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ケンカのち…… side尚雪

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 最近、休みの日に輝さんが出掛けることが増えた。
 今日も輝さんは朝から居なかった。
 私服だったけれど、仕事なんだろうか?

 スーツでも私服でも少しは気になる。
 けれど、何も聞かなかった。
 笑顔で見送って笑顔で出迎えるのが自分の役目だと思っている。

 天気は良くて、家の掃除をしている時に春樹君の忘れ物を見つけた。
 大学ノートですぐに必要かと思い確認すれば、あまり必要ではないらしい。
 けれど、バイト先に来ているらしく、丁度いいので会う約束をした。

 すぐに用意をして外に出た。
 春樹君のバイト先であるカフェに向かって歩いていれば、前を歩く人物に見覚えがあった。
 高部君だ。会社の先輩らしき人と一緒に歩いていた。
 そういえば、輝さんの会社が近かったな。
 挨拶だけでもしようと背後から近付いた。
 段々と話の内容が聞こえてくる。

「河西主任は今日忙しくてな。主任じゃなくて悪かったな」
「聞いてるから大丈夫です!」
「そっか。お前は義弟おとうとになるかもしれないしな! まさか河西主任がお見合いするなんてな。しかも相手が高部の姉か」
「主任が兄になるのは、俺は嬉しいです!」
「お前は河西主任を尊敬しているからな」
「はい! カッコイイですよね!」
「この話知ってるか? この前なんかな……」

 思わず立ち尽くしてしまって、声を掛けそびれた。
 河西主任というのは、輝さんの事だよな?
 お見合いって言ってたけれど、聞き間違い?
 まさかね……。

 気にしないようにして、春樹君がいるカフェへと足を進めた。
 お洒落なテラスがあるカフェでは、春樹君がテラスの端の席で待っていてくれた。

「あ、ナオさん!」
「春樹君」

 こちらに気付いて手を振ってくれた。
 忘れ物を手渡して、新しい生活はどうだとか、バイトが楽しいだとか色んな話をした。
 そのうちにふと先程の高部君の話を思い出した。
 涼君は同じ職場だ。春樹君も何か聞いているかもしれない。

「ところで……春樹君、輝さんはやっぱり結婚するのかな?」
「え⁉︎ そんな! お見合いしたからって結婚するとは限りませんよ!」

 必死に否定してくれる春樹君に悪いと思いつつもお見合いが真実だったのかと落胆する。

「やっぱりお見合いしたんだ……」
「え……?」

 かまをかけられたと気付いてハッとして、言ってしまったという顔をした春樹君に苦笑いする。

「春樹君はどこまで知っているの?」
「…………」

 視線をテーブルに落として話そうか悩んでいるみたいだ。

「口止めされてる? 俺だけ何も聞かされないなんて──教えて」
「ナオさん……」

 真剣に見つめれば、春樹君はポツリポツリと話してくれた。

「俺が知っているのは、引っ越す前に涼と輝さんで話していた事だけです」
「うん……」
「輝さんがお見合いしたって言ってました……」
「そっか……」

 やっぱり本当だったんだ。

「輝さんが結婚すれば、涼が結婚しなくていいみたいな事も話してました……」

 輝さんなら弟の為に結婚するというのもあり得るだろう。
 輝さんの母親が息子を結婚させたがっているのは知っていた。
 電話でも何度も断っているのを聞いた事がある。

 最近は休日にいない事が増えて、電話を出る時に時々自分の前でしない事があった。
 不思議には思っても疑う事はなくて……。

「話してくれてありがとう。無理に話させてしまってごめん」
「ナオさん……ちゃんと話し合って下さいね……」
「大丈夫。心配しないで」

 春樹君に心配かけないように笑ってみせた。

     ◆◇◆

 春樹君と別れて家に帰ってもずっと考えてしまった。
 輝さんは結婚するんだろうか?

 どうしよう……。
 俺は、輝さんと離れたくない。
 俺に何も言わないということは、結婚しても俺と一緒にいてくれるという事なんだろうか?
 その場合……俺が浮気相手?
 そんなの嫌に決まってる……。
 そもそも輝さんを誰かとシェアするような事ができるわけない。
 じゃあ別れる……そんなのできない……。

 ダメだな……考えがまとまらない。

 考え込んでいれば、リビングのドアが開く音で輝さんが帰ってきた事に気付く。
 もう日が暮れて夜だった。
 こんな時間までどこにいたのかとかそんな事を考えてしまう自分が嫌だった。

「ただいま」
「お帰りなさい」

 輝さんの顔を見れば、笑顔になってしまう。
 俺は本当にどうしようもない。

 近付けば、女性物の香水の香りがした。
 この香りは何度か嗅いだ事があった。
 そっか……いつもお見合い相手と会っていたんだ……。
 嫉妬する自分の顔を見られたくなくて思わず輝さんに抱きついた。

「ナオ? どうしたんだい?」

 ギュッと抱き返されれば、胸は痛いのに幸せだった。
 なんなんだよ自分……。

 それでも、聞くのは今しかない。
 時間が経つと聞けなくなってしまう。
 意を決して声にした。

「輝さん……お見合い……したんですか?」

 ピタリと動きが止まった。

「どうしてそれを……?」

 輝さんは驚いたけれど、否定しなかった。

「結婚……しちゃうんですか?」
「まだ……わからない……」
「わからないって……結婚する事もあるって事ですよね⁉︎」

 思わず輝さんの体を押した。
 そんなのない!

「ナオ……ちゃんと話をしよう」
「話って……なんですか⁉︎ 結婚するから別れようって話ですか⁉︎」

 そんな話ができるわけない!
 輝さんは、辛そうな顔でこちらを見ていた。
 辛いのは俺の方だ。

「ナオ……」
「俺は……輝さんとずっと一緒にいれないんですか?」
「…………」
「何か言って下さいよ!」

 何も言われないのは不安だ。
 輝さんは、視線を逸らして言葉を選んでいるようだった。
 輝さんの言葉を待つ時間が永遠に思える。

 ジワリと視界が滲んだ。
 やばい……泣きそう……。

「すみません……少し頭を冷やします……」

 輝さんの横を通って玄関へ行って靴を履いた。
 追いかけてきてくれた輝さんに腕を掴まれた。
 引き止めてもらえた事が嬉しいと思うなんて自分は馬鹿だ。

「ナオ! 待ちなさい。こんな時間にどこへ行くんだ?」
「こんな時間まで何をしていたんですか?」
「…………」

 何も言えないなんて……。
 輝さんの手を振り払った。

「ナオ!」

 これ以上顔を見ていられなくて、そのまま家を出た。
 けれど、財布も携帯も持たなくて行くところなんてなかった。
 マンションのエントランスにある椅子に座って考えていた。

 輝さんは、俺とちゃんと話す気があった。
 別れ話をされるのが怖くて逃げ出したのは俺だ……。
 輝さんの手を振り払ってしまった……その手が今更震えてくる。

 涙で滲んでいた視界が更に滲んだ。
 我慢できなくて涙があふれてしまった。
 下を向いて流れる涙を何度も手で拭う。
 一緒に暮らした毎日は幸せしかなかった。
 ふと腕につけていた腕時計に目が行った。
 輝さんと同じ時を刻んでいる腕時計。
 ずっと同じ時を過ごしたい……。

 俺は、輝さんと一緒にいたい……。
 でも、輝さんは違うのか?

「良かった……いた……」

 ふと聞こえた声に顔を上げれば、輝さんだった。
 いつもとは違う少し乱れた髪と服。
 慌てて俺を追いかけて来てくれたんだと思うと嬉しくてまた泣けた。
 俺はこの人が全力で大好きだ。
 立ち上がって輝さんに抱きついた。

「俺は……輝さんがいい……輝さんじゃないとダメです……」
「ナオ……」

 優しく抱き返されれば、それで充分な気がした。

「家へ帰ろう? ナオのいない家は寂しいよ……」
「はい……」

 手を引かれながら家へ帰る間、涙が止まらなかった。

 家に入ってソファに座れば、優しく涙を拭かれる。
 泣いてばかりいてはダメだ。
 そう思って輝さんを見つめた。

「私の話を聞いて欲しい」
「はい……」

 落ち着くように何度も深呼吸をした。
 しっかりと話を聞かないと。

「私は……お見合いをした。それは事実だ」

 ズキズキと胸が痛む。

「でも、それはナオと一緒にいる為だ。これがうまく行けば私は結婚する必要がなくなる」
「はいっ……」

 それなら、お見合いは必要な事だったという事だろうか。
 輝さんも一緒にいたいと思ってくれていた?

「もしもうまくいかなかったら……私は、結婚するつもりだった……」
「っ──!」

 また泣ける……。
 勝手にあふれてくる涙が止まらない。

「けれど……ナオが泣くから……絶対に結婚できなくなったよ……」

 優しく微笑みながら涙を拭かれた。

「私は結婚しない。だから、信じて待っていてくれないか?」

 安心させるように言ってもらえたら、そうしたいと思った。
 結婚しないと言ってくれた輝さんを信じたい。

「はい……信じて……待っています」
「ありがとう……」

 ポンポンと頭を叩かれて、抱き寄せられた。
 涙が落ち着くまで背をさすっていてくれた。

「ナオ……私にして欲しい事はない?」
「触れて……いっぱい触れて欲しいです……」

 言葉だけじゃない……態度でも示して欲しかった。
 そうすれば、きっとこの不安もなくなる。

     ◆◇◆

 ベッドの上で輝さんの手が俺の身体中を撫でる。

「ナオ……」

 何度も名前を呼んでは、色んな所に口付けられてゾクゾクする。

「キスして……」

 輝さんにキスを強請れば、優しく唇を塞がれた。
 口内を確かめるかのような舌に自分の舌を絡める。
 窒息するぐらいのキスを輝さんにする。
 クチュクチュと音が鳴って舌が痺れそうだ。

「ふっ……んん……」

 唇を離せば、お互いの呼吸がはぁはぁと荒い。
 まだ潤む目元に口付けられて、こぼれてしまいそうな涙を吸われた。

「ナオ……」
「輝さん……もっと……いっぱい触って……」

 乳首の輪郭をなぞる様にそっと優しく触れられる。
 焦ったいような感覚にゾワゾワとする。
 俺の体を確認するかのような手つきは、愛おしいと伝えてくれる。

 尻の蕾にもそっと優しく触れた。

「指を入れてもいいかい?」
「はい……」

 中を広げるようにグチュグチュとかき混ぜられる。

「う……んっ……は……あっ……」
「ナオ……可愛いよ……」

 中の気持ちいい所も優しくイジられる。

「あっ……んん……あっ!」

 ゆっくりと快感を引き出す感覚が気持ちいい。
 時々キスされて、好きだと思う気持ちが止まらない。
 輝さんとちゃんと繋がりたい。

「輝さんが欲しい……」
「挿れるよ……」
「はい……」

 抱き合ったまま、ゆっくりと感触を確かめるように輝さんのモノが尻の蕾に差し挿れられる。

「はっ……ああ……」

 輝さんのモノが全部入ったら、輝さんもふぅっと息を吐いた。
 嬉しい……俺はまだ輝さんの腕の中だ……。
 そう思うと、胸がいっぱいだ。

「ナオ……泣かないで……」 

 輝さんは俺の涙を見て、腰を動かす事も忘れて涙を拭う。
 
「安心っ……してしまってっ……」

 自分の中が輝さんでいっぱいになって満たされる。
 慰めるように何度も目元にキスされる。

「傷付けて……すまない……」
「いいんですっ……もっと……輝さんを感じさせて……」
「ナオ……」

 ギューッと抱き締められたら、どんな事も耐えられると思った。
 自分の気持ちも伝わるように、ギューッと抱き締め返した。

 輝さんは、激しく攻め立てる様な事はしなかった。

「はっ……! あっ……あんっ! ……んん……!」

 ゆっくり抽挿を繰り返して、俺の反応を確かめる。

「気持ちいいかい……?」
「あっ……! は、はい……! あっ……あっ……ああっ……!」

 涙でグチャグチャになった顔に何度も何度も口付けられて、キスしながら与えられる快感に酔いしれる。
 輝さんは、俺の奥まで何度も突き挿れた。

「私はナオのそばにいれて幸せなんだ……」
「あっ……おれも……あきらと一緒にいたいっ……」
「私の気持ちを受け取って……」
「はっ……あっ……あきら……! もっと……愛してっ……」
「ナオッ……!」

 お互いを確かめ合う行為を何度も何度も繰り返した。
 俺は、輝さんを信じると決めた。
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