ひたすらイチャラブなふたり

おみなしづき

文字の大きさ
上 下
16 / 19

お見合い

しおりを挟む
 高層ビルに入っているレストランで、お見合い相手と対面していた。
 綺麗なストレートの黒髪を腰まで伸ばし、サイドを編み込んで後ろに上品にまとめている。
 ぱっちりとした二重は、隣に座る父親に似たようだ。

花音かのんさん、本当に素敵なお嬢さんだわ」
織恵おりえさんこそ、若くていらっしゃいますね。ね、お父様」
「本当に。素敵な方だ」
「そんな……」

 花音さんは、オホホッと笑う母と一緒に微笑む。
 花音さんの父である幸造こうぞうさんも、照れたように微笑んだ。

「こんな綺麗な方を、お母様って呼べるようになるのなら嬉しいです」

 そう言いながら、視線を私に寄越す花音さんに自分も微笑んだ。 

「私も幸造さんのような方を父と呼べたら嬉しいですよ」

 母も幸造さんも、オホホッ、アハハッと笑う。

「お父様。私、輝さんと二人で話したいです」
「ああ、そうだな。織恵さん、よろしければ、あちらへ行っていましょうか?」
「そうですわね」

 幸造さんが席を立てば、母も席を立った。

「輝、しっかりやるのよ」
「はい」

 去り際にボソリと呟かれた言葉に心の中でため息をつく。
 二人は離れた席で座り込んだ。
 花音さんと二人きりになったテーブルでホッと息を吐いた。

「ふふっ。お疲れのようですね」
「いえ。花音さんこそ、大丈夫ですか?」
「ええ。二人の時は気を抜いて大丈夫ですからね」
「ありがとう」

 さすが高部の姉だ。
 この人となら、上手くやれそうだ。

「弟がすごく尊敬しているみたいで、どんな方なのか楽しみだったんです。こんな素敵な方で嬉しいですよ」
「私も、高部から聞かされた通りの方で嬉しいです」
「ふふっ。私達、上手くやれそうですね」
「私も今、そう思ってました」

 思わず笑ってしまう。

「こんな茶番に付き合わせてしまって、申し訳ありません」
「気にしないで下さい。うちも誰も結婚してませんから、父からの見合い話はうんざりしていたんです」
「お互い苦労しますね」

 二人で苦笑いし合う。
 花音さんと私は、同じように結婚しろと言われていて気持ちがわかる。

「輝さんとの結婚を前向きに考えているとなれば、父に何も言われなくて丁度いいんです」
「本当にありがとう」

 離れた席にいる母をチラリと見て、上機嫌に笑う姿にほくそ笑んだ。
 帰りの車内でも母は上機嫌だった。

「輝がお見合いするだなんて嬉しいわ」
「相手が花音さんなら文句はないです」
「そう。次は、幸造さんに四人でゴルフでもと誘われたわ。彼は取引先でもあるのだから懇意にした方がいいわね」
「ええ。楽しみにしてますよ……」

     ◆◇◆

 それから少しして、家に帰った玄関先で、先に帰っていた涼に話があると言われた。
 確認すれば、ナオはまだ帰っていないようだ。
 ナオの仕事は時々帰りが遅くなる時がある。今日も残業なんだろう。

「輝。見合いの話、聞いたよ……」

 やっぱりその話だったかとため息をつく。

「事実なのか──?」
「そうだよ」
「は⁉︎ ふざけんな! 何考えてんだ⁉︎」

 涼の厳しい視線を受け止める。
 久しぶりに涼から敵意を向けられた。
 そうなるだろうな……。
 けれど、この見合いは必要だった。

「涼には迷惑をかけない。涼には関係ないよ」
「僕に関係なくても、ナオさんには言うべきだろ!」
「必要ない。──もしも必要になったら私から話す。お前も言うな」

 ナオには知られたくない。
 見合いをするだけでも不安にさせそうなのに……。

「輝はいつもそうなんだ。自分だけで自己完結して、自分だけで満足する……」
「お前にそっくりだろう?」
「だから、ムカつくんだよ! 親の離婚の時だってそうだった! 僕が母の所に行くつもりだった!」
「知ってるよ。私の為に母と出て行こうとしたのだろう? 私もお前の為に母と共に家を出た。涼は、行かなくなって良かっただろ?」

 クスクス笑ってやれば、思い切り睨まれた。

「そうやって、自分一人で背負うなよ!」
「そんなつもりはない。ただ私の方が兄で、お前より先を行ってしまうだけだ」
「まさか──本当に結婚するつもりじゃないよな? また僕の為か?」
「涼には関係ないと言っただろう? それに──私が結婚すれば、涼は結婚しなくてすむ」

 こういう言い方をすると涼は何も言えなくなる。
 ナオがいなくて良かった。こんな話……ナオに聞かせたくない。
 久しぶりに涼と言い合いになってしまった。
 少し感情的になってしまったかな……。

 お見合いをする為に、高部を春樹君で釣ったと知られると面倒臭い。
 涼に邪魔されかねない。

「引っ越し──母の事はもう大丈夫だから、いつでもするといい。いい部屋が見つかったんだろう?」
「…………」
「涼。お前は日比谷だ。お前の母はうちの母じゃない。お前が気にすべきは春樹君だろ? 春樹君の事を一番に考えてあげなさい」
「それで、輝が犠牲になるのか……?」

 悔しそうに私を見る涼を、安心させるように微笑んでやる。

「犠牲? 勘違いしないように。私は今まで犠牲にした物なんてない。母と共に暮らした生活は、孤独ではあったけれど、不自由はなかった。私には丁度良かったんだ。それに、今だって私は諦めていないよ」

 涼は、視線を下に落とした。

「輝なんか結婚でもなんでも勝手にすればいい……でも……色々助かった……」

 面白いお礼の言い方でクスクスと笑ってしまう。

「涼が素直じゃないのは今に始まった事じゃない。頑張りなさい」
「やっぱり大っ嫌いだ……」
「ふふっ。知ってるよ」

 涼は、そのまま自分の部屋に入って行った。
 リビングから様子を窺っていた春樹君は、心配そうにこちらを見ていた。
 話を聞かれてしまったか……こちらに手招いてやる。

「輝さん……」
「何も言わないで……ナオにもね」
「…………」

 視線が『大丈夫ですか?』と問いかけていた。優しい子だ。

「君も涼の事だけ考えてやってくれ」
「はい……」
「涼のことを頼むよ。繊細な男だから……」
「知っています……」
「なら、心配ないね」

 春樹君に涼の部屋に行くように言った。
 涼は春樹君がいれば大丈夫だろう。

 この話をした翌週に、涼と春樹君はマンションを出て行った。
 ナオは、とても残念がっていた。二人を見送った後にため息をつく。

「行っちゃいましたね」
「寂しいかい?」
「少し……でも、俺には輝さんがいますから」

 ギュッと抱きついてくるナオを抱き返してやる。

「ふたりきりなら色々できるようになるね」

 赤くなったナオにクスクスと笑いながらキスをする。

「輝さん……」

 嬉しそうなナオに癒される。
 私はこの生活を手放したくない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罰ゲームって楽しいね♪

あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」 おれ七海 直也(ななみ なおや)は 告白された。 クールでかっこいいと言われている 鈴木 海(すずき かい)に、告白、 さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。 なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの 告白の答えを待つ…。 おれは、わかっていた────これは 罰ゲームだ。 きっと罰ゲームで『男に告白しろ』 とでも言われたのだろう…。 いいよ、なら──楽しんでやろう!! てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ! ひょんなことで海とつき合ったおれ…。 だが、それが…とんでもないことになる。 ────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪ この作品はpixivにも記載されています。

若さまは敵の常勝将軍を妻にしたい

雲丹はち
BL
年下の宿敵に戦場で一目惚れされ、気づいたらお持ち帰りされてた将軍が、一週間の時間をかけて、たっぷり溺愛される話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...