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入学後

長期休み ②

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 寮の部屋にリンゼイと二人きりだ。
 不思議な感じだ……。

「どうぞ」
「ありがとう」

 とりあえずソファに座らせてお茶を出す。
 その前に座ろうとしたら、リンゼイに声をかけられた。

「隣に座らないの?」
「え……はい……」

 隣に座って良かったんだ。隣に座り直せば、触れ合いそうな距離にドキドキする。

「ふふっ。あの指輪……いいね」

 嬉しそうに言っているリンゼイに頷いた。

「離れていても声が聞こえるんですもんね」
「そうだね。ディノの声が聞けて嬉しいよ」
「……僕も……です……」

 声聞いたら会いたくなっちゃったけど……。
 リンゼイは、出したお茶に口をつけて微笑んだ。

「このお茶……美味しいね」
「エーベルトがいつも作ってくれるんですよ」
「茶葉の扱いが上手いんだね」

 そんな何気ない会話をしていれば、時間はあっという間に過ぎていく。

「ディノは眠くなったかな? そろそろ戻ろうか」

 そういえば、眠れないから連絡した事にしたんだった。

「えっと……はい」

 リンゼイは、明日も授業がある。
 俺のわがままに付き合わせるのはこれぐらいにしよう。

 立ち上がってドアへ行くリンゼイを見送る。
 エルドは一人でいるのが当たり前だったのに、今はこんなにも寂しい。

「ディノ? 寂しいの?」
「え?」

 気づけば、無意識にリンゼイの服の裾を握ってしまっていた。
 行かないでと言っているようなものだ。
 慌てて手を離した瞬間に腕を引かれた。
 ギュッと抱きしめられる。

「ごめん。そばにいるから──」
「あ……いや……」

 エルドだった時も、帰ってしまうリンゼイに素直に行かないでと言いたかった。

『もう帰るよ』
『ああ。また明日な』

 笑顔で見送る事しか出来なくて──。

 帰るなと言えていたら、こうやって一緒にいてくれたんだろうか……。

 この腕の中が……心地いい……。

 リンゼイは、俺をどう思っているんだろう……。
 こんな事をするのはディノを好きになったから?
 それとも、エルドだとわかっていて──?

 はっきりとした言葉がある訳じゃない。
 俺はエルドではないと否定した。
 もしももう一度聞かれたら、やっぱり否定する。

 俺がディノである限り、リンゼイと一緒にいても許される気がして──。

「ディノが寝るまで一緒にいよう。君のベッドはどれ?」
「あっちです……」

 自分のベッドを指差せば、リンゼイに手を引かれてベッドに向かった。
 ベッドに横になれば、ベッドの端に座って髪を撫でてくれる。

 リンゼイは、少し変わったような気がする。
 エルドの時は、恥ずかしがっていた事をディノだとやってくれる。
 抱き締めるなんてされた事はなかったし、むしろ俺の方が抱きついてた。
 恥ずかしがるリンゼイを揶揄ってやってたのに、ディノだとこっちが恥ずかしくなる事ばかりだ。

 そういえば、こうやって寝かせてくれた事もあったな……。

「リンゼイ先生、添い寝はしてくれないんですか?」

 その時の事を思い出してふざけてみる。
 あの時は、赤くなったリンゼイは、俺の手を握ってくれたんだ。
 同じように赤くなるかと思ったのに、リンゼイは赤くなるどころか俺の布団に入ってきた。

「あ、あれ……?」
「頭上げて」
「あ……はい……」

 言われるまま頭を上げてしまった。
 頭の下にリンゼイの腕が伸びてきた。
 腕枕って予想外だ。

「これは……」
「添い寝だよ」
「そう……ですよね」

 自分で言ったけれども! 本当にされるとは思わなかった!
 ドキドキと胸が音を立てる。
 こんなに近くで長時間いた事なんかない。

「ふふっ。そんなに緊張しなくていいよ」

 クスクスと笑うリンゼイに恥ずかしくなる。

「なんで平気なんですか……?」

 俺の方が翻弄されてしまっている。

「平気じゃないよ。ほら」

 リンゼイの胸に抱き寄せられた。
 リンゼイの鼓動がドキンドキンと激しく音を立てていた。
 俺と同じでちょっと笑ってしまった。

「すごい音してますね」
「こんな事平気でできないよ……」
「じゃあ、どうしてやってくれたんですか?」
「──後悔したくないから。すごくドキドキして、恥ずかしいけど……それ以上に嬉しいから……」

 照れたように笑ったリンゼイがすごく可愛かった。
 幸せすぎて困る……。

「俺もすごく嬉しい……」

 思わず普通に喋ってしまってからハッとする。

「あ……すみません……」
「その喋り方、好きだよ。私の前ではそうやって喋って欲しい」
「いいんですか?」
「うん。二人の時だけでいいから……名前も普通に呼んで」

 俺も前のように普通に呼びたい。

「リンゼイ……」

 そっと囁けば、リンゼイはみるみるうちに真っ赤になった。
 その顔を片手で隠したけれど、耳まで赤くなっていて隠しきれていない。
 リンゼイのこういう反応が好きだった。嬉しくなってもう一度呼ぶ。

「リンゼイ」
「もう……やめて……。嬉しすぎて……どうにかなりそうなんだ……」
「ははっ。リンゼイ……」

 俺の方からギュッと抱きつけば、リンゼイも抱きしめてくれた。

「もう寝て……」
「朝までいてくれる?」
「いるよ」

 一緒に寝るなんて初めてで、こんなにも嬉しいものなのかと思う。

「この休みの間だけでいいから、毎日来てくれないか?」
「……うん。わかった」

 嬉しくてリンゼイに擦り寄る。

「あとさ……俺、いつも裸で寝てるんだけど、服脱いでいい?」
「えっ!?」

 ここ一番の驚きようだった。そんなに驚かなくても……。

「パンツは履いてるんだけど、裸で寝ると気持ちいいから……」
「だめだ! 服着て寝て!」
「どうしても?」
「どうしても!」

 それなら仕方ない。
 寝れないわけではないのでそのまま寝る事にした。
 リンゼイの温もりは俺に嬉しさと安心感を与えてくれた。

     ◆◇◆

 朝目覚めた時、リンゼイはいなかった。
 都合の良い夢? とも思ったが、服を着て寝ていたので夢ではないらしい。
 起きればテーブルの上に『授業に行きます。仕事が終わったらまた来るから』と置き手紙にそうあった。
 やたらと嬉しくてはしゃいでしまい、ニヤけながらベッドに再びダイブした。
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