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魔族の恋人
ユルの苦労再び ユル視点
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人間界で買い物をして、国境から城に向かって飛んだ。
おや? 城の周りに黒い雲が……。
あれだけリディオと見せつけておいて不機嫌だとは……どういう事だ……。
リディオのバルコニーから城に入った。
「ただいま戻りました」
「ユル、お帰りなさい」
リディオが笑顔で出迎えてくれた。
フワリとラヴィアス様の香りがするのに予想より薄い。
これは……致していないな……。
「髪の色、戻りましたね」
「うん」
「やはりリディオは黒髪の方がいいですね」
「ラヴィアスもそう言ってくれた……」
えへへと照れるリディオが可愛い。
これを目の前にして致していない……だと?
「それで……ラヴィアス様は?」
「向こうのベッドの横」
ベッドの横へ足を進めれば、仁王立ちのラヴィアス様の前に正座をする側近と医者を発見する。
二人の耳も尻尾も垂れ下がっている。
「お前らは鼻が良いはずだ! リディオの部屋に私がいるとわかるだろう!」
「いるとわかっても、してるとまではわかりません……扉が閉まっていたらわからない事もあります」
「そうです。私はリディオに会いにきたのであって、ラヴィアス様の都合なんて関係ありません」
この二人……素直に「はい」と言えば良いものを……外がゴロゴロ言ってるじゃないか……。
「リディオ……この状況はどうしたのですか?」
「その……しようとした時に二人が部屋に来ちゃって……」
真っ赤になって恥ずかしがりながらそんな説明をする。
くっそ可愛いなリディオ。
こんなリディオを目の前にして邪魔されたんじゃ、あの眉間の皺も頷ける。
けれど、そろそろ夕食の時間になる。
このままでは、リディオがお腹を空かせる事になりかねない。
「ラヴィアス様、もうその辺にしてあげたらどうでしょう?」
「は?」
ギロリと睨まれた。
困ったもんだ。
仕方ない……ここはリディオに頼みましょう。
リディオにそっと耳打ちする。
(ラヴィアス様の背後から抱きついて、ユシリス達を許すように言えばいちごをあげます)
コクリと頷いたリディオは、ラヴィアス様の背後へ行き、そのままギュッと抱きついた。
ラヴィアス様は、リディオの手を握って振り返る。
「リディオ、どうした?」
「ラヴィアス、もういいでしょ? 二人を許してあげて?」
「私がどれだけ待ったと思っているんだ……」
「楽しみが延びただけだよ」
テヘッと笑ったリディオがラヴィアス様の心臓を撃ち抜く。
この子ったら、いつの間にこんなテクを身に付けたのか……。
「そ、そうだな……」
城の外の雲がなくなった。
ホッと息を吐いて、イチャつく二人を遠い目で見つめる。
「ユシリスもフォウレも立ちなさい」
「いてて……足が痺れる……」
「鬼みたいだったね……」
反省しているのかいないのか……。
まぁ、本気で怒ったラヴィアス様はこんなものじゃないと知っているから反論もできるのですけどね。
「ラヴィアス様の邪魔をするとはなんたる事ですか」
「俺は好きで邪魔したんじゃねぇ!」
「独り占めは良くないと思わない? ユルだってリディオとしたいでしょ?」
横目でリディオを見る。
いつ見ても可愛い。
子供の頃からずっと可愛かった。
「したいかしたくないかと言われたら、ぶっちゃけしたいですとも!」
「開き直った……」
ユシリスが呆れた眼差しを向けてくる。
「私は淫魔です。性には自由でありたい……」
そう! このくそ忙しい中でも、私の活力は性そのもの! すればするほど元気になる。
最近なんて──おっと、私の話は置いておきましょう。
「とにかく、今後はラヴィアス様がリディオの部屋にいる時は、気をつけるように」
「「はーい」」
◆◇◆
夕食が終わって、ラヴィアス様は自分の部屋に一度戻ると言うので廊下を一緒に歩く。
ラヴィアス様にフォウレ特製の薬を渡す。小瓶に入っている小さな丸い錠剤だ。
「ラヴィアス様、これは用意していたのですか?」
「…………」
ラヴィアス様に眉間の皺が。やっぱり。
「ラヴィアス様の場合、男性の時はいつも相手が飲んできていますからね。リディオ相手だと理性飛んでましたもんね。そこまで考えられなかったのも無理はありません。それなら、途中で止められたのは正解だったかもしれませんね」
一気に言ってやり、ニッコリ笑顔を向ければ、気まずそうに視線を逸らす。
「興奮すると後ろが濡れる薬は、男性相手には必要でしょう? それ、特別製なので、一個飲ませば1日保ちますよ」
「フォウレのだろ? 香りが変わったりは?」
「私が使っても相手に使っても大丈夫でしたよ」
「それなら使う……」
髪の色が変わる薬でリディオの香りが変わったのが余程気に入らなかったらしい。
そもそもあの時、ラヴィアス様が拗ねてしまったからリディオを連れてかれた。
『ラヴィアス様、リディオが可哀想です。手ぐらい繋いであげたらどうですか? 迷子にでもなったら大変です』
『無理だ……』
『なら、私が手を繋いで歩きますよ!』
『ダメだ』
『だったら、ラヴィアス様が隣にいてやらないと!』
人に触れられたくないくせに、自分で近付けないなんて。
『ラヴィアス様は、リディオをどうしたいのです⁉︎』
『…………』
『そんな態度でしたら、私がもらいます』
『ふざけるな』
ふざけてなんかいない。リディオを大切に思っているのはラヴィアス様だけではない。
そんな風に睨むくせに素直じゃない。
『リディオだってもう子供じゃありません。ラヴィアス様は、リディオを傷付けたくないと言いながら、自分が傷付くのが怖いんですよ』
『…………』
そんな悔しそうな顔をするなら、さっさと手に入れるべきだ。
どこからどう見てもリディオはラヴィアス様が好きだ。
体も成長して、今なら受け入れてもらえるのに余計に距離を取ろうとする。
隣にいる私が一番もどかしい。
リディオもさぞ、悲しい顔を──そっと振り返れば……いなかった。
ラヴィアス様は、香りがしないからと前を歩いていたけれど、リディオに前を歩かせるべきだった……。
『ラヴィアス様……リディオがいません……』
『っ⁉︎』
慌てて背後を振り返ったラヴィアス様は、歩いてきた道を戻る。
そんなに必死に捜すなら、最初から手を繋いでおけば良いものを……。
その後はすぐにユシリスを呼んで香りを辿ってもらった。
人間の香りは薄い。その中でフォウレの香りを辿るのはそれほど難しくはなかったようだ。
ラヴィアス様は、リディオを捜すその間もずっと苦しそうな顔をしていた。
見つけた時に思わず抱きついてからは、もう離さなかった。
「ちなみに今日の分は夕食の時に飲ませました。リディオにちゃんと説明しましたけど、真っ赤になりながら自分で飲んでいたので良かったですね。あっ──」
ラヴィアス様は廊下を歩いている途中で、目の前で開けられた扉にぶつかった。普段ならそんなのは避けられるのに、注意力が散漫になるほど嬉しかったのかと思わず笑ってしまった。
おや? 城の周りに黒い雲が……。
あれだけリディオと見せつけておいて不機嫌だとは……どういう事だ……。
リディオのバルコニーから城に入った。
「ただいま戻りました」
「ユル、お帰りなさい」
リディオが笑顔で出迎えてくれた。
フワリとラヴィアス様の香りがするのに予想より薄い。
これは……致していないな……。
「髪の色、戻りましたね」
「うん」
「やはりリディオは黒髪の方がいいですね」
「ラヴィアスもそう言ってくれた……」
えへへと照れるリディオが可愛い。
これを目の前にして致していない……だと?
「それで……ラヴィアス様は?」
「向こうのベッドの横」
ベッドの横へ足を進めれば、仁王立ちのラヴィアス様の前に正座をする側近と医者を発見する。
二人の耳も尻尾も垂れ下がっている。
「お前らは鼻が良いはずだ! リディオの部屋に私がいるとわかるだろう!」
「いるとわかっても、してるとまではわかりません……扉が閉まっていたらわからない事もあります」
「そうです。私はリディオに会いにきたのであって、ラヴィアス様の都合なんて関係ありません」
この二人……素直に「はい」と言えば良いものを……外がゴロゴロ言ってるじゃないか……。
「リディオ……この状況はどうしたのですか?」
「その……しようとした時に二人が部屋に来ちゃって……」
真っ赤になって恥ずかしがりながらそんな説明をする。
くっそ可愛いなリディオ。
こんなリディオを目の前にして邪魔されたんじゃ、あの眉間の皺も頷ける。
けれど、そろそろ夕食の時間になる。
このままでは、リディオがお腹を空かせる事になりかねない。
「ラヴィアス様、もうその辺にしてあげたらどうでしょう?」
「は?」
ギロリと睨まれた。
困ったもんだ。
仕方ない……ここはリディオに頼みましょう。
リディオにそっと耳打ちする。
(ラヴィアス様の背後から抱きついて、ユシリス達を許すように言えばいちごをあげます)
コクリと頷いたリディオは、ラヴィアス様の背後へ行き、そのままギュッと抱きついた。
ラヴィアス様は、リディオの手を握って振り返る。
「リディオ、どうした?」
「ラヴィアス、もういいでしょ? 二人を許してあげて?」
「私がどれだけ待ったと思っているんだ……」
「楽しみが延びただけだよ」
テヘッと笑ったリディオがラヴィアス様の心臓を撃ち抜く。
この子ったら、いつの間にこんなテクを身に付けたのか……。
「そ、そうだな……」
城の外の雲がなくなった。
ホッと息を吐いて、イチャつく二人を遠い目で見つめる。
「ユシリスもフォウレも立ちなさい」
「いてて……足が痺れる……」
「鬼みたいだったね……」
反省しているのかいないのか……。
まぁ、本気で怒ったラヴィアス様はこんなものじゃないと知っているから反論もできるのですけどね。
「ラヴィアス様の邪魔をするとはなんたる事ですか」
「俺は好きで邪魔したんじゃねぇ!」
「独り占めは良くないと思わない? ユルだってリディオとしたいでしょ?」
横目でリディオを見る。
いつ見ても可愛い。
子供の頃からずっと可愛かった。
「したいかしたくないかと言われたら、ぶっちゃけしたいですとも!」
「開き直った……」
ユシリスが呆れた眼差しを向けてくる。
「私は淫魔です。性には自由でありたい……」
そう! このくそ忙しい中でも、私の活力は性そのもの! すればするほど元気になる。
最近なんて──おっと、私の話は置いておきましょう。
「とにかく、今後はラヴィアス様がリディオの部屋にいる時は、気をつけるように」
「「はーい」」
◆◇◆
夕食が終わって、ラヴィアス様は自分の部屋に一度戻ると言うので廊下を一緒に歩く。
ラヴィアス様にフォウレ特製の薬を渡す。小瓶に入っている小さな丸い錠剤だ。
「ラヴィアス様、これは用意していたのですか?」
「…………」
ラヴィアス様に眉間の皺が。やっぱり。
「ラヴィアス様の場合、男性の時はいつも相手が飲んできていますからね。リディオ相手だと理性飛んでましたもんね。そこまで考えられなかったのも無理はありません。それなら、途中で止められたのは正解だったかもしれませんね」
一気に言ってやり、ニッコリ笑顔を向ければ、気まずそうに視線を逸らす。
「興奮すると後ろが濡れる薬は、男性相手には必要でしょう? それ、特別製なので、一個飲ませば1日保ちますよ」
「フォウレのだろ? 香りが変わったりは?」
「私が使っても相手に使っても大丈夫でしたよ」
「それなら使う……」
髪の色が変わる薬でリディオの香りが変わったのが余程気に入らなかったらしい。
そもそもあの時、ラヴィアス様が拗ねてしまったからリディオを連れてかれた。
『ラヴィアス様、リディオが可哀想です。手ぐらい繋いであげたらどうですか? 迷子にでもなったら大変です』
『無理だ……』
『なら、私が手を繋いで歩きますよ!』
『ダメだ』
『だったら、ラヴィアス様が隣にいてやらないと!』
人に触れられたくないくせに、自分で近付けないなんて。
『ラヴィアス様は、リディオをどうしたいのです⁉︎』
『…………』
『そんな態度でしたら、私がもらいます』
『ふざけるな』
ふざけてなんかいない。リディオを大切に思っているのはラヴィアス様だけではない。
そんな風に睨むくせに素直じゃない。
『リディオだってもう子供じゃありません。ラヴィアス様は、リディオを傷付けたくないと言いながら、自分が傷付くのが怖いんですよ』
『…………』
そんな悔しそうな顔をするなら、さっさと手に入れるべきだ。
どこからどう見てもリディオはラヴィアス様が好きだ。
体も成長して、今なら受け入れてもらえるのに余計に距離を取ろうとする。
隣にいる私が一番もどかしい。
リディオもさぞ、悲しい顔を──そっと振り返れば……いなかった。
ラヴィアス様は、香りがしないからと前を歩いていたけれど、リディオに前を歩かせるべきだった……。
『ラヴィアス様……リディオがいません……』
『っ⁉︎』
慌てて背後を振り返ったラヴィアス様は、歩いてきた道を戻る。
そんなに必死に捜すなら、最初から手を繋いでおけば良いものを……。
その後はすぐにユシリスを呼んで香りを辿ってもらった。
人間の香りは薄い。その中でフォウレの香りを辿るのはそれほど難しくはなかったようだ。
ラヴィアス様は、リディオを捜すその間もずっと苦しそうな顔をしていた。
見つけた時に思わず抱きついてからは、もう離さなかった。
「ちなみに今日の分は夕食の時に飲ませました。リディオにちゃんと説明しましたけど、真っ赤になりながら自分で飲んでいたので良かったですね。あっ──」
ラヴィアス様は廊下を歩いている途中で、目の前で開けられた扉にぶつかった。普段ならそんなのは避けられるのに、注意力が散漫になるほど嬉しかったのかと思わず笑ってしまった。
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