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入学後

縮まる距離と満点の星 *少しだけ

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「ご、ごめん! 人がいないと思っていたから……」

 って、なんで言い訳してるんだ!
 慌てて視線を逸らしてしまった。

 課外授業でもそうだったけれど、魔法使いは意外と体力を使う。
 無駄な筋肉の付いていない、しなやかな体が目に焼き付いていて顔が熱くなる。

「私は……出ようかな……」

 湯船から出ようとするリンゼイを慌てて止めた。

「待って! 久しぶりに二人きりになれたんだ! もう少し入らないか!? もしかして、入ってから時間経ってる?」

 長湯させたらのぼせてしまう。

「いや、そういうわけじゃないけど──」

 リンゼイはそこまで言って、顔を真っ赤にして俺から視線を逸らした。
 俺と同じ反応だ。リンゼイも真っ直ぐに見れないみたいだ。
 普段誰に見られても気にしないけれど、リンゼイの前だと気恥ずかしい。
 添い寝の時に裸にならなくて良かったかも……。
 慌てて湯船に浸かる。

「もう少し一緒に入ろう?」
「う、うん……」

 リンゼイは俺の隣に入り直す。
 言いたかった事はたくさんあったはずなのに、どれから言おうか迷ってから口を開いた。

「会いたかったんだ……」
「え……?」
「会えなかったから……今、こうして会えただけでも嬉しい……」
「ディノ……」

 一緒にお風呂に入るなんて不思議な状況でも浮かれてしまう。

「ごめんね」
「わ、わかってるから! リンゼイは忙しいし、俺はまだ見習いだし……」
「うん」

 久しぶりに俺だけに向けられる優しい声音に包まれて、自分の弱い部分が顔を出す。

「本当は……今でも迷ってる。俺はリンゼイのそばに居たら、お前を不幸にする……。関係ない事に巻き込んで、お前が傷付いてしまうんじゃないかって思うと怖い。今からでもお前から──」
「ディノ」

 静かに名前を呼ばれて言葉に詰まる。

「言ったよね? 死ぬも生きるも君と一緒がいい。私の前から居なくならないで欲しい……」

 リンゼイの視線を感じて顔を見れば、目が合って見つめ合う。少し辛そうな瞳が揺れる。
 そっと頬に手を伸ばされて俺の頬に触れた。温かい……。

「愛してる……」

 優しく伝えられた言葉にキュッと胸の奥が鳴った。

「ずっと愛してた……」

 今度は絞り出すように言われた。
 今までお互いに言えなかった気持ちを言葉にされた事で、胸の奥にあった気持ちがブワッと溢れてくる。
 リンゼイの手に手を重ねて擦り寄る。

「俺も……ずっと言えなかった。リンゼイ……愛してるから……一緒に居て……」
「っ……!」

 これが俺のずっと前から変わらずに想う確かな気持ちだ。

 リンゼイは、もう片方の手で俺の両頬を包むと強引に顔を引き寄せた。
 リンゼイの顔が迫ってきて目を閉じる。
 パシャリと湯船のお湯が音を立てて距離が縮まる。

「んっ……」

 塞がれた唇が熱いのは、体が温まっているからか。
 少しして、間近で見つめ合う。
 熱っぽい瞳に見つめられる。こんな顔をするリンゼイも、少し強引なリンゼイも俺は知らない。
 胸がドキンドキンと高鳴る。

「エルドのそばに居て不幸だった事なんてない。私は幸せだった。こうしてディノに触れられる今この瞬間も幸せでいっぱいだよ」

 リンゼイが嬉しそうに笑う。
 大好きな笑顔を見て、思わず首に腕を回して抱き着いた。

「リンゼイ! 好き! 大好き!」

 一度言葉にしてしまえば、堰き止められていたダムのように気持ちが溢れて止まらない。
 膝立ちで抱き合って繰り返しするキスが気持ちいい。
 口を開けて舌を割り入れれば、リンゼイも同じように応えてくれる。
 絡め合う舌が痺れるような感覚が頭をぼーっとさせる。
 のぼせそうなのは、お湯に浸かっているからだけじゃない。

 そこで、急にリンゼイが視線を逸らした。

「あの……これ以上触れ合うと我慢ができなくなりそうで……」
「我慢?」
「その……下……」

 リンゼイの言葉で下を確認すれば、夢中で触れ合っていた体はお互いに反応し合っていた。
 意識し合って真っ赤になってしまう。

「リンゼイ……抜きっこし合う?」

 下から見上げて、リンゼイにスリッと擦り付けてみる。

「だ、ダメだ! 離れて!」

 リンゼイは目を閉じて俺を抱きしめていた手を離してしまう。

「なんでダメ?」
「歯止めが効かなくなる! それ以上の事をしたくなるよ!」

 俺に欲情してくれてると思うと嬉しくて、俺の方がもっとしたくなってくる。

「それに、ここでは誰か来たら困るから!」
「誰も来ないと思うけど……」
「わからないじゃないか!」

 確かにそうか。ちょっと冷静になってきた。
 叱られた犬のようにシュンとしてリンゼイから離れる。

「──君のその色気のある顔を……誰かに見せたくない……」

 それって──……独占欲ってやつじゃ……!

「俺も! リンゼイのいやらしくてセクシーな顔見せたくない!」
「そんな顔してない……」

 嬉しい! いつも俺ばっかりリンゼイを独り占めしたいのかと思っていた。

「じゃあ、下半身がおさまる話しよ!」
「言い方が……」

 苦笑いするリンゼイに擦り寄りたいのを我慢する。
 リンゼイがふと空を指差した。

「ほら、見てみて?」

 誘われるように夜空を見上げた。

「わぁ……っ! すごいな……」

 満点の星々が降って来るような気がして思わず手を伸ばす。

「明日もきっと晴れるよ」
「そうだな!」

 見つめ合って笑う。
 こんな時間が本当に貴重だ。

 リンゼイと二人で見上げた夜空を目に焼き付けた。
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