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入学後

防御魔法学

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 リンゼイは、教室に良く通る声で防御魔法の説明をする。

「防御魔法は非常に難しい。攻撃魔法が発動してから魔法陣を用意したのでは間に合わないからだ。防御魔法とは、自分自身を守るのはもちろん、大事な人を守る為の魔法だとも思って欲しい。自分の守る対象にあらゆる魔法陣を用意して対処しておく。それが防御魔法だ」

 リンゼイらしい説明になんだか微笑ましく思える。

「防御魔法の最上位は結界だけれど、使える人も限られる。だから、今日は初級防御魔法を覚えてもらう。防御魔法も臨機応変に攻撃魔法によって変えた方がメリットがある。例えば魔力消費が少なかったりするな。そこで、これ──」

 リンゼイは、クマのぬいぐるみを出して教卓に置いた。

「クマの彼が君たちの大事な人だったとする。守らなきゃいけない対象だ。彼を狙うのは無数の氷塊。君達は彼をどうやって守る? 決まったら手元の教科書にある魔法陣を私に教えて欲しい。さぁ、班に別れて考えて。何班かに実際にやってもらうよ」

 班はもう固定された感じ。
 俺はメルフィスと組む。

「氷だろう? それなら、火で溶かすか?」
「氷塊は水魔法の応用ですよ。火魔法の方が押し負けます。上手くいけば氷を溶かす事はできますけど、確かじゃない」
「そうか……なら、土で壁を作るとか?」
「土なら氷は防げますけど、その氷塊ってどこから飛んで来るんですかね? リンゼイ先生の言う無数の氷塊が全て前方から来るのなら防げます。それが、全方向だったら? 自分をぐるりと囲む土壁なんて窒息ものですね。魔力の消費も半端じゃない」

 ニッコリ笑顔で言ってやれば、メルフィスは眉間に皺を寄せる。

「意地が悪いな……」
「そういう授業ですよ」
「それなら、お前ならどうするんだ?」

 俺なら──相手との力量の差を見せつける為に敢えて火魔法で一瞬で蒸発させてやる。
 でも、そんな事はこの授業ではしてはいけない。
 初級魔法を使うとなると──

「同じ氷塊をぶつけましょう」
「──なるほどね」

 そうと決まれば二人で教科書を開く。

「あった。この魔法陣ですね」

 スッと手を挙げてリンゼイを呼ぶ。
 俺達の方に来ると教科書を覗き込んだ。

「これで対応します」
「了解。じゃあ、他の班が決まるまで待ってて」
「「はい」」

 次々と手が上がって全ての班が出揃った。

「それじゃ、コリー達の班に前に出てやってもらおうか」

 リンゼイはクマを床に置いて、離れると正面に立つ。
 コリーと同じ班の奴ら二人が前に出て、クマのぬいぐるみの横に魔法陣を置いて手を着いて構えた。

「あれ? 先生、魔法陣は?」
「私の魔法陣はこれ」

 リンゼイは右手の人差し指にある指輪を左手で触る。
 指輪をぐるりと囲む形で魔法陣が掘ってあるみたいだ。
 初級魔法は小さい魔法陣で済むので、そうやって指輪に刻んだり出来るので便利なんだよな。

 リンゼイは、クマに向かって人差し指を前に向けた。

「始めるよ」
「は、はい!」

 リンゼイの正面に無数の拳大ぐらいの氷塊が現れて、クマ目掛けて真っ直ぐに飛んでいく。

 正面だけからか……優しい魔法だ。

 魔法陣を発動させるのはコリーみたいだ。
 魔法陣に手を着いていたコリーは、クマの前に火柱を出した。

 氷塊は炎で溶け始めたけれど、そのまま貫通して小さくなった氷塊がクマにコツンっと当たった。

「あ……」

 メルフィスが思わず声を出す。
 やっぱりな……火魔法じゃ塞ぎきれなかった。

「火魔法でも氷は溶けるから目の付け所は良かった。でも、もう少し上級の火魔法じゃないと溶け切らない。クマが本物の人で、私が放った氷塊がもっと大きいものだったら、クマの彼は怪我をしていたよ」
「はい……」

 コリー達はがっかりしながら席に戻っていく。

「そう落ち込まないで。今ので防御の重要性がわかったでしょう? 授業は失敗してもいい。本番で失敗しないようにしような」

 生徒のフォローもする。
 なんだよ……ちゃんと先生やってんじゃん……。

 次の班が見せたのは土壁で防ぐ方法だ。
 クマの前に出現した土壁で全ての氷塊が砕けた。

「良かったよ。でも、もしも全方向からの攻撃だったらそれじゃ塞ぎきれないから気をつけて」
「ディノと同じ事言ってるな……」

 メルフィスがボソリと呟いた言葉にクスクスと笑う。
 そりゃ、同じ魔法使いだったからね。

「じゃあ、次はメルフィス達の班」

 メルフィスが俺に囁いてくる。

「お前……また俺にやらせる気だな……」
「僕がやってもいいですけど、発動する前にクマの彼は亡くなりますね」

 ニコニコと言ってやれば、チッと舌打ちされた。
 それでも、クマの横に行き魔法陣を置いて手をついてやってくれるんだからメルフィスっていいやつ。

 リンゼイの出した氷塊をメルフィスが出した氷塊でぶつけ合って砕けた。
 氷の粒がキラキラと輝いて綺麗に見えた。
 その向こう側にいるリンゼイが俺にはもっと眩しく映って目を伏せる。

「合格。氷塊はこうやって同じ物をぶつけ合うと比較的簡単に壊れる。もしもこれが氷塊じゃなく風だったら? ローラン、答えて」
「──……同じように風をぶつけて勢いを止める……」
「そう。火だったら?」
「水魔法なら押し勝てる!」

 クラスの誰かが言った。

「正解。良くわかったね。火魔法をぶつけあっても勢いは止まらない。そこは押し負ける可能性が出てしまうから、火に有利な水を使う方が防御の性能が高い」

 ワイワイと盛り上がって、こうしたらいいとかお互いの意見を出し合っていた。
 みんな楽しそうに防御魔法を学んでいた。

「それじゃ、もう終わりになるけれど、何か質問は?」

 一人の生徒が手を挙げた。

「リンゼイ先生は、エルド・クリスティアの結界を見たことがあるって本当ですか?」

 何気ない質問に俺の方がドキリとした。

「本当だよ──」
「どんなのだったんですか!? 何も通さない結界ってできるんですか!?」

 結界の強度はその人の想いの表れだ。
 強く守りたいと思うほど結界に与える魔力は大きく強度も強くなる。

「エルド・クリスティアにはできたんだ。彼は、魔石に貯めた魔力を一気に使って……何も通さない結界に使ったんだ……」

 教室がシーンと静まり返る。

 俺は色んな魔石に魔力を込めていた。
 その中でもリンゼイにやった腕輪には、俺の魔力の殆どを込めるぐらいの魔力を込めた。
 俺がそばにいなくても、リンゼイを守れるように──。

「すっげー……」
「やっぱりエルドは違いますね!」
「先生、結界も防御魔法だから、エルドにもそれだけ守りたい人がいたって事ですよね?」

 リンゼイは悲しそうに笑った。

「──さぁ……どうなんだろうね……」

 胸の奥がギュッと締め付けられる。

 俺はお前を守りたかった。何も後悔なんてしていない。
 俺が死んだのはお前のせいじゃない。俺はお前だけでも守れて嬉しいんだ。
 だから、自分を責めないで欲しい。

 そう言ってやりたい──。

 あふれ出そうな想いを誤魔化そうとリンゼイから視線を逸らした。
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