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入学後

卒業式と卒業パーティー

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「卒業生代表──ディノ・バスカルディ」

 どうして俺が代表なんだ……って級友の誰もが思っているんじゃないか?
 俺も思っている。

 学長から卒業証書を受け取れば、卒業式はもう終わる。

 かつて大魔法使いと言われた俺が、三年間も学院で学んで卒業するだなんて誰が想像できただろうか?
 予想外に四つ星になって卒業生代表になってしまったが、許容範囲内……とするしかない。

 寮の部屋に戻れば、みんなウキウキしながらタキシードに着替える。
 エーベルトは蝶ネクタイが妙に似合っている。
 何よりも、長身のメルフィスがとてつもなくカッコいい。着なれてる感じがする。
 ケフィンも意外と似合っててカッコいいのに、メルフィスのせいで目立たない……。

 髪はエーベルトがセットしてくれて、みんな前髪を上げておでこを出している。
 俺は、長い髪を器用に編み込まれて、顔の横に流している。

 部屋がノックされてケフィンがドアを開ければ、ブルーノだった。
 ブルーノも気品があって着なれてる感じがするのに、貴族のお坊ちゃまに見えて仕方ない。

「エーベルト? 用意できたか?」

 どうやらエーベルトを迎えに来たらしい。

「できたよー。どう?」

 嬉しそうにクルリと回ったエーベルトに、ブルーノは真っ赤になった。

「可愛すぎる……」
「へへっ……ブルーノもカッコいいよ」

 ご馳走様です──。
 二人の世界にハートが飛んでいてケフィンとメルフィスと目を合わせて苦笑いする。

「それじゃ、みんなで行こうね!」

 エーベルトの掛け声に頷いた。

     ◆◇◆

 会場である学院の広間は、賑わっていた。
 キラキラと輝くシャンデリアに真っ赤な絨毯。
 魔法使いのローブを脱いで、タキシード姿のみんなを見るのは何だか楽しかった。

 生徒の関係者もいるらしく、ドレス姿の女性もちらほら見かける。
 立食形式で、近くにいた給仕の人に頼めば、取ってもらえる。
 
 みんなで食事をしながら、今後の事について話した。

「なぁ、エーベルトは卒業したら、どうするんだ?」

 ケフィンの質問にエーベルトがニコニコと答えた。

「薬師になるよ」
「「「え!?」」」

 ケフィンとメルフィスと一緒に驚いてしまった。
 ブルーノは知っているらしい。

「トマス先生に色んな植物の事聞いたんだ。卒業しても教えてくれるって言うから、たまに学院にくると思うよ」

 あのトマス先生と気が合うとはエーベルトはさすがだ。
 エーベルトらしいと言えばらしい。

「そういうケフィンはどうするの?」
「俺は、実家に戻るぞ。魔法使いがあまりいない村だからさ、魔道具屋も魔石屋もしたいな! みんなの役に立ちたいんだ!」

 ケフィンらしい。

「じゃあ、いつかケフィンの村に招待してよ」
「おう! いつでも来いよ! みんな大歓迎だぜ!」

 みんなでワインで喉を潤す。
 もう全員成人してアルコールも飲めるようになっていた。
 入学したては初々しかったのにな。三年間という月日を感慨深く思う。

「メルフィスは城に帰るんだろ?」

 ケフィンの質問にメルフィスが頷く。

「兄上達の補佐をやりつつ、マベルの補佐もやる予定だ」

 マベルの補佐……メルフィスなら大丈夫か。

 卒業したら、みんなバラバラだ。

「ディノはどうするんだ?」
「俺は──……」

 リンゼイと一緒に暮らして魔道具を作る。
 言ってもいいかな?

「ディノ。少し二人で話したい」

 言い淀んでいれば、メルフィスに先に声を掛けられた。

「外で話すか?」
「そうしよう。みんなは楽しんでてくれ」

 持っていたワイングラスを給仕の人に預けて先に歩くメルフィスの後をついて行く。
 広間を出て明かりが届く範囲の誰もいない場所に着くと、メルフィスは足を止めて振り返った。
 やけに真剣な顔に胸がざわめく。

「ディノは、四つ星だろう?」
「そうだな」
「城の魔法使いにならないか?」

 仕事の勧誘か。広間でもできた話じゃないのか?

「それは無理だな。城の魔法使いは俺には合ってない」
「それなら、お、俺の……仕事を手伝わないか?」
「メルフィスの?」
「あ、ああ! 手伝ってもらえたら助かる……」

 そこまで俺を必要としてもらえるのは嬉しいけれど、俺にはやりたいことがある。
 断ろうとしたら、メルフィスの方が先に口を開いた。

「違う──俺が言いたいのは……それじゃない……」

 メルフィスは、俺を真っ直ぐに見たけれど、その顔は少し辛そうだった。

「どうした?」

 メルフィスの具合が悪いんじゃないかと覗き込む。
 すると、メルフィスの手が伸びてきてギュッと抱きしめられた。
 気付けばメルフィスの腕の中にいて軽いパニックだ。

「メルフィス!?」
「卒業したら離れ離れになる。そう思ったら、離れたくなくなった。この気持ちが何なのかやっとわかったんだ──。俺は──出会った時からディノが好きだ。俺と一緒にいて欲しい」

 真っ直ぐな気持ちが俺に刺さる。
 ドキンドキンと鳴っているメルフィスの心臓の音が聞こえて、やけに冷静な自分がいた。

「メルフィス、ありがとな」

 ポンポンとメルフィスの背中を叩く。

「でも、ごめんな。俺の心臓はたった一人にしか動かないらしい」

 メルフィスに対して、申し訳なくなるぐらい俺の心臓は鳴らなかった。

「微笑まれただけで心臓がピョンって跳ねたり、抱きしめられてドキドキしたり、死んじゃうかと思ったら凍りついた。俺の心臓がそんな風に忙しく動く相手はこの世でたった一人だ。お前じゃない」
「それは──リンゼイ先生か?」
「なんだ。知ってんだな」

 クスクスと笑えば、メルフィスは余計に腕の力を込めた。

「どうしてだ!? リンゼイ先生はエルドを今でも好きだと言ったんだ! 今でもエルドを想い続けるリンゼイ先生を、ディノは好きだって言うのか!?」
「リンゼイがどうとか、そういう問題じゃないんだ。俺がリンゼイと一緒にいたいんだ。それにさ、死んでも好きってすごいと思わないか? そこまで想われたら幸せだろ?」

 メルフィスは、俺の体を離すと俺の顔を切なく見つめてくる。

「大丈夫。エルドと同じように、俺はリンゼイに死ぬほど想われてる。見ただろ? 俺を庇ってくれたリンゼイを──俺も同じ場面になったら、リンゼイの為に同じ事をするよ」

 昔も今も、これからも──。
 メルフィスが下を向く。

「わかっていた……俺は……リンゼイ先生に敵わない……。でも、お前の特別になりたかった……」

 メルフィスの肩をポンッと叩いた。

「何言ってんだ。お前だって俺の特別だ。お前が困ったらいつだって駆けつける。メルフィスは、俺の大切な友人だからな──」
「ディノ……」

 顔を上げたメルフィスに満面の笑みを向ければ、メルフィスも笑ってくれた。

「これからもよろしくな」
「ああ……これからも……な」
「あーあ……リンゼイに会いたくなったな」

 まだパーティーが始まってから会えていない。
 今、何をしているんだろうか?

「会いに行け。広間のどこかにいるだろう。リンゼイ先生なら、お前の誘いを断ったりしないさ」
「そうだな。でも、メルフィスは?」
「ケフィン達の所に戻るから心配するな」

 微笑むメルフィスに背中を押されて、リンゼイを探しに広間に戻って行った。
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