるから……」
サラリと告げられた言葉にみんな騒めく。
「彼女いるのかぁ! やっぱりな!」
「どんな人?」
「面倒見の良い……年上……」
聡達にも同じように説明した事を思い出して、もっと別の言葉を探す。
「それから……気が利くし、照れた顔とか可愛いし……みんなに慕われて……頼りになる。勉強してる所とかカッコイイ……あと……眼鏡が似合う……」
一生懸命に喋ろうとする近嗣にポカンとしていたみんなは、一斉に吹き出した。
「惚気聞かされた~」
「チカちゃんが大好きだってことは伝わってきた」
「チカちゃんがそこまで喋るの初めて聞いた」
チカちゃんと呼ばれても近嗣は特に気にしなかった。
チカじゃなければいいと思っている。
「いくらなんでも不満ぐらいあるだろ?」
みんな興味津々で近嗣の言葉を待っている。
「あ……」
「なになに?」
「年上だからか……甘えてくれない……。俺のやりたい事優先してくれる……」
みんなは遠い目をする。
「「「それも惚気だ……」」」
そんなつもりはないのに、美羽の話をすると惚気になるらしい。
「それで、彼女とどこまでいったんだ?」
前のめりのみんなは、そこに一番興味があるらしい。
近嗣が、人差し指を唇に当てて優しく笑った。
「内緒……」
そんな風に笑う近嗣にクラスメイト達は、近嗣がこんな顔もするんだと思い、微笑ましかった。
◆◇◆
「みぃちゃん、俺に不満ってある……?」
久しぶりに近嗣の家に来た美羽に問いかけてみた。
寝る前で近嗣が布団に横になっていて、美羽が同じ布団に入ろうとしている所だった。
「不満?」
美羽が考え込んだ。
「……そうだな──……抱かせてくれない事だ」
近嗣は、聞くんじゃなかったと思う。
「寝よっか」
「おい。自分で聞いといてなんだ?」
「…………」
後ろを向いた近嗣の背中に美羽がボスっとパンチする。
「寝たふりするな」
「寝てます……」
「おい」
またもボスっとパンチした。
「──そうやって僕の言う事を聞かない所も不満だ。ごめんと言いながら、自分の主張を通そうとするのも不満だ」
近嗣には、身に覚えがあるので何も言えない。
「それから──も、もう少し連絡くれてもいいと思う……。この前、信谷と映画に行ったな……そういうの……ちゃんと教えて欲しい……」
近嗣は、その事を美羽に言った記憶はない。
聡に付き合って欲しいと頼まれて一緒に行っただけなのに、美羽が気にするとは思わなかった。
「偶然見かけて……少し……ショックだっただけだ……」
美羽の声が段々と自信が無くなっている気がする。
「折角一緒にいるのに……背中を向けるな……」
近嗣は、ガバッと起きて正座して、美羽に向き直る。
「みぃちゃん、俺……ごめん」
美羽はしょんぼりしたような近嗣にクスッと笑った。
「今言ったのは不満ではあるが……僕はその何倍もチカといて幸せだ」
優しく笑う美羽に胸がジンと熱くなる。
「みぃちゃん……」
「だから──……抱かせろ」
ガバッと押し倒してきた美羽は、ニヤリと笑って近嗣を上から見下ろした。
さっきまで少し拗ねていた美羽の雰囲気は全くない。
「そこまでしたいなら……いいよ」
「いいのか!?」
「いいよ……みぃちゃんの思う通りにして……」
「よ、よし──まずは……キスだ──」
甘い雰囲気が室内に漂う。
美羽はいつの間にか騎乗位で腰を振る羽目になる事をまだ知らない。
美羽と同じ大学に行くために、本気で勉強している。
最近変わった事は、近嗣の雰囲気だ。
纏う空気が近寄り難かったのが、柔らかくなって時々ふわりと笑う。
「糸崎、勉強教えて」
今まで遠巻きで話したこともないような生徒が、近嗣に話しかけてきた。
もうすぐテストがある。
断る理由もないので頷けば、他のクラスメイトも近嗣の所にやってきた。
「俺も!」
「僕もいい?」
近嗣の成績が良い事はみんな知っていた。
それでも話しかけられなかったのは、近嗣が問題児であるという噂があったからだ。
その噂も、穏やかそうな近嗣の様子を見て、違うのではないかと思う人が出てきた。
それを肯定するかのように、近嗣が助けた同級生が近嗣は悪くないと言ってくれているのをみんな信じ始めていた。
放課後に図書室で勉強する事になった。
近嗣がノートを開けば、クラスメイト達が覗き込んでくる。
「すごっ! 要点もまとめてあってわかりやすいな!」
「頭いいのがわかる気がする……」
「なぁ。糸崎ってさ、こんなに成績いいのになんで喧嘩とかするんだ?」
入学当時は、生意気そうだと絡まれたけれど、最近は喧嘩になる事もない。
「喧嘩は……ほとんどしてない……。喧嘩嫌い……」
その言葉にみんな「だよな!」と納得する。
授業態度も真面目で、成績もいい。
今までどうして近嗣と話してこなかったのかと思う。
「近嗣って呼び辛いよな。チカって呼んでいい?」
そう呼ぶ人は母親と美羽だけだ。
「チカはだめ……」
「なんで?」
「大事な人だけが呼んでるから……」
サラリと告げられた言葉にみんな騒めく。
「彼女いるのかぁ! やっぱりな!」
「どんな人?」
「面倒見の良い……年上……」
聡達にも同じように説明した事を思い出して、もっと別の言葉を探す。
「それから……気が利くし、照れた顔とか可愛いし……みんなに慕われて……頼りになる。勉強してる所とかカッコイイ……あと……眼鏡が似合う……」
一生懸命に喋ろうとする近嗣にポカンとしていたみんなは、一斉に吹き出した。
「惚気聞かされた~」
「チカちゃんが大好きだってことは伝わってきた」
「チカちゃんがそこまで喋るの初めて聞いた」
チカちゃんと呼ばれても近嗣は特に気にしなかった。
チカじゃなければいいと思っている。
「いくらなんでも不満ぐらいあるだろ?」
みんな興味津々で近嗣の言葉を待っている。
「あ……」
「なになに?」
「年上だからか……甘えてくれない……。俺のやりたい事優先してくれる……」
みんなは遠い目をする。
「「「それも惚気だ……」」」
そんなつもりはないのに、美羽の話をすると惚気になるらしい。
「それで、彼女とどこまでいったんだ?」
前のめりのみんなは、そこに一番興味があるらしい。
近嗣が、人差し指を唇に当てて優しく笑った。
「内緒……」
そんな風に笑う近嗣にクラスメイト達は、近嗣がこんな顔もするんだと思い、微笑ましかった。
◆◇◆
「みぃちゃん、俺に不満ってある……?」
久しぶりに近嗣の家に来た美羽に問いかけてみた。
寝る前で近嗣が布団に横になっていて、美羽が同じ布団に入ろうとしている所だった。
「不満?」
美羽が考え込んだ。
「……そうだな──……抱かせてくれない事だ」
近嗣は、聞くんじゃなかったと思う。
「寝よっか」
「おい。自分で聞いといてなんだ?」
「…………」
後ろを向いた近嗣の背中に美羽がボスっとパンチする。
「寝たふりするな」
「寝てます……」
「おい」
またもボスっとパンチした。
「──そうやって僕の言う事を聞かない所も不満だ。ごめんと言いながら、自分の主張を通そうとするのも不満だ」
近嗣には、身に覚えがあるので何も言えない。
「それから──も、もう少し連絡くれてもいいと思う……。この前、信谷と映画に行ったな……そういうの……ちゃんと教えて欲しい……」
近嗣は、その事を美羽に言った記憶はない。
聡に付き合って欲しいと頼まれて一緒に行っただけなのに、美羽が気にするとは思わなかった。
「偶然見かけて……少し……ショックだっただけだ……」
美羽の声が段々と自信が無くなっている気がする。
「折角一緒にいるのに……背中を向けるな……」
近嗣は、ガバッと起きて正座して、美羽に向き直る。
「みぃちゃん、俺……ごめん」
美羽はしょんぼりしたような近嗣にクスッと笑った。
「今言ったのは不満ではあるが……僕はその何倍もチカといて幸せだ」
優しく笑う美羽に胸がジンと熱くなる。
「みぃちゃん……」
「だから──……抱かせろ」
ガバッと押し倒してきた美羽は、ニヤリと笑って近嗣を上から見下ろした。
さっきまで少し拗ねていた美羽の雰囲気は全くない。
「そこまでしたいなら……いいよ」
「いいのか!?」
「いいよ……みぃちゃんの思う通りにして……」
「よ、よし──まずは……キスだ──」
甘い雰囲気が室内に漂う。
美羽はいつの間にか騎乗位で腰を振る羽目になる事をまだ知らない。
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