交際0日同棲生活

おみなしづき

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正座からの……土下座……からの……

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『正親さん⁉︎ 良かった! 繋がった! 大丈夫ですか⁉︎ 何かあったんですか⁉︎』

 声を聞いたら心臓が好きだと鳴る。
 俺はこんなにもたっつんが好きだ。

「──何もないよ。大丈夫」
『一晩中繋がらないから事故にあったのかと……もう少しで探しに行く所でした。良かったぁ……』

 ズキンッと胸が痛んだ。
 一晩中って……寝てない?
 俺はなんて事をしたんだ……。

「ごめん! 本当にごめん! 居酒屋行って飲んでたら……連絡するの忘れてそのまま寝ちゃって……」

 嘘は言っていない嘘は……。

『そうだったんですね。何もなくて良かったです』

 こんな風に言うたっつんが浮気?
 どうしても信じられなかった。

「たっつん……午後でいいから……会えない?」
『え?』

 会ってちゃんと話したかった。
 本当は今すぐ会いたい! でも、たっつんが寝てもいないのに、無理させたくなかった。

『──わかりました。時間作ります』

 通話を切って、家に帰ろうと駅に急いだ。

     ◆◇◆

 待っている時間が長く感じた。
 無駄に掃除なんてして、買ったペアグラスを食器棚に並べたりしていた。

 たっつんが家に帰って来たのは、日が落ちるぐらいの時間だった。
 玄関で出迎えた俺に笑顔を向けてくれる。

「帰って来て大丈夫だった?」
「また帰らないとですけど、大丈夫ですよ」

 俺に抱き着こうとするたっつんを止めた。

「そ、そういうのは、話してからね」
「はい……」

 残念そうにしながらもリビングにやってきた。

「とりあえず……そこに正座」
「はい」

 たっつんは絨毯の上に正座した。
 俺もたっつんの前に正座した。

 二人で正座し合って真剣な顔をする。

「あのさ……」
「はい」
「たっつん……浮気した?」
「え⁉︎ するわけないじゃないですか!」

 やっぱりそうだよな……たっつんが浮気なんてするわけなかったんだ。
 頭を下げる事になるのは俺だけかもしれない……。

「たっつん、昨日はどこにいた?」
「昨日ですか? えっと……姉の買い物に付き合わされてショッピングモールにいました」
「お姉……さん?」
「はい。すごく強引な人で……実家に帰っているのも、その姉が関係しています。姉は海外で暮らしているので、帰っている一週間、実家にいて相手をしろって言われているんです。今も姉を誤魔化してここに来てます」
「じゃあ、けっこうスキンシップ多めの人?」
「はい。抱きついたり腕組んだり、挨拶もハグされますよ」

 まじか……海外暮らしのお姉さん……。
 お姉さんだったなんて……良くある話じゃないか……。

「その人って……黒髪ロングの綺麗な人?」
「そうですよ。よく分かりますね」

 ニコニコ顔のたっつんに遠い目をする。

 とんだ勘違いだった……。
 顔を手で覆う。

 ちゃんと教えてくれてたらこんな事にならなかったのに!
 いや、違う。俺が悪いんだ。ちゃんと聞くべきだった。
 浮気されたと思ったからショックで頭回らなかった……。
 それぐらい俺はたっつんしか見えてないんだ……。

 俺は、そのまま膝の前に手を着いて頭を下げた。
 意味は違うけど、今日一日で二回も土下座した……。

 たっつんは、何事かと慌て出す。

「正親さん⁉︎」
「ごめん!」

 たっつんが俺の肩を掴むが、俺は頭を下げ続ける。

「やめて下さいよ!」
「本当にごめん! 俺……たっつんがその人と浮気したと思って……ぶ、部長と一緒に寝た!」

 あ、ちょっと言い方間違った!

「──顔上げて下さい」

 どこから出たんだというぐらいの低い声にビビる。
 ゆっくりと顔を上げてたっつんと目を合わせる。
 さっきまでの笑顔がなく、眉間に皺を寄せて苦しそうな顔をしていた。
 こんな顔をさせたくなかった。

「あの! さっきのは言い方を間違えて──っ!」

 そのまま両肩を掴まれてドサリと床に押し倒されて上に乗られた。
 床に押し付けられながら、鋭い視線を向けられる。
 肩痛い! 怖い! けど、俺が悪い! 全部悪い!

「寝たって言いました?」

 その地を這うような低い声は、どっから出てくんの⁉︎

「い、言い方を間違えたんだよ……! 寝たは寝たんだけど、言葉のままの寝たで! よ、酔っ払って……部長の家に泊まって……」
「家に泊まった……?」

 声は小さいのに、厳しい声音にビクッと震える。

「正親さん……僕を好きだと言ったのは嘘ですか?」
「嘘じゃない! 大好きだよ! でも、浮気されたと思ったから──っ」

 グッと肩に力を込められて声が詰まった。

「浮気されたと思ってヤケ酒して、酔っ払って他の男の家に泊まったという事ですね?」

 間違ってないよな……。
 コクリと頷く。

「なるほど……わかりました。正親さんならありそうだ……」

 大きなため息をつかれる。

「僕の愛し方が足りなかったんですね……だから僕を疑った。何よりそれが許せませんね……」
「ごめん! 許せないかもしれないけど……許して……お願い……」

 たっつんは俺をジッと見つめるとクスクスと笑い出した。
 怖い怖い怖い!

「怯えた顔も可愛いんですよね……富田部長もたまらなかったでしょうね……」

 そう言いながら首筋をスッと撫でられた。

「お、俺は寝ていただけで……」
「無防備な寝顔を一晩中晒していた……というわけですね……?」

 クスクスと笑うたっつんが非常に怖かった。

「か、体には触れられてないよ……!」

 キスされた事は……今は言えない!
 あんなのキスのうちに入るのか⁉︎

「何もなかったかどうかは僕が決めます。全部見せてもらいますよ」

 俺はコクリと頷く事しかできなかった。
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