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問題児VS生徒会長
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睨んだだけで相手がビビる男、糸崎近嗣。
色素の薄い茶色い髪に、目はくっきりとした二重に鼻が高く、堀の深い顔。派手な見た目とは裏腹に無口なところが余計に絡まれる原因だった。
噂では、喧嘩は負け知らずらしい。
そんな男と対峙しているのは悪魔の微笑と呼ばれる微笑みを顔に貼り付けてニッコリと笑っている樋口美羽。生徒会長だ。
眼鏡の奥の瞳は常に笑っているように見えるのに、彼の厳しさを知るものは彼を見ても笑えない。
男子高校生がはしゃぎながら行き交う放課後の廊下で睨み合っている。
「糸崎くん、言葉を理解できない猿にわかりやすく言ったつもりなんだが、わからなかったか?」
「……るせぇ」
近嗣の方が身長が高く、美羽を上から見下ろす。
辺りがシーンと静まり返る。
「君のその手は人を殴るためにあるんじゃない。暴力で相手を威圧する行為は猿にも等しい。いや、猿に失礼か……」
「…………」
美羽は、睨みつける近嗣に対して、悪魔の微笑で対抗している。
「糸崎おっかねー……」
「生徒会長……あの糸崎に一歩も引かないんだもんな……」
「二人ともマジすげー……」
周りの野次馬もヒソヒソと囁き合う。
「嫌ならケンカなんてするんじゃなかったな。ペナルティとして奉仕活動を強制する。理解できたか?」
「──放課後は……やる事がある……」
「もう決まった事だ。嫌ならケンカをするんじゃない。生徒会で預かる事になって迷惑なんだ」
美羽がため息と共に発した言葉に近嗣は一瞬怯む。
「……生徒会で?」
「ああ。生徒会室で僕の補佐をしてもらう事になった」
そこで、副会長の前原忍が間に割って入る。
「会長が先生方に温情をもらったんだ! 生徒会で預かるから、それでケンカの件で処分するのは勘弁してやって欲しいって頭を下げたんだ!」
「…………」
「…………」
見つめ合う二人に一瞬暖かい空気が流れたのは誰もわからない。
むしろ睨み合っているかのように見える。
「……放課後は生徒会室へ行けばいいのか?」
「そうだ。これから来い。逃げるなよ」
近嗣は頷いてから、無表情のまま美羽に付いていく。
「樋口会長、やっぱり僕も一緒に……!」
忍が一緒に行こうとする。
「大丈夫だ。彼の面倒は僕一人で十分だ。生徒会で急ぎの仕事はないんだ。帰るといい」
「で、でも……!」
「忍」
美羽の静かでも空気が震えるような声音に、忍はぐっと口籠る。
「僕が大丈夫だと言っている」
「は、はい……わかりました。お疲れ様でした」
忍が了承すれば、美羽はニッコリと笑った。
「お疲れ様」
「は、はい! (会長……やっぱりかっこいいなぁ……)」
忍は、美羽に笑顔を向けられてニヤける。
このやりとりをしている間に、近嗣の方には自称舎弟の信谷聡が声を掛けていた。
「糸崎さん! そんな奴の言う事なんか聞く事ないっすよ!」
「借りは……返す……」
「あのケンカは、俺の友達を守ってくれたからじゃないっすか! それなら、俺が処分されれば……!」
「関係ない……さっさと帰れ」
近嗣は聡を一瞥しただけで、もう相手にしなかった。
「糸崎さん……(まじ痺れる……)」
こうして、二人はその場を後にする。
美羽は、生徒会室のドアを開けて、近嗣を招き入れた瞬間に鍵を閉めた。
二人で向き合えば、近嗣の顔がフッと柔らかくなる。
美羽はため息をついて近嗣を見上げる。
「チカ……怪我は?」
美羽は、そっと近嗣の顔に手を添えた。
「大丈夫……」
近嗣は、顔に添えられた美羽の手を取って、指先にチュッとキスをする。
「まったく……心配かけさせるな」
「ごめんね……」
シュンとしてしまった近嗣に、美羽は優しく微笑む。
二人がこんな顔をするのは二人きりの時だけだ。
「怪我がないならいい……チカは自分からケンカしないって知ってるからな」
「迷惑かけたね……」
美羽は、はぁとため息をついた。
「何のために同じ高校にしたんだ。万が一、退学にでもなったら困る」
「ごめん……」
近嗣は、美羽をギュッと抱きしめる。
「放課後……会う時間……無くなるかと思った……」
近嗣の言葉に美羽はクスクスと笑う。
「そうなりそうだったから、逆にこうやって生徒会室で会えるようにしたんじゃないか」
「みぃちゃん……」
近嗣が甘えるように美羽にスリスリとする。
「先生方を説得するの大変だったんだからな。いつも学校にバレないようにしろと言ってるだろう」
「ごめん……」
「謝ってばかりじゃなく、悪いと思ってるなら……」
美羽の顔が近嗣に近付く。
「どうするんだ?」
「こうする……」
近嗣は、美羽の唇にチュッとキスを落とした。
二人で微笑み合いながら、抱きしめ合う。
この二人は付き合っている。だが、それを知る者は誰もいない。
色素の薄い茶色い髪に、目はくっきりとした二重に鼻が高く、堀の深い顔。派手な見た目とは裏腹に無口なところが余計に絡まれる原因だった。
噂では、喧嘩は負け知らずらしい。
そんな男と対峙しているのは悪魔の微笑と呼ばれる微笑みを顔に貼り付けてニッコリと笑っている樋口美羽。生徒会長だ。
眼鏡の奥の瞳は常に笑っているように見えるのに、彼の厳しさを知るものは彼を見ても笑えない。
男子高校生がはしゃぎながら行き交う放課後の廊下で睨み合っている。
「糸崎くん、言葉を理解できない猿にわかりやすく言ったつもりなんだが、わからなかったか?」
「……るせぇ」
近嗣の方が身長が高く、美羽を上から見下ろす。
辺りがシーンと静まり返る。
「君のその手は人を殴るためにあるんじゃない。暴力で相手を威圧する行為は猿にも等しい。いや、猿に失礼か……」
「…………」
美羽は、睨みつける近嗣に対して、悪魔の微笑で対抗している。
「糸崎おっかねー……」
「生徒会長……あの糸崎に一歩も引かないんだもんな……」
「二人ともマジすげー……」
周りの野次馬もヒソヒソと囁き合う。
「嫌ならケンカなんてするんじゃなかったな。ペナルティとして奉仕活動を強制する。理解できたか?」
「──放課後は……やる事がある……」
「もう決まった事だ。嫌ならケンカをするんじゃない。生徒会で預かる事になって迷惑なんだ」
美羽がため息と共に発した言葉に近嗣は一瞬怯む。
「……生徒会で?」
「ああ。生徒会室で僕の補佐をしてもらう事になった」
そこで、副会長の前原忍が間に割って入る。
「会長が先生方に温情をもらったんだ! 生徒会で預かるから、それでケンカの件で処分するのは勘弁してやって欲しいって頭を下げたんだ!」
「…………」
「…………」
見つめ合う二人に一瞬暖かい空気が流れたのは誰もわからない。
むしろ睨み合っているかのように見える。
「……放課後は生徒会室へ行けばいいのか?」
「そうだ。これから来い。逃げるなよ」
近嗣は頷いてから、無表情のまま美羽に付いていく。
「樋口会長、やっぱり僕も一緒に……!」
忍が一緒に行こうとする。
「大丈夫だ。彼の面倒は僕一人で十分だ。生徒会で急ぎの仕事はないんだ。帰るといい」
「で、でも……!」
「忍」
美羽の静かでも空気が震えるような声音に、忍はぐっと口籠る。
「僕が大丈夫だと言っている」
「は、はい……わかりました。お疲れ様でした」
忍が了承すれば、美羽はニッコリと笑った。
「お疲れ様」
「は、はい! (会長……やっぱりかっこいいなぁ……)」
忍は、美羽に笑顔を向けられてニヤける。
このやりとりをしている間に、近嗣の方には自称舎弟の信谷聡が声を掛けていた。
「糸崎さん! そんな奴の言う事なんか聞く事ないっすよ!」
「借りは……返す……」
「あのケンカは、俺の友達を守ってくれたからじゃないっすか! それなら、俺が処分されれば……!」
「関係ない……さっさと帰れ」
近嗣は聡を一瞥しただけで、もう相手にしなかった。
「糸崎さん……(まじ痺れる……)」
こうして、二人はその場を後にする。
美羽は、生徒会室のドアを開けて、近嗣を招き入れた瞬間に鍵を閉めた。
二人で向き合えば、近嗣の顔がフッと柔らかくなる。
美羽はため息をついて近嗣を見上げる。
「チカ……怪我は?」
美羽は、そっと近嗣の顔に手を添えた。
「大丈夫……」
近嗣は、顔に添えられた美羽の手を取って、指先にチュッとキスをする。
「まったく……心配かけさせるな」
「ごめんね……」
シュンとしてしまった近嗣に、美羽は優しく微笑む。
二人がこんな顔をするのは二人きりの時だけだ。
「怪我がないならいい……チカは自分からケンカしないって知ってるからな」
「迷惑かけたね……」
美羽は、はぁとため息をついた。
「何のために同じ高校にしたんだ。万が一、退学にでもなったら困る」
「ごめん……」
近嗣は、美羽をギュッと抱きしめる。
「放課後……会う時間……無くなるかと思った……」
近嗣の言葉に美羽はクスクスと笑う。
「そうなりそうだったから、逆にこうやって生徒会室で会えるようにしたんじゃないか」
「みぃちゃん……」
近嗣が甘えるように美羽にスリスリとする。
「先生方を説得するの大変だったんだからな。いつも学校にバレないようにしろと言ってるだろう」
「ごめん……」
「謝ってばかりじゃなく、悪いと思ってるなら……」
美羽の顔が近嗣に近付く。
「どうするんだ?」
「こうする……」
近嗣は、美羽の唇にチュッとキスを落とした。
二人で微笑み合いながら、抱きしめ合う。
この二人は付き合っている。だが、それを知る者は誰もいない。
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