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少し世界を知った

フォウレのイタズラ

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 髪の色が変わる薬を作って欲しいと頼んでから一年経った。
 いつも通り、シャールちゃんとユシリスと一緒にいると、フォウレが俺の所に来た。

「リディオ。時間ある?」
「あるよ!」
「僕の部屋においで。迎えに来たんだ」

 ユシリスとシャールちゃんに断りを入れて、フォウレと手を繋いでフォウレの部屋を目指した。
 部屋に入ると、椅子に座らせてくれた。

「薬はどう?」
「そっちは材料が取れる時期もあるし、人間のリディオに使うには失敗できない。まだ待っててね」

 そうか……数年かかるって言われたよな……。
 思ったより大変みたいだ。

「フォウレ、忙しいのにありがとね」

 頭をポンポンとされる。

「いいよ。こうして、リディオとの時間ができるのは嬉しいから」
「へへへ」

 フォウレとニコニコとし合う。

「リディオ。今日はね、この飴を君にあげようと思って」
「飴?」

 目の前に置かれたのは、袋の端をギュッと絞った可愛らしい飴だ。

「もらっていいの?」
「どうぞ」

 飴の包みを開ければ、黄色のまん丸の飴が出てくる。
 それをパクリと口に放り込んで舐める。
 蜂蜜を薄くしたような味がした。
 意外と早く口の中で溶けた。

 おかしい……胃の中が熱い?
 そこから全身に熱が伝わる。
 どんどん熱くなってくる。

「フォウレ……なんか……変だよ? 熱が出たときみたいだ……」
「ふふふっ。この飴ね。副作用があるんだ」
「副作用⁉︎」
「体に害はないよ。ただ……大きくなるだけ」

 大きくなる……?
 すると、服がきつい気がする。よく見れば、自分の手のひらや足が段々と大きくなっていく気がする。

「あ。服脱いだ方が良かったね」

 服が破れたぁ!
 これ……本当に大きくなってる⁉︎
 と、思った時にはもう高校生ぐらいになってしまった。
 体の熱がなくなったと思ったら、成長もピタリと止まった。

 服が破れて全裸!
 恥ずかしくて床にしゃがみ込む。

「フォウレ! 服ちょうだい! 服!」

 いきなり大きくさせられた!

「これは──想像以上だよ。やっぱり君はとても魅力的になるね。特にその黒髪……魔王族の方々もとても綺麗な黒髪だと思うけれど、今まで見た魔王族の誰よりも美しいよ。この髪の色を変えるんだから、絶対元に戻る薬を作らないとだね」

 フォウレに髪をサラサラと撫でられる。髪は伸びなくてよかった。

「フォウレ! いいから服!」

 どうでもいいから、服ちょうだい!

「もう少し見たいのだけれど……ラヴィアス様に怒られるね。どうぞ」

 フォウレから服を渡されて慌てて着てホッと息を吐く。

「ふふっ。可愛らしいね。リディオはやっぱりリディオだね」
「これ、いつ戻るの?」

 楽しそうに九本の尻尾を揺らすフォウレを睨む。

「明日には戻ると思うよ」
「明日までこれなの⁉︎」
「こんなリディオが見れて僕は得した気分だよ」

 ふぁさふぁさと尻尾が揺れる。
 フォウレの尻尾も耳も可愛いから、こんなイタズラされても憎めないんだよな……。

「もうすぐ夕食の時間なのに、どうすんのぉ……」

 みんな俺だってわからないんじゃないかと不安だ。
 困っていれば、フォウレの部屋の扉が開かれてビクッとする。

「フォウレ。リディオがここに来ていないか?」

 夕食の時間に部屋にいないからか、ラヴィアスが探しに来たみたいだ。
 フォウレは俺をチラリと見てからクスクスと笑った。

「知りません」

 この狐……サラリと嘘ついた……。
 ラヴィアスは俺を見ると、眉間に皺を寄せた。

「誰だ? 見た事ないやつだ。魔王族にいたか……? 随分と綺麗な──」

 言葉が止まって、ジッと見られる。ドキドキする……。

「黒髪に……黒目。リディオ?」
「わ、わかるの……?」

 ラヴィアスは俺の前に来ると再びジッと見つめてくる。

「リディオだ……」

 俺だってわかってくれて嬉しい。

「フォウレ……今知らないって言ったな?」
「はい。小さいリディオは知りません。大きいリディオはそこにいます」

 フォウレはニコニコしながら屁理屈みたいな事を平気で言うんだ。

「リディオ。夕食の時間だ。行くぞ」
「う、うん……」

 腕をガシッと掴まれたけれど、ラヴィアスはそれ以上動かなかった。

「ラヴィアス?」
「あ……ああ……行こう……」

 フォウレはクスクスと笑う。

「ラヴィアス様、リディオがいらなくなったら僕にください」
「フォウレ。あまり私を怒らせるな」
「本気ですよ」
「…………」

 ラヴィアスはそれ以上何も言わずに俺の手を引いた。
 いらなくなる……そうなったら……俺は赤ん坊の時のように捨てられるんだろうか……。
 腕を引かれながらそんな事を考えてしまった。

「リディオ。僕はその黒目も大好きだからね。またね」
「あ、ありがとう。フォウレ、またね」

 魔族で俺の瞳が好きだと言ってくれる人はいないから嬉しい。
 ヒラヒラと手を振るフォウレと別れて、ラヴィアスと一緒に自分の部屋に戻る。
 食事はいつも俺の部屋で食べていた。
 椅子に座って待っていれば、シャールちゃんが運んでくる食事がテーブルに置かれる。
 その間にシャールちゃんに声をかけられた。

「本当にリディオなのですか?」
「そ、そう……変?」
「いいえ! とてもかっこよくて綺麗ですよ」
「本当?」
「本当です。ねぇ、ラヴィアス様」

 俺の対面で無言で座っていたラヴィアスにシャールちゃんが声をかける。

「──そうだな」

 ラヴィアスから気のない返事をされた。
 なんだか機嫌が悪い?
 仏頂面でずっと無言だ。
 本当は大きくなったの気に入らないんじゃないだろうか……。

 食事をしている間も時々こっちをジッと見たりして気まずい。
 悶々と考えていれば、食事をすぐに食べ終わってしまった。

 デザートはいちご。
 デザートはいつもラヴィアスが手で食べさせてくれる。
 ラヴィアスはいつも通りいちごを俺の前に差し出した。
 それをパクリと食べる。
 いつもと感覚が違うから、唇がラヴィアスの指に触れてしまった。
 恥ずかしくて体を引く。

 モグモグと咀嚼しているけれど、なんだ?
 やけに緊張して、ラヴィアスが見れない!
 昨日までの小さい俺はどんな風に食べてたっけ⁉︎

 ラヴィアスは、そのままもう一ついちごを差し出してくる。
 いちごとラヴィアスを交互に見て、目を閉じてそれを食べた。
 やば……目を閉じたせいで、またも唇がラヴィアスの指に触れて、指にキスしたみたいになってしまった。

「ご、ごめん……」
「いや……」

 なんだこれ!
 めちゃくちゃ恥ずかしい!

 緊張の食事が終われば一息ついた。

「風呂……」

 ラヴィアスがボソリと呟いだ。

「あ。お風呂入る?」

 いつも通り一緒に脱衣所まで行って、いつものノリで服を脱ぐ。
 ラヴィアスは、服を脱がないで片手で顔を覆っていた。

「待て。ダメだ……今日は別で入ろう……」
「へ? そう?」

 ラヴィアスは、脱衣所から出て行ってしまった。
 
 もう自分で体を洗ったりできていたので、一人でお風呂に入った。

 ラヴィアスは、どうしたんだろう?
 大きくなった俺に不満そうだった……。
 もしかして……大きくなったら想像と違う……とか?
 俺がこんなに大きくなると思ってなかった……とか?

 やだなぁ……ラヴィアスに嫌われたくない……。

 少し不安になりながら、お風呂を出て自分の部屋に戻る。
 いつまで待ってもラヴィアスが来ないので、シャールちゃんに明かりを消してもらって、先に布団に入って寝ようとした。
 けれど、今日はなんだか寝られない。
 子供だとすぐに眠くなるのに、目が冴えてしまって布団の中でゴロゴロしていた。
 すると、部屋の扉が開く音がして、ラヴィアスが部屋にやってきた。
 思わず寝たふりをしてしまった。

 俺の背中側に入ってきて背後からギュッと抱きしめられる。
 いつもと同じ行動をしてくれた事にホッとした。
 そっと後頭部に感触が……何? 何されたの?

「リディオ……早く大きくなれと思っていたが、こんな風になるなんて予想外だ……。お前はまだ大きくならなくていい……」

 ラヴィアス……俺が大きくなるの嫌なんだ……。
 大きくなったら捨てられるのかも……それはいつ?
 俺はラヴィアスの側にいたいのに……。

 痛む胸を誤魔化しながら眠った。

 次の日は、起きたら元に戻っていた。
 ラヴィアスは、俺を見ておはようと言って優しく笑ってくれた。心底安心してギュッと抱きついてしまった。
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