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入学後

無力な自分

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 最後の数メートルを描き上げて、魔石まで陣を繋げることができた。
 予想以上に早く完成できた。

 歓声と拍手が湧き上がる。

「どうなる事かと思った!」
「お疲れ様!」

 みんな俺の事をねぎらってくれた。

「ラクノーヴァの為にありがとう。お腹が空いただろう。向こうに食事も用意してある。みんなも食べてくれ」

 アティバに言われてお腹が空いている事に気付く。
 何も食べずに描き通しだった。疲れてクタクタだ。その場にいた全員が同じ状況だった。
 みんな気が抜けて、食事の場へと足を進めて行った。

 描き上げる前にグレンに何かされるかと思っていたが、何もなくて拍子抜けだ。
 あいつはどこに行ったのか……。

 とりあえず、腹ごしらえして寝たい。
 腕を上げてグッと体を伸ばして自分も歩き出した。

「──ディノッ!」

 急に名前を呼ばれて振り向いた瞬間に、こちらに駆けてきたリンゼイを見た。
 ドンッと抱きしめるように体当たりされた。
 ヒュッと風の音を聞いた気がした。
 ぶつかられた勢いのまま地面に倒れ込む。

 なんだ……?
 何が起きた?

 感じるのは、背中の地面の感触と、覆いかぶさるリンゼイの重みだ。

「リンゼイ……?」

 呼んでも返事はなくて、体を起こそうとしたら、リンゼイの体はズルリと横に倒れたままだった。
 目は閉じられていて、背中にそっと触れたら手が赤く染まった。

 リンゼイの──血?

「今のは風魔法!? 魔物か!?」
「そんな気配なかった!」
「リンゼイ先生!?」

 辺りがざわめき出す中、トマス先生が駆け寄ってきてリンゼイの背中の様子を見る。

「これはひどい……止血を!」

 トマス先生の掛け声で数人の魔法使いがリンゼイの所に来た。
 リンゼイは背中に怪我を負っていた。

「上級の風魔法です。殺傷能力があります」

 傷口を見て、トマス先生が言った。
 何が起きたのか理解できない。
 さっきまで何事もなく、リンゼイは俺と普通に会話をしていた。
 やたらと自分の心臓の音だけが鳴り響いているように聞こえる。

「リンゼイ先生! 返事はできますか!?」
「うっ……」

 リンゼイが苦しそうな顔をして呻いた。
 意識があるのかと声を掛けた。

「リンゼイ!」

 名前を呼べば、うっすらと瞳が開いて俺を見た。
 そっと手を伸ばされてその手を握った。

「ディノ……? 怪我は……?」
「俺は大丈夫だ!」

 リンゼイは、フッと笑った。

「良かった……。今度は……間に合ったね……」

 そう言って目を閉じた。
 心臓がギュッと絞られたように痛い。
 また俺のせいでリンゼイが傷付いた──。

「リンゼイ……ッ!」

 何度呼んでもリンゼイはもう目を開けなかった。

「ディノ。手当てをするから退いていて」
「トマス先生、リンゼイは大丈夫ですよね!?」
「大丈夫。僕が死なせません」

 リンゼイが死ぬ? あり得ない──。

「信じてますよ──」

 トマス先生が頷けば、リンゼイからそっと離れた。
 大魔法使いだとか天才だとか言われても、こういう時、俺ができる事は何もない。
 いくら魔力があっても、いくら魔法が使えても、俺は役立たずだ──。

 リンゼイがいなくなったら──俺の生きる意味もない。

「ディノ! 大丈夫か!?」

 メルフィスが心配そうに声をかけきてハッと我にかえる。
 エーベルトもケフィンも来てくれていた。

「僕は大丈夫です。さっき、君たちは何か見ましたか?」
「気付いた時は、風魔法がディノ目掛けて飛んでいた……」

 俺を狙った風魔法だった……。
 リンゼイは、俺を……庇ってくれた……。

 魔物は全部陣の向こう側に追いやった。
 となると、思い当たるのは一人だけだ。今この場にいないやつだ。
 陣を描き終わって気が抜けた所を狙われたんだ。

 もう一度倒れているリンゼイを見れば、思い出すのはリンゼイを守れなかった自分だ。

「グレンさんてどんな人か知ってますか?」
「グレンさんか? 確かキルタズの出身だ。今度の修学旅行もそれがあって配属された」

 メルフィスが答えてくれる。

「そーいや、昨日、町外れにグレンさんがいたのを見たって人がいたな……」

 今度はケフィンが言った。

「そこまで聞ければ充分です」

 町外れに向かって走り出す。

「「「ディノ!?」」」
「僕は少し行くところがあります! 戻ってくるまでリンゼイ先生をお願いします!」

 魔物よりも人の方が怖いじゃないか……。

 グレン──絶対に償わせてやる。
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