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思い通りにはいかないけれど
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「チカ、海に行かないか?」
それは、近嗣達が夏休みに入って暫く経った頃だった。
美羽は、生徒会に夏期講習と忙しくしていた。その合間に会ってはいたが、近嗣の勉強を見てもらっていただけだった。
「いいの?」
「ああ。生徒会もないし、僕もたまには息抜きがしたいからな」
美羽は忙しいので、近嗣から誘う事はない。
けれど、美羽からの提案を拒否したことも無い。
近嗣は、コクリと頷いた。美羽は、それを確認するとすぐに計画を立てた。
「それじゃあ、駅前で待ち合わせしよう」
近嗣も美羽と海に行くのをとても楽しみにしていた。
◆◇◆
近嗣が待ち合わせの30分前に着いたにも関わらず、美羽は待ち合わせ場所にいた。
その事に近嗣の胸がドキリとする。
美羽は、近嗣に気付くと自信たっぷりでニヤリと笑う。
「やっぱりな。チカはいつも僕より来るのが早かった。このぐらいの時間に来てると思っていた」
「ずるい……」
待ち合わせの時は、いつも美羽よりも早く来ていた。美羽がこちらに気付いて近嗣を見つけて嬉しそうに笑う顔を見るのが好きだったからだ。
「拗ねてるのか? そんな顔をしても可愛いだけだ。たまには先に来るのもいいな」
自分が先に来たかったと思っているのが顔に出てたみたいだ。子供扱いされたみたいで恥ずかしくなる。
クスクスと笑いながら覗き込んでくる美羽を視線を逸らす事でやり過ごす。
「ほら、機嫌直して行くぞ」
楽しそうに歩き出した美羽の後をついて行こうとした所で、聞き覚えのある声に立ち止まった。
「ああーっ! 会長! こんなところで偶然ですね!」
ニコニコと美羽に声を掛けて来たのは忍だった。
「今日は予定があるって言ってましたけど、こんな所にいるなんて、予定無くなったんですね!」
見れば、忍以外にも生徒会のメンバーが美羽を囲む。
「その荷物! 海に行くってよくわかりましたね! 会長も一緒に行けるなんて嬉しいです!」
忍は美羽の腕に抱きつく。
「いや、僕は──」
美羽は近嗣の方をチラリと見た。
視線に気付いた忍が、近嗣の方を見る。
「あれ!? 糸崎じゃん! まさかお前も海に行くのか? 同じ電車じゃないだろうなぁ。あっちいけ」
忍に追い払われる仕草をされた。
どうやら美羽と一緒に来ているとは思われなかったらしい。
近嗣は、それならば最初から一緒ではない事にしようと、何も言わずに踵を返して歩き出した。
美羽は、近嗣の名前を呼ぼうとしてやめた。
それを近嗣が望んでいないとわかるからだ。心の中でため息をつく。
美羽と離れたものの、近嗣はどうしようかと考えて駅内で立ち止まっていた。
美羽と海に行きたかった。
「糸崎さんっ!」
名前を呼ばれてそちらの方向を見れば、聡達がこちらに駆けてきた。
「こんな所でどうしたんすか!?」
「どうしようか考えてた……」
「予定無いんすか!? それなら、俺らと海に行きましょうよ!」
それは、有難い申し出だった。
「俺もいいのか?」
「勿論すよ!」
聡の言葉に川淵も楢林も快く頷いてくれる。
もしかしたら向こうで美羽に会えるかもしれない……そんな事を考えながら聡達と電車に乗った。
◆◇◆
青い空は海水浴には最高だった。
聡達と砂浜を歩く。
「場所はどこにしますか?」
良さそうな場所を探してキョロキョロとしていれば、聡が「あっ!」と叫ぶ。
「生徒会御一行じゃねぇーか!」
聡が嫌そうに言った言葉に全員がそちらを向く。
パラソルの下に生徒会のメンバーがいた。
近嗣は、美羽に会えた事を喜んでいた。
「こんな時までお前らに会うなんて最悪ぅー!」
忍は、こちらにやってきてベーっと舌を出す。
「それはこっちのセリフだ!」
睨み合う聡と忍にため息をつく。
「聡……やめろ」
近嗣が聡を咎めると、美羽もパラソルの下から出てきた。
「忍もやめろ」
海水パンツにパーカー型のラッシュガードを羽織る美羽を見て見惚れる。
「君たち、場所がないなら一緒にどうだ?」
美羽が言ってくれた。
「「ええー!」」
聡と忍の声が被る。けれど、川淵と楢林は全く気にした様子はない。
「いいんですか? ラッキー」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
二人はパラソルの方へ行けば、会計と書記と庶務も快く迎えてくれる。
「荷物こっち置いていいよ」
「日に焼けちゃうからこっちおいで」
「一緒にビーチバレーする?」
そんな言葉をかけられて、盛り上がっていた。
「「裏切り者共め……」」
聡が顔を引きつらせれば、忍も同じだった。
お互いを意識して仲が悪いのは、この二人だけみたいだ。
文句を言いながらみんなの元へ行く聡と忍の背中を見送る。
美羽がこっそり話しかけてきた。
「予定とは違うが……一緒に海に来れたな」
優しく笑う美羽に近嗣は微笑み返した。
それは、近嗣達が夏休みに入って暫く経った頃だった。
美羽は、生徒会に夏期講習と忙しくしていた。その合間に会ってはいたが、近嗣の勉強を見てもらっていただけだった。
「いいの?」
「ああ。生徒会もないし、僕もたまには息抜きがしたいからな」
美羽は忙しいので、近嗣から誘う事はない。
けれど、美羽からの提案を拒否したことも無い。
近嗣は、コクリと頷いた。美羽は、それを確認するとすぐに計画を立てた。
「それじゃあ、駅前で待ち合わせしよう」
近嗣も美羽と海に行くのをとても楽しみにしていた。
◆◇◆
近嗣が待ち合わせの30分前に着いたにも関わらず、美羽は待ち合わせ場所にいた。
その事に近嗣の胸がドキリとする。
美羽は、近嗣に気付くと自信たっぷりでニヤリと笑う。
「やっぱりな。チカはいつも僕より来るのが早かった。このぐらいの時間に来てると思っていた」
「ずるい……」
待ち合わせの時は、いつも美羽よりも早く来ていた。美羽がこちらに気付いて近嗣を見つけて嬉しそうに笑う顔を見るのが好きだったからだ。
「拗ねてるのか? そんな顔をしても可愛いだけだ。たまには先に来るのもいいな」
自分が先に来たかったと思っているのが顔に出てたみたいだ。子供扱いされたみたいで恥ずかしくなる。
クスクスと笑いながら覗き込んでくる美羽を視線を逸らす事でやり過ごす。
「ほら、機嫌直して行くぞ」
楽しそうに歩き出した美羽の後をついて行こうとした所で、聞き覚えのある声に立ち止まった。
「ああーっ! 会長! こんなところで偶然ですね!」
ニコニコと美羽に声を掛けて来たのは忍だった。
「今日は予定があるって言ってましたけど、こんな所にいるなんて、予定無くなったんですね!」
見れば、忍以外にも生徒会のメンバーが美羽を囲む。
「その荷物! 海に行くってよくわかりましたね! 会長も一緒に行けるなんて嬉しいです!」
忍は美羽の腕に抱きつく。
「いや、僕は──」
美羽は近嗣の方をチラリと見た。
視線に気付いた忍が、近嗣の方を見る。
「あれ!? 糸崎じゃん! まさかお前も海に行くのか? 同じ電車じゃないだろうなぁ。あっちいけ」
忍に追い払われる仕草をされた。
どうやら美羽と一緒に来ているとは思われなかったらしい。
近嗣は、それならば最初から一緒ではない事にしようと、何も言わずに踵を返して歩き出した。
美羽は、近嗣の名前を呼ぼうとしてやめた。
それを近嗣が望んでいないとわかるからだ。心の中でため息をつく。
美羽と離れたものの、近嗣はどうしようかと考えて駅内で立ち止まっていた。
美羽と海に行きたかった。
「糸崎さんっ!」
名前を呼ばれてそちらの方向を見れば、聡達がこちらに駆けてきた。
「こんな所でどうしたんすか!?」
「どうしようか考えてた……」
「予定無いんすか!? それなら、俺らと海に行きましょうよ!」
それは、有難い申し出だった。
「俺もいいのか?」
「勿論すよ!」
聡の言葉に川淵も楢林も快く頷いてくれる。
もしかしたら向こうで美羽に会えるかもしれない……そんな事を考えながら聡達と電車に乗った。
◆◇◆
青い空は海水浴には最高だった。
聡達と砂浜を歩く。
「場所はどこにしますか?」
良さそうな場所を探してキョロキョロとしていれば、聡が「あっ!」と叫ぶ。
「生徒会御一行じゃねぇーか!」
聡が嫌そうに言った言葉に全員がそちらを向く。
パラソルの下に生徒会のメンバーがいた。
近嗣は、美羽に会えた事を喜んでいた。
「こんな時までお前らに会うなんて最悪ぅー!」
忍は、こちらにやってきてベーっと舌を出す。
「それはこっちのセリフだ!」
睨み合う聡と忍にため息をつく。
「聡……やめろ」
近嗣が聡を咎めると、美羽もパラソルの下から出てきた。
「忍もやめろ」
海水パンツにパーカー型のラッシュガードを羽織る美羽を見て見惚れる。
「君たち、場所がないなら一緒にどうだ?」
美羽が言ってくれた。
「「ええー!」」
聡と忍の声が被る。けれど、川淵と楢林は全く気にした様子はない。
「いいんですか? ラッキー」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
二人はパラソルの方へ行けば、会計と書記と庶務も快く迎えてくれる。
「荷物こっち置いていいよ」
「日に焼けちゃうからこっちおいで」
「一緒にビーチバレーする?」
そんな言葉をかけられて、盛り上がっていた。
「「裏切り者共め……」」
聡が顔を引きつらせれば、忍も同じだった。
お互いを意識して仲が悪いのは、この二人だけみたいだ。
文句を言いながらみんなの元へ行く聡と忍の背中を見送る。
美羽がこっそり話しかけてきた。
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