38 / 39
魔族の恋人
魔族の恋人
しおりを挟む
魔族の恋人って何をするのか?
勇者と戦ったりするのかとか考えた事もあったけれど、俺にそんな事はできない。
魔物だって倒せないし、人間にも魔族にもなれない。
じゃあ何ができるのかって言われたら、あまり出来ることはないのかもしれない。
◆◇◆
「おはようございます」
ガチャリとユルが、寝室を開けた音で目を覚ました。
「おやおや……この部屋は甘い香りでいっぱいですね。さすがの私もクラクラします」
ユルが近くの窓を開ける。
「おかげで……夢中で抱き潰してしまった……」
ラヴィアスは、起きていたようで上半身を起こしてユルに返事をした。
そっと髪を撫でられた。
俺もシーツを手繰り寄せて体を起こした。
「起きたのか?」
「うん……」
「仕事なんだが、お前は寝ていればいい」
チュッと頬にキスされて照れる。
俺だけ寝てるなんてできない。
「俺も手伝うよ」
「そうか。ゆっくり用意すればいい。無理するなよ」
ラヴィアスは、ベッドから降りると寝室から出ていく。
「この香りは、魔族には辛いですね。リディオ、先にお風呂へ行って流してきなさい」
他の窓を開けながらユルに言われた。
「わかった」
どうにか立ち上がれたけれど、足に力が入らなくてカタツムリみたいにゆっくりと歩く。
お風呂に入っている間にシャールちゃんがきて、着替えさせてくれた。
「リディオ、今日も美人ですね」
いつもの挨拶に嬉しくなる。
そのうちに、部屋がノックされて、入ってきたのはユシリスだった。
「ユシリス!」
久しぶりに顔を見たので嬉しくなって抱き着く。
「ぴゃっ!」
え? 今の声ユシリス?
ユシリスの耳と尻尾がピンッと尖っていた。
「お、おい……お前……香りが少し強くなってないか? ラヴィアス様の香りがしなきゃ……ヤバい……」
「ユルもそんな事言ってた……お風呂に入ったのに俺の香りがするの?」
「すぐになくなると思うけど、俺ら獣人は鼻がいいからな……。今はちょっと……離れてくれ……」
仕方なくユシリスから離れるとホッと息を吐かれる。
「執務室に行くんだろ? 俺が連れてってやる」
ユシリスと一緒に廊下を歩いていれば、フォウレが来て尻尾を揺らす。
「リディオ。待っていたんだ。僕の所でお茶してかない?」
俺のことを待ち伏せしていたらしい。
変なナンパみたいだ。
フォウレに答えたのはユシリスだった。
「するわけないだろ。リディオはこれからラヴィアス様の所に行くんだ」
「なぁんだ。残念。その香り、もっと嗅がせて欲しかったのに……」
そんなに珍しい香りがするんだろうか……自分じゃわからないからちょっと嫌だ。
「リディオ、フォウレの部屋に行く時は一人で行くなよ」
「やだなぁ。僕がリディオを襲うとでも? ラヴィアス様の香りを無視するわけないでしょ」
「どうだかな」
小馬鹿にしたように笑うユシリスにフォウレは不敵に笑った。
「ふふふっ。ユシリスはむっつりだから、そういう考えしかできないんだよね」
「誰がむっつりだ!」
相変わらずの二人にクスクスと笑ってしまう。
「リディオ、フォウレなんかほっといて行くぞ」
フォウレにまたねと言って手を振り合って、足を進めるユシリスについていく。
執務室に入れば、ユルが微笑んでくれた。
「今日は、ミロがリディオにご馳走を作るそうですよ」
「どうして?」
「ラヴィアス様の香りをこんなにさせているのですから、リディオはラヴィアス様のものになったんだと我々は大喜びだからです」
したって事みんなにバレバレって事?
恥ずかしすぎる。
執務室で仕事を手伝っていれば、ドアが開いた。やってきたのはラムカだ。
「リディオ! いちごが好きだって聞いたぞ。買ってきたんだ。俺と食べよう」
思わずラヴィアスを振り返る。
「だめだ……」
がっかりした顔をすれば、ユルが頭を撫でてくれる。
「ラヴィアス様、心が狭いですよ」
ラムカも頷いている。
「そうだそうだ。リディオを自分のものにしたんだろ? こんなに強くラヴィアスの香りをさせて、一体何回したんだよ。恋人なら余裕ぐらい見せて欲しいね」
ラヴィアスの顔が引きつる。
俺も恥ずかしい……。
「ラヴィアス……ダメ?」
いちご……食べたい。
ラヴィアスが眉間に皺を寄せて呟いた。
「ここに持ってこい……」
ラヴィアスがそう言えば、ユルがため息をつく。
「ラムカ様、今回はこちらに持って来て下さい。ラヴィアス様が譲歩できるギリギリみたいです。ラヴィアス様はリディオが側にいないとダメなんです」
「しょうがねぇ野郎だな」
みんなでラムカのイチゴを食べていれば、バタンッと扉が開いてやってきたのはルーズベルトお兄様だった。
「父上がリディオと会ったと聞いた。私も会いに来たぞ」
「お兄様!」
駆け寄れば、ギュッと抱きしめられる。
お兄様には香りとか関係ないらしい。
「ほら、プレゼントだ。お前に見せようと思っていたものだ」
「何?」
「人間界で見つけた腕輪だ」
お兄様は、俺の腕に腕輪をつけてくれた。
その腕輪には、綺麗な紋様がしてあって、黒い石が嵌めてあった。
「お前の瞳と同じ色だろ?」
「ありがとう! 大事にするね」
嬉しくてニコニコしていれば、そこにいた全員の視線がラヴィアスに行く。
「お前は……何かプレゼントをした事がないのか?」
ルーズベルトお兄様がラヴィアスに言う。
「ラヴィアスって釣った魚に餌はやらないってやつか?」
ラムカがじっとりとラヴィアスを睨む。
「そういえば、あんな風にプレゼントを買ってあげた事はありませんね」
ユルがため息をつく。
「うるさい……!」
みんなに責められて、執務室にラヴィアスの声が響いて笑ってしまった。
◆◇◆
寝る準備をして、二人でベッドに横になる。
抱き合えば、キスしてくれる。
「あいつら……」
「色んなこと言われてたね」
昼間のことを思い出してクスクスと笑う。
「リディオはあいつらに愛されすぎだ……」
「俺は人間なのに、みんな優しいよね」
大切にされていると良くわかる。
「私が一番愛しているからな」
「うん……」
キスが深くなる。
そのまま肌に手を這わされた。
◆◇◆
魔族の恋人って何をするのか?
俺が出来ることは、普通に恋して、愛している人のそばにいるだけだった。
人を好きになるのは、魔族だって人間だって関係ない。
「リディオ、来い」
「ラヴィアス!」
俺はいつだって彼の隣にいる。
勇者と戦ったりするのかとか考えた事もあったけれど、俺にそんな事はできない。
魔物だって倒せないし、人間にも魔族にもなれない。
じゃあ何ができるのかって言われたら、あまり出来ることはないのかもしれない。
◆◇◆
「おはようございます」
ガチャリとユルが、寝室を開けた音で目を覚ました。
「おやおや……この部屋は甘い香りでいっぱいですね。さすがの私もクラクラします」
ユルが近くの窓を開ける。
「おかげで……夢中で抱き潰してしまった……」
ラヴィアスは、起きていたようで上半身を起こしてユルに返事をした。
そっと髪を撫でられた。
俺もシーツを手繰り寄せて体を起こした。
「起きたのか?」
「うん……」
「仕事なんだが、お前は寝ていればいい」
チュッと頬にキスされて照れる。
俺だけ寝てるなんてできない。
「俺も手伝うよ」
「そうか。ゆっくり用意すればいい。無理するなよ」
ラヴィアスは、ベッドから降りると寝室から出ていく。
「この香りは、魔族には辛いですね。リディオ、先にお風呂へ行って流してきなさい」
他の窓を開けながらユルに言われた。
「わかった」
どうにか立ち上がれたけれど、足に力が入らなくてカタツムリみたいにゆっくりと歩く。
お風呂に入っている間にシャールちゃんがきて、着替えさせてくれた。
「リディオ、今日も美人ですね」
いつもの挨拶に嬉しくなる。
そのうちに、部屋がノックされて、入ってきたのはユシリスだった。
「ユシリス!」
久しぶりに顔を見たので嬉しくなって抱き着く。
「ぴゃっ!」
え? 今の声ユシリス?
ユシリスの耳と尻尾がピンッと尖っていた。
「お、おい……お前……香りが少し強くなってないか? ラヴィアス様の香りがしなきゃ……ヤバい……」
「ユルもそんな事言ってた……お風呂に入ったのに俺の香りがするの?」
「すぐになくなると思うけど、俺ら獣人は鼻がいいからな……。今はちょっと……離れてくれ……」
仕方なくユシリスから離れるとホッと息を吐かれる。
「執務室に行くんだろ? 俺が連れてってやる」
ユシリスと一緒に廊下を歩いていれば、フォウレが来て尻尾を揺らす。
「リディオ。待っていたんだ。僕の所でお茶してかない?」
俺のことを待ち伏せしていたらしい。
変なナンパみたいだ。
フォウレに答えたのはユシリスだった。
「するわけないだろ。リディオはこれからラヴィアス様の所に行くんだ」
「なぁんだ。残念。その香り、もっと嗅がせて欲しかったのに……」
そんなに珍しい香りがするんだろうか……自分じゃわからないからちょっと嫌だ。
「リディオ、フォウレの部屋に行く時は一人で行くなよ」
「やだなぁ。僕がリディオを襲うとでも? ラヴィアス様の香りを無視するわけないでしょ」
「どうだかな」
小馬鹿にしたように笑うユシリスにフォウレは不敵に笑った。
「ふふふっ。ユシリスはむっつりだから、そういう考えしかできないんだよね」
「誰がむっつりだ!」
相変わらずの二人にクスクスと笑ってしまう。
「リディオ、フォウレなんかほっといて行くぞ」
フォウレにまたねと言って手を振り合って、足を進めるユシリスについていく。
執務室に入れば、ユルが微笑んでくれた。
「今日は、ミロがリディオにご馳走を作るそうですよ」
「どうして?」
「ラヴィアス様の香りをこんなにさせているのですから、リディオはラヴィアス様のものになったんだと我々は大喜びだからです」
したって事みんなにバレバレって事?
恥ずかしすぎる。
執務室で仕事を手伝っていれば、ドアが開いた。やってきたのはラムカだ。
「リディオ! いちごが好きだって聞いたぞ。買ってきたんだ。俺と食べよう」
思わずラヴィアスを振り返る。
「だめだ……」
がっかりした顔をすれば、ユルが頭を撫でてくれる。
「ラヴィアス様、心が狭いですよ」
ラムカも頷いている。
「そうだそうだ。リディオを自分のものにしたんだろ? こんなに強くラヴィアスの香りをさせて、一体何回したんだよ。恋人なら余裕ぐらい見せて欲しいね」
ラヴィアスの顔が引きつる。
俺も恥ずかしい……。
「ラヴィアス……ダメ?」
いちご……食べたい。
ラヴィアスが眉間に皺を寄せて呟いた。
「ここに持ってこい……」
ラヴィアスがそう言えば、ユルがため息をつく。
「ラムカ様、今回はこちらに持って来て下さい。ラヴィアス様が譲歩できるギリギリみたいです。ラヴィアス様はリディオが側にいないとダメなんです」
「しょうがねぇ野郎だな」
みんなでラムカのイチゴを食べていれば、バタンッと扉が開いてやってきたのはルーズベルトお兄様だった。
「父上がリディオと会ったと聞いた。私も会いに来たぞ」
「お兄様!」
駆け寄れば、ギュッと抱きしめられる。
お兄様には香りとか関係ないらしい。
「ほら、プレゼントだ。お前に見せようと思っていたものだ」
「何?」
「人間界で見つけた腕輪だ」
お兄様は、俺の腕に腕輪をつけてくれた。
その腕輪には、綺麗な紋様がしてあって、黒い石が嵌めてあった。
「お前の瞳と同じ色だろ?」
「ありがとう! 大事にするね」
嬉しくてニコニコしていれば、そこにいた全員の視線がラヴィアスに行く。
「お前は……何かプレゼントをした事がないのか?」
ルーズベルトお兄様がラヴィアスに言う。
「ラヴィアスって釣った魚に餌はやらないってやつか?」
ラムカがじっとりとラヴィアスを睨む。
「そういえば、あんな風にプレゼントを買ってあげた事はありませんね」
ユルがため息をつく。
「うるさい……!」
みんなに責められて、執務室にラヴィアスの声が響いて笑ってしまった。
◆◇◆
寝る準備をして、二人でベッドに横になる。
抱き合えば、キスしてくれる。
「あいつら……」
「色んなこと言われてたね」
昼間のことを思い出してクスクスと笑う。
「リディオはあいつらに愛されすぎだ……」
「俺は人間なのに、みんな優しいよね」
大切にされていると良くわかる。
「私が一番愛しているからな」
「うん……」
キスが深くなる。
そのまま肌に手を這わされた。
◆◇◆
魔族の恋人って何をするのか?
俺が出来ることは、普通に恋して、愛している人のそばにいるだけだった。
人を好きになるのは、魔族だって人間だって関係ない。
「リディオ、来い」
「ラヴィアス!」
俺はいつだって彼の隣にいる。
10
お気に入りに追加
488
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
独占欲強い系の同居人
狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。
その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。
同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる