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魔族の恋人

魅力的なお誘い

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 布団の中で横になってウトウトしていれば、布団に誰かが入ってくる気配がした。
 夜に布団に入ってくるなんて、ラヴィアス以外にいない。

「ラヴィアス……」

 スリッと擦り寄ったら、クスクスと笑われた。

「お前って小動物みたいだな」

 ギュッと抱きしめられてハッと目を開ければ、さっきの無神経な人だった。
 上半身裸じゃないか。鍛えられた逞しい体にちょっと照れる。

「なんで布団に入ってきているんですか……出てって下さい」
「いいだろ? どこで寝たって同じさ」
「服を着て下さい」
「無いんだからしょうがないだろ?」

 だからって裸で布団に入ってくるなんて信じられない。
 じっとりと睨んで離せと訴える。

「お前、一人なんだろ? 俺が側にいてやるよ」

 微笑みながらそんな事を言われてキョトンとしてしまう。

「なんで……?」
「一人より二人の方が寂しくない。違うか?」

 俺の気持ちを見透かすような事を言われてグッと口籠る。

「ほら、寝るだけだからさっさと寝ろ。──♪~」

 子守唄を歌い出した。優しい歌声に段々と眠くなってくる。
 この人の声、なんでこんなに優しいんだろう……。
 誰かが隣にいるというだけで、その温もりが心地いい。
 眠気がやってきて目が閉じていく。

 出てってくれとか、服を着ろとか言いつつも、俺はいつの間にか寝入ってしまった。

     ◆◇◆

 パッと目を覚ませば、昨日の人が目の前にいた……。
 スヤスヤと寝ているようだ。
 俺をそっと抱きしめるように寝ていて気まずい。
 子供のように子守唄で寝かされてしまった。

「ねぇ、ねぇってば」

 ベッドから出てって貰おうと揺すったけれど、余計に抱きしめられて動きを止められた。

「俺ぇ~、朝はよぇのぉ……目が覚めるまでぇ……もう少し待ってぇ~……」

 少し掠れた声で囁かれる。

「出てってよ……」

 クスクスと笑われた。

「まだ言ってんのぉ~?」
「だって……」

 ゆっくりと目が開いて青色の綺麗な瞳と目が合った。

「その瞳……サファイアみたいだ」
「──髪は? 俺の髪はどう思う?」
「スミレとか、キキョウみたいな色してる。それか……ラベンダー!」
「なんだそりゃ?」

 魔族って花を知らないんだった。

「どれも可愛くて、綺麗な花だよ」
「花だって? 人間界にあるやつか?」
「そう。ラベンダーなんてとてもいい香りがするんだ」
「可愛くて綺麗で……いい香りのする……花……」

 ボソボソと繰り返している。

「それで……お前はその花ってのが……好きなわけ?」
「好きだよ」
「そ、そうか……! 好きか……」

 照れたようにへへへっと笑う顔は可愛かった。

「お前、名前は?」
「リディオ」
「俺はな、ラムカだ。よろしくな」
「よろしく」

 って、なぜだか仲良くなってない?

「おっと。そろそろ時間かな」

 ラムカは、パッと起き出して脱いでいた服を着込む。

「じゃあな! また来てやるよ!」

 そう言って手を振って部屋を出て行った。
 なんだよ……あの人。本当にマイペース……。

     ◆◇◆

 そして、言葉通りにまたやって来た。
 昼下がりにソファで読書をしている所だった。
 堂々と扉から入ってきたけれど、誰もいないからしょうがない。

「よぉ! 待ってたか?」

 そう言いながらドカリと隣に座ってきた。
 読書を中断して本を閉じる。

「全然待ってない……」

 そう言いながら、本当は少し待っていたかもしれない。
 俺も一人でいるよりは話し相手がいてくれる方がいい。
 いつもは誰かしら側にいてくれるけれど、今は忙しいから……。

「リディオはさ、ラヴィアスのペットだろ?」
「ぺ、ペット⁉︎」

 そんな事を言われてびっくりした。

「そう。魔界の王子様が飼っている人間のペット」

 そんな風に認識されているのね……。

「そんな事ない……俺は恋人……のはず……」

 自分で言っていて自信がなくなってくる。
 そう思っていていいんだよね?

「恋人ねぇ……その恋人は、このイベントの事知っているわけ? お前はどう思ってんの?」
「イベントって……何?」

 何かある事はわかっている。
 魔族達がラヴィアスの為に集まっている。
 みんなその人達をもてなす為に忙しいんだ。

「やっぱり知らないんだな……教えて欲しい?」

 知りたいような……知りたくないような……。
 なんとなくわかるような……。
 今、俺は変な顔をしていると思う。

「そうだ! 教えてやるからさ、ラヴィアスじゃなくて俺のペットになれよ」
「は⁉︎ やだよ! それなら教えなくていい!」

 全力で否定すれば、はははっと笑いながら楽しそうだ。

「そりゃ残念だ。俺はお前と一緒にいる方が面白いんだけどな」
「そう……」

 揶揄われているな……。

「なぁ、リディオ。俺と一緒に外に出ないか? 人間界に行こう」
「え? なんで?」
「スミレやキキョウやラベンダー? その花ってやつを見てみたいんだ」

 子供みたいにキラキラと目を輝かせている。
 そんなに自分の髪の色と同じ花が見たいのだろうか?

「俺は部屋の外に出るなって言われてる……」
「城の中を出歩くわけじゃない。それに俺も一緒だ。一人じゃない」

 ど、どうしよう……。
 部屋から出られるなんて思っていなかったから戸惑う。
 ラムカと一緒なら平気かな……。

「でも、この髪じゃ無理だよ。髪の色を変える薬はフォウレの所だ」
「それなら、お前はフードを被って行けばいい。そういう服、あるだろ? 行くのは花屋だけで店が閉まるギリギリに行こう。夜になれば髪の色も闇に紛れる」
「大丈夫かな……?」
「大丈夫さ! ごちゃごちゃ考えるなって。お前はどうしたい?」

 行けるなら行きたい。
 人間界に花を見に行くだけ……。
 どうせ誰もこの部屋に来ない。夜のうちに帰って来ればバレないよな。

「行きたい……」
「よし! そうと決まれば、今のうちに寝ておこうぜ」

 そう言いながら、ベッドにゴロリと横になってしまった。
 ラムカの家みたいだね……。

「ほら、リディオも来いよ。夜の為に一緒に昼寝しよう」

 ポンポンと自分の隣を叩いてお昼寝に誘われた。
 やっぱりマイペースな人だ。
 でも、夜が楽しみになってしまって、ラムカの横に寝転んだ。
 そっと抱き寄せられても嫌じゃなかった。
 ユシリス達のようにラムカにも慣れてきていた。

 二人で起き出したのは、夕食の時間の少し前だった。

「さぁて、俺も飯に行ってくるから、食べたらここに来るからな」
「うん」
「またな」

 ポンポンと頭を叩いてから部屋を出て行ってしまった。
 本当に来るのかな?
 少し不安だけれど、部屋から出られる事にワクワクしていた。
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