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魔族の恋人

魔族の恋人

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 魔族の恋人って何をするのか?

 勇者と戦ったりするのかとか考えた事もあったけれど、俺にそんな事はできない。
 魔物だって倒せないし、人間にも魔族にもなれない。
 じゃあ何ができるのかって言われたら、あまり出来ることはないのかもしれない。

     ◆◇◆

「おはようございます」

 ガチャリとユルが、寝室を開けた音で目を覚ました。

「おやおや……この部屋は甘い香りでいっぱいですね。さすがの私もクラクラします」

 ユルが近くの窓を開ける。

「おかげで……夢中で抱き潰してしまった……」

 ラヴィアスは、起きていたようで上半身を起こしてユルに返事をした。
 そっと髪を撫でられた。
 
 俺もシーツを手繰り寄せて体を起こした。

「起きたのか?」
「うん……」
「仕事なんだが、お前は寝ていればいい」

 チュッと頬にキスされて照れる。
 俺だけ寝てるなんてできない。

「俺も手伝うよ」
「そうか。ゆっくり用意すればいい。無理するなよ」

 ラヴィアスは、ベッドから降りると寝室から出ていく。

「この香りは、魔族には辛いですね。リディオ、先にお風呂へ行って流してきなさい」

 他の窓を開けながらユルに言われた。

「わかった」

 どうにか立ち上がれたけれど、足に力が入らなくてカタツムリみたいにゆっくりと歩く。
 お風呂に入っている間にシャールちゃんがきて、着替えさせてくれた。

「リディオ、今日も美人ですね」

 いつもの挨拶に嬉しくなる。
 そのうちに、部屋がノックされて、入ってきたのはユシリスだった。

「ユシリス!」

 久しぶりに顔を見たので嬉しくなって抱き着く。

「ぴゃっ!」

 え? 今の声ユシリス?
 ユシリスの耳と尻尾がピンッと尖っていた。

「お、おい……お前……香りが少し強くなってないか? ラヴィアス様の香りがしなきゃ……ヤバい……」
「ユルもそんな事言ってた……お風呂に入ったのに俺の香りがするの?」
「すぐになくなると思うけど、俺ら獣人は鼻がいいからな……。今はちょっと……離れてくれ……」

 仕方なくユシリスから離れるとホッと息を吐かれる。

「執務室に行くんだろ? 俺が連れてってやる」

 ユシリスと一緒に廊下を歩いていれば、フォウレが来て尻尾を揺らす。

「リディオ。待っていたんだ。僕の所でお茶してかない?」

 俺のことを待ち伏せしていたらしい。
 変なナンパみたいだ。
 フォウレに答えたのはユシリスだった。

「するわけないだろ。リディオはこれからラヴィアス様の所に行くんだ」
「なぁんだ。残念。その香り、もっと嗅がせて欲しかったのに……」

 そんなに珍しい香りがするんだろうか……自分じゃわからないからちょっと嫌だ。

「リディオ、フォウレの部屋に行く時は一人で行くなよ」
「やだなぁ。僕がリディオを襲うとでも? ラヴィアス様の香りを無視するわけないでしょ」
「どうだかな」

 小馬鹿にしたように笑うユシリスにフォウレは不敵に笑った。

「ふふふっ。ユシリスはむっつりだから、そういう考えしかできないんだよね」
「誰がむっつりだ!」

 相変わらずの二人にクスクスと笑ってしまう。

「リディオ、フォウレなんかほっといて行くぞ」

 フォウレにまたねと言って手を振り合って、足を進めるユシリスについていく。

 執務室に入れば、ユルが微笑んでくれた。

「今日は、ミロがリディオにご馳走を作るそうですよ」
「どうして?」
「ラヴィアス様の香りをこんなにさせているのですから、リディオはラヴィアス様のものになったんだと我々は大喜びだからです」

 したって事みんなにバレバレって事?
 恥ずかしすぎる。

 執務室で仕事を手伝っていれば、ドアが開いた。やってきたのはラムカだ。

「リディオ! いちごが好きだって聞いたぞ。買ってきたんだ。俺と食べよう」

 思わずラヴィアスを振り返る。

「だめだ……」

 がっかりした顔をすれば、ユルが頭を撫でてくれる。

「ラヴィアス様、心が狭いですよ」

 ラムカも頷いている。

「そうだそうだ。リディオを自分のものにしたんだろ? こんなに強くラヴィアスの香りをさせて、一体何回したんだよ。恋人なら余裕ぐらい見せて欲しいね」

 ラヴィアスの顔が引きつる。
 俺も恥ずかしい……。

「ラヴィアス……ダメ?」

 いちご……食べたい。
 ラヴィアスが眉間に皺を寄せて呟いた。

「ここに持ってこい……」

 ラヴィアスがそう言えば、ユルがため息をつく。

「ラムカ様、今回はこちらに持って来て下さい。ラヴィアス様が譲歩できるギリギリみたいです。ラヴィアス様はリディオが側にいないとダメなんです」
「しょうがねぇ野郎だな」

 みんなでラムカのイチゴを食べていれば、バタンッと扉が開いてやってきたのはルーズベルトお兄様だった。

「父上がリディオと会ったと聞いた。私も会いに来たぞ」
「お兄様!」

 駆け寄れば、ギュッと抱きしめられる。
 お兄様には香りとか関係ないらしい。

「ほら、プレゼントだ。お前に見せようと思っていたものだ」
「何?」
「人間界で見つけた腕輪だ」

 お兄様は、俺の腕に腕輪をつけてくれた。
 その腕輪には、綺麗な紋様がしてあって、黒い石が嵌めてあった。

「お前の瞳と同じ色だろ?」
「ありがとう! 大事にするね」

 嬉しくてニコニコしていれば、そこにいた全員の視線がラヴィアスに行く。

「お前は……何かプレゼントをした事がないのか?」

 ルーズベルトお兄様がラヴィアスに言う。

「ラヴィアスって釣った魚に餌はやらないってやつか?」

 ラムカがじっとりとラヴィアスを睨む。

「そういえば、あんな風にプレゼントを買ってあげた事はありませんね」

 ユルがため息をつく。

「うるさい……!」

 みんなに責められて、執務室にラヴィアスの声が響いて笑ってしまった。

     ◆◇◆

 寝る準備をして、二人でベッドに横になる。
 抱き合えば、キスしてくれる。

「あいつら……」
「色んなこと言われてたね」

 昼間のことを思い出してクスクスと笑う。

「リディオはあいつらに愛されすぎだ……」
「俺は人間なのに、みんな優しいよね」

 大切にされていると良くわかる。

「私が一番愛しているからな」
「うん……」

 キスが深くなる。
 そのまま肌に手を這わされた。

     ◆◇◆

 魔族の恋人って何をするのか?

 俺が出来ることは、普通に恋して、愛している人のそばにいるだけだった。
 人を好きになるのは、魔族だって人間だって関係ない。

「リディオ、来い」
「ラヴィアス!」

 俺はいつだって彼の隣にいる。
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