男装の公爵令嬢ドレスを着る

おみなしづき

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カラムのターン

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 カラムはただ遊びに来たわけではないらしく、王子として城へ行ったり、商人としてイザドアの特産品を売りに行ったりと忙しそうだった。
 家にいてもすれ違う毎日だった。

 カラムと過ごす一日は、突然朝から始まった。

「……ル。……アデル。起きろ。ほら、今日は私と一緒に過ごす日だ」

 部屋で起こされて寝ぼけながら瞼を上げれば、カラムは嬉しそうにニコニコしている。

「今日なのか……?」
「そうだ。早く起きろ。アデルと過ごす時間が減っていく。勿体無いぞ」

 可愛らしい言い方にクスクスと笑えば、顔を近付けてくる。
 ガシッとその顔を掴んだ。

「カラム……何をしようとしている?」
「おはようのキスだ」
「父に言われているだろう?」
「アデルが言わなきゃわからない」

 なんて男だ。

「父に言うぞ。キスしたら結婚できないんだ。いいのか?」
「同意ならいいんじゃないのか?」
「私は同意していないぞ」

 カラムは少し考えて両手を広げた。

「なら、抱擁ならいいだろう?」

 キスだけだったか? いいんだろうか?
 悩んでいるうちに布団ごとギュッと抱きつかれた。

「アデル……おはよう」

 まだ体も起こしていないのにマイペースなカラムに笑ってしまった。

     ◆◇◆

「それで、今日は何をするんだ?」

 カラムは、家の執務室を使うと言った。
 いくつかある執務室の中で、本棚に囲まれた部屋を選んだ。

「私の国を知ってもらおうと思っている」

 カラムが合図すれば、従者としてついて来ていた男が、地図や本などを持ってきた。
 作戦会議に使えるような、立ったまま使える執務机にそれを広げて行く。

「イザドアの場所はわかるか?」

 地図を二人で覗き込んだ。

「ここだろう?」

 砂漠に囲まれた中心にあるイザドア王国を指差した。

「そうだ。こんな所でどうして国が成り立つのかわかるか?」

 確かに砂漠に囲まれている国がどうして豊かなんだろうか?
 考え込む私にニヤリと笑う。
 うっ……いちいちカッコよく見えるのはなんでなんだ?

「イザドアには、こんな地図には載っていないオアシスがいくつかあるんだ。その中でも特別なオアシスにはな、そこにしか咲かない花がある。その花から取れる薬がこれだ」

 カラムが机に置いたのは、小瓶に入ったオレンジ色の液体だ。
 オレンジと言っても向こう側は見えるぐらい透明だ。

「これは、あらゆる疾患に効く万能薬として使われている。風邪や腹痛、足や胸の痛みも取り払う。薬の量で効果も変わる」
「知っているぞ。レカテという薬で、とても貴重で高価な薬だ。あまり出回らない薬だな……」
「そうだ。レカテリサルという花から取れるからレカテだ」
「……そんな話を私に聞かせていいのか?」

 これは、国にとって大事な資源になる物ではないのだろうか?
 カラムは、クスクスと笑った。

「特別な花から取れる万能薬は、特別な方法でしか生成できない。それを知るのはイザドアの王家だけだ」
「なるほどな……場所を知って花を取っても作り方がわからなければどうもできないな……でも、なぜ王家だけなんだ?」
「昔、生成方法を王家意外にも伝えた事はあったんだ。すると、王家よりも何倍もの高値で売ろうとしたり、悪事に使う奴が多く現れた……偽物を売る奴もな……」

 いつだって悪いことをする奴ってのはいるものだな……。

「そして、この花はな、万能薬であると共に、毒薬にもなるんだ。作り方は万能薬を作る過程で少しの手を加えるだけなんだ。その方法を悪人に知られ、大量殺戮に使われた事があった……」
「大量殺戮……」
「小瓶一つを井戸に入れたらその街が滅んだ……」

 カラムは、厳しい顔で小瓶をチョンッと突いた。
 小瓶の中のオレンジ色の液体がユラユラと揺れた。
 こんな小瓶一つでそんな事になるなんて……。

「だから、この薬を王家が管理するという方法を取ることにしたんだ」
「なるほど……そうした方がいい……」
「──でもな、花を取ろうとする盗賊は後を絶たない。作り方もわからないのに、取るだけ取って無駄にされては、何にもならないだろう? そのせいで、花の数が減ってしまうのも事実……だから余計に貴重で高値になってしまう」
「そうだな……薬にするならまだしも、荒らすだけではこの薬を待っている人達にとって致命的だ」

 盗賊にとってはそんな事は関係ないんだろう……。

「私は、イザドアの王子であると共に、そのオアシスを守る警備団の団長でもある。アデルが私の妃になったら一緒にオアシスを守って欲しいんだ。イザドアだけではない。この薬を待つ全ての人々の為に──」

 カラムの話にゾクリとした。
 こんなにやり甲斐がありそうな話はない。
 自分が必要とされるのは嬉しい事この上にない。

「これが、私と結婚して提示できるものだ」
「わかった……ありがとう」

 ジッとカラムを見つめれば、鷹の目をしたカラムの視線に絡め取られるような感覚が心地良かった。 

「アデル、覚えているか? 私と一緒に踊った日を」
「ああ……勝手に髪を解いて失礼な人だと思った」
「もう一度……私と踊ってくれ……」

 切なく見つめられれば、キュゥンッと胸が鳴った。
 今思えば、カラムは最初から私を女性として見てくれていた。
 差し出された手に自分の手を重ねたらドキドキとする。
 ゆっくりとステップを踏むカラムに合わせて踊ってみる。

「私はアデルを幸せにしてやる自信がある。お得だぞ? ほら、結婚しよう」

 真剣な瞳をしたかと思えば、戯けたような会話もする。
 思わず笑ってしまうのは、カラム特有の雰囲気だ。

 一曲踊ってからカラムは、まだイザドアに行った事のない私に沢山の絵を見せてくれてた。
 イザドアに行くという選択がとても魅力的に思えた。
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