交際0日同棲生活

おみなしづき

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知らなくていい事もある ③ side龍彦

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 僕の姉は、宝石店を経営する旦那と結婚して、海外で生活をしている。
 たまぁに帰ってきては、僕を連れ回して遊ぶ。
 兄貴とは性格が合わないようで、僕ばかり連れ回したがる。
 可愛がってくれるのはありがたいのだけれど、強引で豪快で自分勝手だ……。

 姉のせいで正親さんの唇を奪われるという事件が起きてしまった。
 姉には、正親さんの事を話して、今後は実家には帰らないと突っぱねた。
 すると、散々喚いたと思ったら、いい事を思いついたと言い出した。

『それなら、次に帰るときは、私が龍彦のマンションでお世話になればいいのよ。その正親さんにも会いたいもの』

 頭を抱えるしかない。
 こんな姉をどうにかしたいのが本音だ……。

 そんな姉も今日でやっと帰ってくれる。
 今日は仕事が終わったら正親さんと一緒に帰る約束をした。
 家に戻れると思うと嬉しくて仕方ない。

 会社に出勤して、エレベーターを待つ人の中に目当ての人を見つけた。

「おはようございます。富田部長」
「おはよう」
「少しお時間よろしいですか?」
「──わかった」
「話のわかる方で良かったです」

 富田部長と一緒に第三会議室へ行く。
 驚く部長にニッコリと笑顔を向ける。

「おい……会議室を私用で使うのは許されていないぞ……」
「大丈夫ですよ。昨日から丸一日使う予定で申請しておいたので、問題ありません」
「なんて申請したんだ?」
「重要会議ですよ」
「まったく……」

 呆れながらも、一緒に会議室に入ってくる。
 扉を閉めて、鍵を掛けた。

「話したいことはわかりますよね?」
「マサの事だろ?」
「すみません。そう呼ばれるのは気に入りません」

 気安く呼ばないで欲しい。
 ため息をつかれたけれど、気に入らないものは気に入らない。

「──それで? 話は?」
「この前、酔っ払った正親さんを泊めて頂いたそうで──ありがとうございました」
「ああ……お前は浮気じゃなかったんだな?」
「当たり前です。正親さんにもたっぷり教えてあげました」
「そうかよ……」

 部長は顔色を変えなかったけれど、内心は浮気してなくて残念という所か?

「それと、キスされたそうですね」
「なんだよ……また殴るか?」
「いいえ。もっと物理的に引き離してやろうかと思いまして」

 ニコニコしていれば、眉間に皺を寄せて、訝しむような顔をする。

「どういう意味だ?」
「部長、海外事業部で人員を募集しているのは知っていますよね?」
「ああ……本社からも数名行く予定だな……」
「それに行かれてはどうでしょう?」
「は?」

 意味がわからないという顔をされる。

「俺は転勤願も出してないんだぞ?」
「そんなの関係ありません。安達社長とは付き合い長いんです。僕から推薦すれば、間違いなく転勤できますよ。良かったですね」
「ニコニコしながらとんでもない事言うな……お前にそんなコネがあるとはな。意地が悪いな……」
「正親さんの為なら使える物は全部使います。どうしますか? 正親さんに手を出さないなら、まだ日本で仕事できますけど、約束してもらえないのなら──海外です」

 ニッコリ笑顔で言えば、部長ははぁとため息をついた。

「悪かったよ……キスした事は謝る。でも、想うのは自由だろ?」
「ええ。想うだけなら構いません。けれど、触れるのは許しません。次はありませんよ」
「もしも──田杉が俺を好きになったら?」

 笑顔を消して、目を細めて相手を見据える。
 もっと笑える冗談を言ってくれ。

「だったら、もう既に好きになっているはずでしょう? あり得ない事を言われると笑えませんよ」

 部長は、またしても大きなため息をついた。

「──その通りだな。もう悪あがきはしない。手は出さないと約束する……」

 嘘はついてなさそうだ。

「ああ良かった。部長は正親さんを認めて助けてくれる方なので、引き離すのは心苦しかったんです」

 また笑顔を向ければ、部長は苦笑いする。

「まさかそう来るとはな……殴られるのは構わないと思っていたが、海外は勘弁して欲しいな……」
「これからもよろしくお願いしますね」
「とんでもない脅しだな……」

 部長の引きつる顔を見れて満足だ。

「褒め言葉ですね。ありがとうございます」

 こうして、富田康之と僕はひとまず和解したのだった。

     ◆◇◆

 朝のうちに【昼食を取ったら、第三会議室で待っています】そうメッセージを送って、返信をもらった。
 それから仕事をして昼食の時間だ。
 会議室で待っていれば、正親さんは会議室にやってきた。

「お前、会議室借りたの?」
「はい。今日一日申請したんです。滅多にできる事じゃないですけど、今日は特に使う予定がないそうなので大丈夫です」
「そっか」

 正親さんは、僕の前にやってきて、そっと袖を掴んできた。

「へへっ。なんか会社で悪い事してるみたいだな」

 はにかんだ笑顔で僕を見つめた。
 可愛い!
 ギュッと抱きついて腕の中に閉じ込めれば、そっと腕を背に回してくれる。

「部長とはどうですか?」
「普通だった。驚くほど普通。だから、俺も気にしないで仕事できたよ」
「良かったですね」

 そうしてもらわないと困る。
 部長も大人だ。良くわかってくれているみたいだ。

「たっつん……俺ね、たっつんが本当に大好きなんだ……だから、こうして一緒にいられて嬉しいよ」
「正親さん……そんな事を言われたら、僕の方が嬉しくなっちゃいます……」

 そっと顎に手をかけて上向かせれば、目を瞑ってキスを受け入れてくれる。
 舌を絡めるキスをすると、もう我慢できなかった。
 シャツ越しにサワサワと乳首を触る。

「お、おい……手……」
「まだお昼休みの時間があります……会社でこんな事できる事ありませんよ……」
「あっ……ちょっと……たっつん……」
「すぐ済ませますから……」

 顔を逸らして真っ赤になる正親さんの耳元で囁く。
 正親さんが今すぐ欲しい。

「──すぐじゃやだ……家に帰ってじっくりして欲しい……」

 真っ赤になりながらそんな事を言うんだからたまらない。

「わ、わかりました!」

 ギュッと抱きついて自分の欲望を抑え込む。
 気持ちはすぐにでも触れ合いたいのに、正親さんの一言で我慢できる。
 僕はいつだって正親さんに翻弄されている。
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