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入学後

今度こそ一緒に

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 真っ暗闇から目覚めた瞬間、ガバッと半身を起こした。
 ドクンドクンと心臓が嫌な音を立てて鳴っている。

 俺は──生きてる……。

 自分を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。
 俺は、ディノ・バスカルディとして学院で学んでいるんだ。
 今のは……夢か……。死んだ時の夢なんて碌なものじゃない。嫌な汗をかいていた。

 どれくらい寝ていたのか、辺りは暗くなっていた。

 ふと頬がツーと濡れた感触がした。頬に触れれば、指先が濡れた。
 俺は泣いていたらしい。

 ディノとしてここまでやってこれた……。
 このままいけば、俺は普通の魔法使いになれる。
 今度こそ学院を普通に卒業して、魔道具を作ってリンゼイと一緒にいる未来を作りたい。

 リンゼイ──そばにいたいんだ。

 諦めが悪いというか何というか……。
 今はまだ言えないけれど、普通の魔法使いになれたらその時は──。

「ディノ?」

 名前を呼ばれてビクッと跳ねた。
 振り向けばリンゼイがいて、こちらに歩いてきて隣に座った。
 さっきまで夢を見ていたせいで、やたらと意識してしまう。

「ディノ。こんな時間になぜここへ? 寮に戻らないといけない時間だよ」
「あ……リンゼイ先生に……用があって……」
「何だい?」
「う、腕輪! 腕輪見せて下さい」
「ああ。これね」

 リンゼイから腕輪を受け取って見れば、やはり魔力がなくなっている。

「何があったんですか?」
「いや……その……魔力を奪われてしまって……でも、それが守ってくれたから大丈夫」

 リンゼイは苦笑いしながら言いよどむ。

 魔力を奪われた? あの魔法陣──じゃないとすると……もしかして魔力の譲渡で無理やりって事か?

 胸の奥がムカッとした。やっぱり俺、嫉妬とかするんだな。エルドの時から自分は嫉妬深いのだとつくづく思っている。

 もう一度魔力を込めておくかと思った所でリンゼイに手首を掴まれた。
 そのままスッと腕輪を取られてしまった。

「これにはもう魔力を込めなくていい。マベルが少し怪しんでいたからね」
「でも! それなら、どうやって守ったら……」
「私だって一応三つ星なんだ。多少は抵抗出来ると思う。ディノは自分の事だけ考えて」

 微笑む顔にグッと口籠る。

「心配しなくても大丈夫だよ」
「でも、俺は! リンゼイを守りたいんだ──」

 リンゼイの為なら何でもしたい。
 リンゼイは、俺に向かって嬉しそうに笑う。

「ありがとう──ディノ。すごく嬉しい。でも、私よりも君の方が心配だよ」
「俺は……大丈夫だから……」

 俺よりもリンゼイを──。

「ふふっ。その喋り方、いつもと違うね」

 リンゼイに言われてハッとする。
 普通に喋ってた。
 思わず視線を逸らして前を向いてしまった。

「すみません……」
「あれ……?」

 そっと頬を指先で撫でられた。

「泣いたの?」
「あ……いえ……」

 慌てて涙のあとを隠そうと頬を擦る。
 次の瞬間、俺はリンゼイの腕の中にいた。

「な、何を──」
「泣かないで。もう寂しい思いはさせないから。私がずっとそばにいる」

 ギュッと抱き締める腕は、どこまでも優しかった。
 何もかも投げ出して縋りつきたくなる。

「もしも何かあった時は、今度こそ一緒に死なせて……」

 ゾクリとした。リンゼイが死ぬなんて考えたくない。
 リンゼイは何を言っているんだ!?

「死ぬなんて言わないで下さい!」
「それなら、一緒に生きて──」

 なんで……そんな事を……。
 リンゼイの言葉が胸に響いて重い。
 なんで死んだんだと責められているような気分だった。

 俺は、リンゼイさえ生きていてくれたらそれで良かった。

「リンゼイ……先生……」

 リンゼイの為なら何でもした。自分の死すら怖くなかった。
 俺が怖いのは、リンゼイが傷付けられる事だ。リンゼイが死んで俺だけ残されてしまうのは怖い。
 それなのに俺は、残されたリンゼイの事を考えていなかったんだ。

 ギュッとリンゼイの腕を握った。

「ディノが死んだら私も死ぬ。ディノがいる限り、私は死んだりしないから──だから、ディノもそうして欲しい」
「僕を脅してるみたいですね。それなら僕は、何が何でも生きなきゃいけませんね……」
「そうだよ。私の為に生きて──」

 リンゼイの為に生きる──死ぬ事ばかり考えていたエルドとは大違いだ。

 リンゼイと触れ合っている場所がとても温かくて離れたくなかった。
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