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入学後

緊急事態 ①

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 朝早く起きて宿屋の前にみんなで集合だ。
 ラクノーヴァの魔法使いも何人かいた。その中に挨拶してくれたグレンもいた。
 ベルナルド先生が前に出て説明してくれる。

「これから魔石に魔力を込めにいく。要領はわかるよな?」

 みんながはーいと返事をすればすぐに出発する。
 しばらくして到着したのは、町の境界だ。その向こうは魔法使いの森だ。
 
 そこでみんなは口を開けて驚いていた。

「これが魔石!?」

 直径が二メートル近くある岩の魔石は高さも二メートルぐらいあって石ではなく岩だ。
 色がくすんだ灰色に近く、魔石の魔力が少なくなっているのがわかる。
 その魔石の一部から伸びている魔法陣がずーっと向こうまで続いていてその先は見えない。

「先生、他の魔法使いの森は、魔物がいても町を襲ったりしませんよね?」

 見習いの一人が質問する。

「その通りだ。魔物ってのは、その土地から動こうとしない。お前らが課外授業で行った森にいた魔物もあの森から出る事がないのが普通だ。だが、キルタズの隣にあるこの森にいる魔物はなぜだかキルタズを襲うんだ」

 エルドの見解では、ラクノーヴァは魔物の森を開拓したのではないだろうかと考えていた。
 いくつかの村や町が魔物に侵略されたとラクノーヴァは言っていたが、元から魔物の森だった所を切り拓いた為に、自分達の住処を荒らされた魔物が怒ったか、取り戻そうとしたのではないだろうか。
 魔物なんて大した事はないと高を括ったんだろう。

 そんな事をすれば、魔物に滅ぼされても不思議じゃない。キルタズ以外のこの森に近接していた村は、全て無くなった。キルタズだけは、トランダムが介入した事で魔物を森に押し返して結界を張り、今のように隣り合わせで残っている状態だ。

「ベルナルド先生!」

 ベルナルド先生が色々説明していた所に、トマス先生が慌てて来て耳打ちをする。

「なんだって!?」

 小声でもそう聞こえた。
 ベルナルド先生は相当驚いたみたいだ。

「お前らは暫くここで待機だ! 俺らが戻って来るまで待っていろ!」

 先生たちもラクノーヴァの魔法使いも慌てて魔石の方へ走っていく。
 魔法陣の方も確認するように沿って足早に移動する。

「なんだ? どうしたんだ?」

 ケフィンの言葉に考え込む。

「何か問題が起きている可能性がありますね」
「問題って……何があるって言うんだ?」

 メルフィスの質問にそっと答える。

「わからないので魔石と魔法陣を見てきます」
「え!? だって今、先生に待機だって言われなかった?」

 エーベルトに言われて、人差し指を唇に当てる。

「だから、内緒で行ってきますね」
「まったく……」

 そっと見習いの集団から抜け出して魔石に近付いた。
 やっぱりどう見ても魔力が少ない。
 でも、魔法陣が発動できないような感じではない。

「何かわかったか?」
「いえ……って! 君たちまで来たんですか……」

 俺の背後からケフィンがニンマリしながら覗き込んできた。
 メルフィスは心配そうだし、エーベルトは苦笑いしている。

「魔法陣の方を見てみます」
「もしかして……ディノってこのエルドの魔法陣がわかるの?」
「ええ」

 エーベルトの質問に歩きながら頷いた。
 俺の背後でみんなが顔を見合わせたなんて知るよしもない。

「やっぱりディノっておかしいと思う……」
「え? エーベルト、何か言いました?」
「ううん」

 魔法陣に沿って歩いて行く。
 魔石から陣に魔力は通っている。
 けれど、歩いている途中で気付く。

「なぁ! これ、魔法陣消えてんじゃん! 俺でもわかる!」
「先生方が居ないけど、どこまで消えてしまっているのか確認しに行ったのかもね……」

 ケフィンは慌てているし、エーベルトも不安そうだ。

「魔法陣が消えたら魔物が出入りできるようになるんだろ? ヤバくないか?」

 メルフィスの言葉に頷く。ヤバいに決まっている。
 キョロキョロと周りを確認する。
 今はまだ何も居ないみたいだけれど、魔物が来たら町が危ない。
 この魔法陣を早急に描き直さないといけない。
 描いた所から発動する陣にしておいて良かった。残っている魔法陣は発動している。

 よく見れば、地面ごと削られたような痕跡がある。軽く地面を撫でると魔石の粉が混じる。

 人為的に──あるいは魔物が?

 普段なら誰も触る事の出来ない魔法陣だ。陣の魔力が弱った今の状態を狙ったか?

「これって……どうなっちゃうんだ?」

 ケフィンの言葉に最悪の事態を考えてゾクリとした。
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