21 / 22
惚気る美羽
しおりを挟む
大学生になった美羽は、毎日忙しかった。
近嗣の家にも行けない日が続く。
会えなくなって美羽は欲求不満だった。
連絡が取れている分、心配はないけれど、会いたいと思う気持ちはどうにもならない。
(来年にはこの大学に来るはずだ。今だけだ……)
「美羽、合コンあるけど来ない?」
考え事をしている時に大学の構内で美羽に声を掛けてきた男は、九条清斗と名乗った。
初対面から呼び捨てにしてきたこの男を美羽は友人だとは思っていないのに、付き纏われてしまっている。
清斗は、自分と釣り合う友人は美羽だけだと思っているらしい。
「僕には恋人がいる」
「え!?」
その一言は、清斗を始め、近くにいた美羽の同級生に波紋を呼んだ。
「お前! 彼女いたのかよ!」
「誰!? どんな人!?」
「やだぁ! ショック……」
好き勝手に言われて、美羽はニッコリ冷たい笑顔を作る。
「君達は大学に何しに来ているんだ? 僕のプライベートが知りたいなら、勉学を完璧にしてからにして欲しいな」
生徒会長であった時の厳しさと悪魔の微笑は健在で、近嗣がいない事で拍車がかかっていた。
◆◇◆
大学の学食で清斗と一緒に昼食を食べていた。
いつの間にか隣にいるようになった清斗は、美羽を見かけると一緒に何でもするようになっていた。
「なぁ、美羽の恋人ってどんな人なの?」
しつこく聞かれて清斗を睨む。
「そんな顔するなって。誰にでも厳しい美羽に恋人がいるって気になるじゃんか」
「君に関係あるのか?」
「悪い奴に騙されてるんじゃないかって心配してるんだ」
「チカはそんなやつじゃない!」
いつもの美羽の冷静さがなくなる。
清斗は、声を荒げた美羽を驚いた顔をしてからニンマリと笑う。
「──チカちゃんって言うんだ。可愛い名前だな。名前の通り可愛い子?」
清斗に嵌められたと気付くと深いため息が出た。
近嗣の事になると、どうしても冷静でいられない。
美羽と一緒にいた時の近嗣を思い出す。
無表情な顔が少し柔らかくなってほんのりと顔を赤くするのが堪らなかった。
「──……めちゃくちゃ可愛い……」
「……まさかの惚気……」
顔を引き攣らせた清斗に美羽がため息をついて目を細める。
「君が聞きたがったんだろう」
「そ、そうだな。それで? どんな子なの?」
「料理ができてエプロンが似合う」
「何それ最高」
「普段は無表情なのに、たまに嬉しそうに笑うのもいい。僕の言う事にしょんぼりする姿も可愛い」
美羽は自分の顔が嬉しそうに綻んでいる事に気付かない。
清斗は、それを見て美羽の恋人に興味が出てくる。
「美羽ってさ、クールで誰にでも冷たいから、その子といる時もそうなの?」
「さぁ……」
近嗣といると色んな感情が湧いてくる。
自分がどんななのかは良くわからない。
「へぇ──やっぱ会ってみたいな。チカちゃん」
ニヤニヤとする清斗に美羽が冷たい視線を向けた。
◆◇◆
「僕はチカといると、どうなるんだ?」
美羽は、久しぶりのデートで近嗣に聞いてみた。
おしゃれなカフェのテラスで注文が終わった所だった。
「みぃちゃんは……可愛くなる……」
少しニヤける近嗣に美羽は訝しむ。
「なんだそれは……」
「気持ちいい事するとトロトロになって──」
美羽の顔が赤くなった。
「そ、そういう事を言っているんじゃない!」
「それ以外? 優しいとか?」
「僕はチカに優しいのか?」
「優しいよ。例えば──」
そこで注文したコーヒーが届いた。
「お待たせしました」
やけに笑顔の可愛い店員が持ってきたコーヒーの一つに、美羽がミルクと砂糖を入れて近嗣に渡してくる。
「そういうとこ……」
「何?」
「俺の好みが分かってて、コーヒーにミルクと砂糖を入れてくれたとこ……」
自然にやって来た事を、口に出して言われると恥ずかしくなる。
「でも、どうしてそんな事聞くの……?」
「僕は、いつもクールで冷たいらしい。チカといる時はどうかと聞かれたんだ」
美羽は、コーヒーに視線を落としてからカップを掴んでそれを飲む。
視線を上げた時に見た近嗣の顔が不機嫌そうだった。
「チカ?」
近嗣は、テーブルの上に肘を乗せて頬を押さえるとプイッとそっぽを向いてしまう。
「どうした?」
視線だけを美羽に寄越してくる。
「俺と一緒にいる時のみぃちゃんを、わざわざその人に教える必要ない……」
美羽はキョトンとしてしまう。
「俺が言ったこと……言わないで……」
「あ、ああ……でも、どうしたんだ?」
美羽には、近嗣が不機嫌になってしまった理由がわからなかった。
「……二人きりでいるみぃちゃんを他人に教えたくない……俺ももう教えないようにしよ……」
「それは──」
近嗣の独占欲なのかと思ったら、胸の奥からブワッと何かが込み上げてくる。
近嗣が今まで見せた事がない独占欲が嬉しくて、美羽の顔が熱くなってくる。
「みぃちゃん……外でそういう顔するのも禁止ね……」
美羽は、バッと顔を手で隠して何度も深呼吸をする。
近嗣が可愛すぎて、美羽はどうしようもなかった。
近嗣は、いつも美羽を翻弄する。
「僕は……チカの前ではカッコ悪い事はわかった……」
「何言ってるの? カッコ良くて可愛いくて……自慢したいのに、誰にも見せたくない。不思議な気持ち……」
近嗣の言っている事がなんとなくわかる。
やっぱり清斗には、二人きりでいる近嗣の事も美羽の事も、教えるのはやめようと思った。
近嗣の家にも行けない日が続く。
会えなくなって美羽は欲求不満だった。
連絡が取れている分、心配はないけれど、会いたいと思う気持ちはどうにもならない。
(来年にはこの大学に来るはずだ。今だけだ……)
「美羽、合コンあるけど来ない?」
考え事をしている時に大学の構内で美羽に声を掛けてきた男は、九条清斗と名乗った。
初対面から呼び捨てにしてきたこの男を美羽は友人だとは思っていないのに、付き纏われてしまっている。
清斗は、自分と釣り合う友人は美羽だけだと思っているらしい。
「僕には恋人がいる」
「え!?」
その一言は、清斗を始め、近くにいた美羽の同級生に波紋を呼んだ。
「お前! 彼女いたのかよ!」
「誰!? どんな人!?」
「やだぁ! ショック……」
好き勝手に言われて、美羽はニッコリ冷たい笑顔を作る。
「君達は大学に何しに来ているんだ? 僕のプライベートが知りたいなら、勉学を完璧にしてからにして欲しいな」
生徒会長であった時の厳しさと悪魔の微笑は健在で、近嗣がいない事で拍車がかかっていた。
◆◇◆
大学の学食で清斗と一緒に昼食を食べていた。
いつの間にか隣にいるようになった清斗は、美羽を見かけると一緒に何でもするようになっていた。
「なぁ、美羽の恋人ってどんな人なの?」
しつこく聞かれて清斗を睨む。
「そんな顔するなって。誰にでも厳しい美羽に恋人がいるって気になるじゃんか」
「君に関係あるのか?」
「悪い奴に騙されてるんじゃないかって心配してるんだ」
「チカはそんなやつじゃない!」
いつもの美羽の冷静さがなくなる。
清斗は、声を荒げた美羽を驚いた顔をしてからニンマリと笑う。
「──チカちゃんって言うんだ。可愛い名前だな。名前の通り可愛い子?」
清斗に嵌められたと気付くと深いため息が出た。
近嗣の事になると、どうしても冷静でいられない。
美羽と一緒にいた時の近嗣を思い出す。
無表情な顔が少し柔らかくなってほんのりと顔を赤くするのが堪らなかった。
「──……めちゃくちゃ可愛い……」
「……まさかの惚気……」
顔を引き攣らせた清斗に美羽がため息をついて目を細める。
「君が聞きたがったんだろう」
「そ、そうだな。それで? どんな子なの?」
「料理ができてエプロンが似合う」
「何それ最高」
「普段は無表情なのに、たまに嬉しそうに笑うのもいい。僕の言う事にしょんぼりする姿も可愛い」
美羽は自分の顔が嬉しそうに綻んでいる事に気付かない。
清斗は、それを見て美羽の恋人に興味が出てくる。
「美羽ってさ、クールで誰にでも冷たいから、その子といる時もそうなの?」
「さぁ……」
近嗣といると色んな感情が湧いてくる。
自分がどんななのかは良くわからない。
「へぇ──やっぱ会ってみたいな。チカちゃん」
ニヤニヤとする清斗に美羽が冷たい視線を向けた。
◆◇◆
「僕はチカといると、どうなるんだ?」
美羽は、久しぶりのデートで近嗣に聞いてみた。
おしゃれなカフェのテラスで注文が終わった所だった。
「みぃちゃんは……可愛くなる……」
少しニヤける近嗣に美羽は訝しむ。
「なんだそれは……」
「気持ちいい事するとトロトロになって──」
美羽の顔が赤くなった。
「そ、そういう事を言っているんじゃない!」
「それ以外? 優しいとか?」
「僕はチカに優しいのか?」
「優しいよ。例えば──」
そこで注文したコーヒーが届いた。
「お待たせしました」
やけに笑顔の可愛い店員が持ってきたコーヒーの一つに、美羽がミルクと砂糖を入れて近嗣に渡してくる。
「そういうとこ……」
「何?」
「俺の好みが分かってて、コーヒーにミルクと砂糖を入れてくれたとこ……」
自然にやって来た事を、口に出して言われると恥ずかしくなる。
「でも、どうしてそんな事聞くの……?」
「僕は、いつもクールで冷たいらしい。チカといる時はどうかと聞かれたんだ」
美羽は、コーヒーに視線を落としてからカップを掴んでそれを飲む。
視線を上げた時に見た近嗣の顔が不機嫌そうだった。
「チカ?」
近嗣は、テーブルの上に肘を乗せて頬を押さえるとプイッとそっぽを向いてしまう。
「どうした?」
視線だけを美羽に寄越してくる。
「俺と一緒にいる時のみぃちゃんを、わざわざその人に教える必要ない……」
美羽はキョトンとしてしまう。
「俺が言ったこと……言わないで……」
「あ、ああ……でも、どうしたんだ?」
美羽には、近嗣が不機嫌になってしまった理由がわからなかった。
「……二人きりでいるみぃちゃんを他人に教えたくない……俺ももう教えないようにしよ……」
「それは──」
近嗣の独占欲なのかと思ったら、胸の奥からブワッと何かが込み上げてくる。
近嗣が今まで見せた事がない独占欲が嬉しくて、美羽の顔が熱くなってくる。
「みぃちゃん……外でそういう顔するのも禁止ね……」
美羽は、バッと顔を手で隠して何度も深呼吸をする。
近嗣が可愛すぎて、美羽はどうしようもなかった。
近嗣は、いつも美羽を翻弄する。
「僕は……チカの前ではカッコ悪い事はわかった……」
「何言ってるの? カッコ良くて可愛いくて……自慢したいのに、誰にも見せたくない。不思議な気持ち……」
近嗣の言っている事がなんとなくわかる。
やっぱり清斗には、二人きりでいる近嗣の事も美羽の事も、教えるのはやめようと思った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
162
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる