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入学後

反撃

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 リンゼイがマベルの頬に手を添えてキスしようとすれば、マベルは目を閉じた。

「私はこれでも、防御魔法学の教師なんだよ」

 リンゼイはそこで、つけていた腕輪に魔力を込めて魔法を使った。

 マベルは風魔法で跳ね返されて、リンゼイとの間に距離ができた。その隙にリンゼイは俺の方へ駆けて来た。
 リンゼイの腕輪を見れば、俺があげたもの以外にもつけていて、指輪も幾つか嵌めていた。

「リンゼイ! 陣に触れるな!」
「大丈夫。私を信じて」

 リンゼイは、指輪から水魔法使って俺の足元に川のように水を発現させて、魔法陣を洗い流した。
 その瞬間に魔法陣の効力がなくなる。
 立ち上がるとふらりとヨロけそうになるのを足に力を入れてどうにか耐えた。
 残った魔力は2割程度か。

「ディノ……」
「心配するな」

 どうにかなる!

「それよりリンゼイ、ありがとな」

 リンゼイがカッコ良過ぎでドキドキした。
 俺が守りたいって思っていたのに、俺の方が守られた。
 前のリンゼイは、俺の身代わりになろうとしたのに、今回は俺を助けてくれるなんて──。

 俺は自分だけでどうにかしようと思っていた。リンゼイに頼って良かったんだ。

 なんだよ……惚れ直すじゃんか。

 やっぱり俺はリンゼイが好きだ。
 好き過ぎて飛び跳ねたい。

「あーあ……失敗です」

 全然残念そうじゃないマベルを睨む。

「お前の気持ちは良くわかった。けど、しつこい男は嫌われるんだ」
「死んだと思ったら帰ってきて……なんなんですか?」

 いつもニコニコ顔のマベルがちょっと怒ってるみたいだ。

「ディノ、私の魔力を使って」

 リンゼイがボソリと呟やいた言葉にニヤリと笑う。

「マベル。お前がしたかった事ってこれだろ?」

 リンゼイの胸ぐらを掴んでグイッと引き寄せた。

「んっ──」

 驚いた顔のリンゼイにぶちゅっと唇を重ねて魔力を一気に奪う。

「──ぷはっ」

 唇を離せば、リンゼイは貧血になったかのようにふらりとヨロけて膝をつく。

「全部持ってかないでよ……」
「ははっ。言っただろ? お前の魔力なら全部欲しい」

 リンゼイは魔法を使ったのに、俺の魔力が結構回復している。
 前よりもリンゼイの魔力上がってんじゃんか!
 また惚れ直した……!

 これなら──。

「マベル、悔しいか?」
「別に──」

 マベルの表情からは何も読み取れない。
 でも、魔法書を手に取った所を見ると、俺に対して敵意はある。

「俺がどうして天才だと言われたかわかるか?」
「……魔法陣が必要ないからでしょう?」
「確かにそうだけど、だからってどんな魔法でも使えるわけじゃない。俺でも使えない魔法って結構あるんだよ」
「それが何か?」
「そんな魔法も俺自身に使われるとさ──できるようになる」

 マベルに向かって魔法を使う。先ほどやられた感覚と魔法陣をイメージして──。

「──っ!?」
「お前、今どうなってるかわかるか?」
「これは……!? 魔力が吸収される!?」

 マベルの驚いた顔が見れて満足だ。

「俺自身が魔法を理解すれば──俺に使えない魔法はない」

 特殊魔法陣であってもできない事はない。
 マベルの魔力を吸収して俺の魔力が回復するかと思ったけれど、そんな都合良くはいかず、魔法を使った分の俺の魔力も減った。
 それでもリンゼイのおかげでマベルより魔力がある。
 しばらくして倒れたマベルに笑う。

「俺がどういう気持ちだったかわかっただろう?」
「僕が数年掛けて作った魔法陣を容易く使わないで下さい……」
「悪いな。二回もじっくり見せてもらえたからな」
「本当憎らしい……」

 片膝をついていたリンゼイをしゃがみ込んで覗き込む。

「リンゼイ、大丈夫か?」
「うん……でも、少しだけ魔力を返してくれないか? 立てない……」
「喜んで──」

 リンゼイの頬を両手で包んでキスをする。
 さっきは味わえなかった。柔らかい感触を堪能しながら、魔力を少し返す。
 離れる時にチュッと音を立てたらリンゼイは真っ赤になった。

「わざとそういう事をしないで……」

 照れているこの顔が好きだ。可愛い。

「キスだぞ? 嬉しくないのか?」
「う、嬉しいけど……今はやめて」

 今じゃなきゃいいんだ。

「ムカッとするので他でやって下さい……」

 気分が盛り上がっていてもう一回してやろうかと思っていれば、マベルの声に邪魔された。
 逆に目の前でもっとやってやりたくなるな。
 そこで気付く。さっきのマベルもこういう気持ちだったのか……と。
 ちょっとマベルの気持ちがわかってしまって俺も似たもの同士なんじゃないかと苦笑いする。

 リンゼイは、倒れていたマベルに肩を貸した。

「寝室まで運ぶよ」
「──やっぱり……リンゼイは優しいですね……」

 嬉しそうに笑うマベルに今度は俺の方がムカッとする。

「俺は手伝わない」
「願い下げです……」

 リンゼイは、マベルをベッドに寝かせると布団まで掛けてやっていた。
 マベルは、行こうとするリンゼイの服の裾を引っ張った。

「リンゼイは、僕が嫌いですか?」

 リンゼイはフッと笑う。

「嫌いじゃないよ。マベルは、城の魔法使いとして優先せざるおえない事があるのはわかってる。それに、君の努力家なところも知ってるからね」

 少し照れたような顔をするマベルを初めて見た。

「やっぱりエルドの前で奪ってやりたかったな──」
「エルドが嫌いだからって、そんな事でエルドに対抗しないでよ」

 リンゼイは苦笑いする。
 本当にマベルが自分を好きだとこれっぽっちも思っていないらしい。
 それだけリンゼイは、俺しか見てない……なんてな。心の中で思った事だけれど、少し恥ずかしくなった。

「エルドなんて大嫌いです……」

 俺の心を読んだのか、マベルはそんな事を言い出した。なんて正直なやつだ。

「彼は私の大事な人だから、それ以上嫌いにならないであげて欲しい」

 リンゼイが優しく笑う。
 俺と同じように、リンゼイの笑顔にマベルは癒されていたのかもしれない。

 マベルは、視線を俺に向けた。

「…………魔道具の開発者の事、王家はエルドの名前で売るより僕の名前の方が売れると判断しました」

 そんな事だろうと思っていた。

「確かにそうだろうな。懸命な判断さ」
「僕からしたら、さっさと死んだエルドへの当てつけでしたけど……」

 こいつ……本当に俺が嫌いなんだな……。

「名前……戻してもいいです──」
「やめろよ、今更。名前なんてどうでもいい。城にあるものは、全部お前の名前で出せばいいさ」
「わかりました……」

 マベルは、そこで力尽きて寝てしまった。
 リンゼイと顔を見合わせてからクスクスと笑い合う。

「こいつ……マジで傍迷惑なやつだったな……」
「視察ももう終わるから、平和になるよ」
「お前……マベルと二人きりで会うなよ」

 また襲われかねない。

「うん……」
「なぁ、マベルとの事、聞いてもいいか?」
「──マベルとは、学院で学んでいた時は、良く話をしてたんだ。城の魔法使いになってほとんど会わなくなったけど、出張のお土産を渡しに時々私に会いに来てくれた」
「まじか……」

 俺が死ぬ前も普通にアプローチしてたわけね……。

「でも、エルドが亡くなってから、私は誰とも会わなかった。もちろんマベルとも──。そのうちに、エルドの魔道具の事で話があるって言い出して……今みたいな関係になってしまった……」

 もしかしたらマベルは、魔道具なんて口実で、どうにか会おうとしたんじゃないのか?
 気落ちしていたリンゼイを心配していた?
 やる事が破天荒なのはマベルなりの愛情表現か?

 すやすや寝ているマベルの顔を見るとイラッとして考えすぎだと思い直す。

 俺の知らない二人の事が気になったけれど、それ以上は聞くのはやめた。

「それより、ディノ。夜間外出は減点されるよ」
「そうだった! 戻らなきゃ」
「部屋の子たちも連帯責任になってしまうから、早く戻った方がいい」
「そうする。またな!」

 リンゼイと別れて急いで部屋に戻れば、メルフィスは俺を心配していたし、エーベルトが怒っていて説明を求められてしまった。
 二度とないようにするとみんなに誓って謝まる羽目になった。
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